3 薄れる記憶
ヒビキから受け取った通信端末は、初めから電源を切ってある。
基本的にはナナカに通信を任せ、エイジの持つものは臨時にのみ使用するつもりのようだ。
「さて、行くか」
「エイジは後ろを歩いて。前に誰かがいると視界に敵を捉えた時にすぐに襲えないし」
「……そうか」
銃を持っているエイジが後ろに立つのは、悪くないだろう。
銃は足止め程度にしかつかえないが、それでもなにも持たないよりいい。
エイジは武器を一切持たないナナカを見つめる。
おかしいのは彼女の方だ。
素手で戦えると彼女は言っているが、果たして本当にうまくいくのだろうか。
相手はガラス人間だけじゃないというのに。
「はぐれた場所はどこだ? まずはそこに向かって考えよう」
「たぶんあっち」
ナナカは指をさす。
「適当だな」
「あってるってば。記憶はいい方なのよ?」
ナナカに付いて歩いていく。
珍しく快晴だった。
エイジはぼんやりと空を見上げる。
ずいぶん暖かい。
これからさらに冷えることなんてあるのだろうか。
大事なことを忘れているのかもしれない。
もう一人の助手と合流して帰る頃には、ヒビキは調べ終えているだろう。
「エイジ」
「ん? なんだ?」
「エッジと戦ったことは?」
「……なるほどな」
遠くに、なにかが飛んでいるのが見える。
その前に人が走っていた。
エッジから逃げているようだ。
「手を出さなくていいから」
そう言って、ナナカは走り出した。
踏み込むたびに積もった雪が舞い、彼女はエッジに向けて一直線に走っていく。
「KA――」
追いかけていた人間から目を離し、エッジはナナカを脅威として認識した。
襲うことはあっても、襲われることはない。
針をナナカに向ける。
耳につく羽音を奏でて――
「――――A」
気づけば、エッジは雪の上を転がっていた。
エッジはなにもかもを見逃さない脅威の視力を持っている。
自分に向かってくるナナカの姿を見逃すはずがなかった。
もう一度飛び上がろうと羽を伸ばす。
そして――
「どう? 地面の感触は?」
背中にあるはずの羽を、ナナカが抱えていた。
背中に堂々と座り込み、禍々しい目を見下ろしている。
「嘘だろ……」
エイジはその一部始終を遠くから眺めていた。
走っていたはずのナナカが、いつの間にかエッジの羽を奪い――その瞬間をエイジには視認することができなかった。
瞬きの一瞬、ナナカが姿を消し、そして、気づけば戦いは終わっていたのだ。
「あたしは出来る子って、これでわかってくれたー?」
のんきに声をあげるナナカ。
羽を頭部に突き立てて、ナナカはエイジのもとに戻ってきた。
エッジはもう動かない。
エイジにはできないことだ。
「一匹くらいならあたし一人でなんとかできるから。覚えておいて」
「覚えておく。驚いたよ」
ナナカの頭をぽんぽんと叩いて、腰を抜かして動かない少年に声を掛ける。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫」
服は大人の服を無理やり着ているだけで、サイズはあっていない。
じっとエイジの顔を見て、なにかを言いたそうな様子だった。
「名前は?」
「……カナメです」
「珍しい名前ね」
ナナカはカナメの頭を撫でる。
確かに、なかなかない名前だろう。
歳はナナカより少し下だろうか。
見る限りではそれほど差がないように見えるが。
「エイジ、黙ってどうしたの?」
「昔の知り合いが同じ名前だった。思い返していただけだ」
もう十年より前のことは、幼かった頃のことは――もう曖昧にも覚えていない。




