アルカトラズダンジョンの今
だんじょん荘と白浜拘置所を合わせた入居者は、わずか2年でに130万人を越え、出入りの業者がどうなってるのか、ダンジョン課でも把握できなくなっていた。
それだけ人がいれば、入手できるDPも莫大で、吸い上げては白浜ダンジョンに供給し、魔物がガンガン発生し、住人がガンガン狩り、魔石やその他ドロップアイテムをガンガン産出していた。
ドロップアイテムは、半分がハズレだけど。
白浜や雲のダンジョンから産出する魔石が、商用運用できる量に達し、電力各社は国内の火力・原子力電力を、徐々に魔石発電に変える事を発表した。
乗用車は電気自動車に置き換わる動きが加速し、国内の新車からエンジンが消えた。
当然エンジンや燃料系統の部品を作っていた工場はのきなみ倒産し、中京・近畿地区からは大量の失業が白浜に押し寄せた。
近い将来、化石燃料は船舶と航空機にだけ使われるだろう。
石油元売り各社は、さぞ業績を落とすだろうと思ったが、ガソリンがなくなっても、その分電気が必要になるからと、発電事業を推進してるのだそうだ。
俺が異世界から帰ったとき、既に電気自動車が浸透しつつあったから、あまり混乱しなかったんだろうな。
そんなエネルギー改革が進行する中、S&W営業のブラウンが来日した。
「ヘ~イゲンターっ。」
「ブラウン久しぶり。
ゲイリー・ガイギャックスの報告書面白かったよ。」
丁度メシ時だったので、ブラウンをバーベキュー場に誘い、互いの近況を話しあった。
ブラウンによると、一時は倒産の危機にあったS&Wは、ダンジョン保有国向けの武器輸出が好調で、業績が急速に回復してるそうだ。
S&Wからもらった報告書の件では、異世界に召喚されるタイミングに法則性があった事と、ゲイリー・ガイギャックスとデイヴ・アーンソンがダンジョンを知ったきっかけに、異世界が絡んでる可能性がある事で会話が弾んだ。
「と言うわけで、デイヴ・アーンソンが訪れた城を調査するため、フランスに渡りたいんだけど、どうにかならないかな。」
現在、俺自身とロシアの関係は最悪で、ロシアが開拓した北極海航路を通るのは危険だ、東南アジアもインドネシアが産油国なので、俺は目の敵にされている。
中央アジアも天然ガスを産出する国から敵視され、隙あらば国家ぐるみで抹殺しようと企んでるはずだ。
中東は論外、中南米も産油国がそれなりにあるので厳しい。
チリ・ブラジルからは大西洋に出られそうだが大西洋は島が少ない、ブラジルからヨーロッパは遠すぎる。
アメリカも州によっては嫌われてるだろうけど、国全体としては、ダンジョンから得られる資源の方に価値を見いだしているから、腹いせにいきなり狙撃してくる程度だろう。
現実的には大平洋を渡り、北米を横断して大西洋に出るか、アラスカから北極海を横断して北欧に上陸するかの2択だが、アラスカ~北欧は極寒の上にロシアが必死に抵抗して来るだろうな。
しかし大平洋横断は、白浜ダンジョンの保守管理を考えると、時間が足りない。
海上交通が少ないアラスカ湾と違って、大平洋にダンジョンの入口(大渦)なんか作ったら、いろいろな所から怒られるのは必至だ。
雲のダンジョンの近くの大渦でも、めちゃくちゃ抗議されたもんな、おかげで年間1億円の漁業保証する羽目になったよ。
「大丈夫でーす。
アルカトラズダンジョンと南紀白浜空港ダンジョンのトランスポータルが決定しましたーっ。」
「マジかっ。」
日本~カリフォルニア路線は航空各社にとってそこそこ黒字だったはず。
収支がギリ黒字で、どこか撤退したがっていた南米路線とは訳が違うはずだ。
「大丈夫ですか?航空各社とか。
どこもトランスポータルの罠には神経とがらせてますよ。」
「アルカトラズの5階層に仕掛ければ大丈夫でーす。
一般人そこまで来れませーん。」
「今の所はね。」
アルカトラズダンジョンの5階層は、普通にドラゴンが徘徊してるそうだ。
まだ5階層なのにドラゴンがザコかよ。
異世界には50階層なんてダンジョンもあったぞ、このまま成長したらどうなるんだ?
「でも、俺がダンジョン作ったとき、まだ1階層しかなかったから、5階層を知らないんだ。
だから、現地に行かないとトランスポータルの罠は設置できないんだよな。」
「おーまいがーっ!」
ブラウンがオーバーリアクションで悔しがる。
「まあ、密入国してもいいなら、手はあるけど。」
「さすがにそれはまずいでーす。」
南紀白浜空港で出国手続きだけして、一路ダンジョン丸で海のダンジョンを目指した。
そして、海のダンジョンを改造し日本側の入口付近にトランスポータルの罠を仕掛けた。
行き先はアラスカ湾側の出口付近だ。
海のダンジョンは、大渦にびびってまともな船乗りは寄り付かないから、俺専用のトランスポータルを設けてもも問題ないだろう。
「初めからこうすれば良かった。」
アラスカ湾からアルカトラズダンジョンがあるサンフランシスコまでは、ダンジョン丸で3日の距離だ。
コードバに寄港して、休憩がてら様子を見たかったが、方向が逆なので、今回はあきらめて海上で睡眠を取る強行軍にした。
2年ぶりのサンフランシスコは、前回のようなウエルカムスナイパーから狙撃される事もなく終始平和だった、でもなんとなく寂しい。
不景気の影響か、町にはあまり活気が無い。
ただ、それもアルカトラズ島だけは例外だった。
以前は建物に敷設されていた銃座は撤去され、船着き場の周辺は銃砲店が軒を連ねていた。
元刑務所の一部は、探索者用の仮眠施設として解放され、誰でも無料で利用できるようになっている。都合良く鉄格子なので、防犯もバッチリだ。
ダンジョン周辺は人であふれかえっていて、誰もがグレードランチャーやらロケットランチャーやらを装備している。
中にはツバイハンダーのようなヘビー級の両手剣を装備してる奴もいる、ここは魔鉄の産地だから、魔剣か何かだろう。
ちなみに、魔鉄の武器と普通の武器では、以下のような違いがある。
・普通の武器
身体能力✕スキル補正+武器=破壊力
・魔鉄やヒヒイロカネ
(身体能力+武器)✕スキル補正=破壊力
物騒なブツを持ち歩いてるのに、探索者はどこかその辺に散歩に行くかのようにダンジョンに入って行った。
殺伐としていて、どこか平和的な不思議な光景だった。
「1階層と2階層は、攻略法が確立されたから、みんな余裕なんだ。」
俺につけられたガイド兼お目付け役が、教えてくれた。
「ビホルダーはどうしてるんですか?」
「魔水晶だ。
あれを持ってる奴に、なぜかビホルダーは攻撃できないんだ。」
前回俺がビホルダーを倒したとき、魔石じゃなく魔水晶をドロップしたけど、アレって魔除けとかそういう物じゃなかったはずだ。
異世界じゃ金貨千枚とかしたけど、たかが魔除けにそんなに出さないよな。
「3階層のT-REXにも効くんだぜ。」
「はい?魔水晶って、そういう物なんだっけ?
魔除けみたいな物なの?」
「いや、効果あるのはドラゴン系だけだぜ。」
ビホルダーはウロコがドラゴンだから、ドラゴン系に含まれるのか?
でも、見た感じじゃゲイザー系なんだよな。
系統ごとに弱点があるなら、キマイラなんか蛇・ライオン・ヤギの3種の弱点を抱えてる事になる。
キマイラがザコになっちゃうじゃないか。
魔水晶の正体は気になるが、そんなのトランスポータルの罠を設置してからゆっくり考察できる、今はお仕事だ。
3階層のT-REXは、全高10mはあろうかというティラノサウルスで、見ごたえはあったが、体色は緑だったのでイマイチ迫力に欠けた。
興味半分で『影走り』の魔法を使い、自分の影を走らせたら、奴は火球をボンボコ連射してきた。
T-REXじゃねーよ、こいつT-REXファイアーだ。。
ありゃ、ワイバーンの火球より強いな。
ワイバーンは北海道のヒグマ並の怪力と、T-REXファイアーには劣るが火球を空中からブッ放してくる難敵で、確かミクロネシア連邦のトラックダンジョンの1階層に出てくるザコキャラだ。
ワイバーンがザコって、異世界じゃドラゴン系のダンジョンで最初のボスだったりするのに・・・やっぱり地球のダンジョンは異常だな。
T-REXファイアーは今の俺では倒すのに時間がかかりそうだ。
1体しか出ないボス部屋は、魔物との遭遇率を下げられない、なので3階層の壁に迂回路を作って4階層をぶち抜き5階層に下りた。
ちなみにこの迂回路の入口は、扉に幻影の罠を重ね掛けした隠し扉だ。
俺専用の扉にもできたが、調整が面倒なのでオーソドックスな扉と鍵にした。
一見するとダンジョンの壁と見分けが付かず、触ればそこには実体がある、探知系のスキルや魔法に備え、扉は罠と認識されるように細工した。
仮に見つかったとしても、鍵がないと開かないから問題ないだろう。
早い所5階層にトランスポータルの罠を仕掛けて撤収しよう。
幸い、この階層の魔物はでかい、隠し通路の近くに人が1人這って入れるくらいの 穴があったので、その先にトランスポータルの罠を仕掛けとけば大丈夫だろう。
入口には探索者対策に、迂回路と同じ幻影と扉を仕掛ければ完璧だ。
そう思った時期が俺にもありました。
1ヶ月後、幻影と扉はあっさり発見されてしまった。
盲目の探索者と一緒に潜った盲導犬が、匂いで扉を発見してしまったのだ。
お前!何で盲導犬連れてダンジョン潜るんだよ!すなおに白浜ダンジョンで『魔力探知』や『魔力感知』のスキル覚えとけよ!
探索者は、本当に斜め上に行動するな!
しかも扉の鍵は、T-REXファイアーを倒した後に出てくる宝箱に希に入ってるようになるし、ダンジョンもおかしな事になってるぞ。
隠し扉発見から数日で、5階層への隠し通路は有名になったが、航空会社の被害は少なかった。
短い距離だが、ドラゴンがうろつく5階層は一般人には危険すぎ、最後の這って進む狭い通路のせいで荷物を運べないと、旅行客が嫌ったせいだ。
結果、アルカトラズダンジョンのトランスポータルは、ほぼ俺専用となったのだった。
以後、俺はアメリカ西海岸の都市近郊に、多くのダンジョンを産み出していくのであった。
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