オリンピックとうなる?
ナウルやらニウエやら、聞いたことがない南大平洋の島国に、およそ2週に1ヶ所のペースでダンジョンを作りながら、白浜ダンジョンの管理をしてると、あっという間に年が開け、オリンピックイヤーになった。
去年は各競技の世界大会で、日本や韓国といったダンジョン保有国が大躍進し、幾度となくスキルの是非が議論されてきた。
当初はスキル禁止を絶対としていたIOCだったが、それをやるとダンジョンが普及した国々をのきなみ大会から閉め出すことになり、放映料の大幅低下が予想された。
しかし、ダンジョン保有国の参加を認めてしまうと、今度はダンジョンを保有しない国々の選手が圧倒的に不利になる。
元太のもとにも、スキルを無効にする方法はないか?と相談が来たが、答えは不可能だった。
魔法なら干渉で無効化できるが、スキルは干渉しないのだ。
結果、スキルを認めるか否かは、各大会の主宰者おのびスポーツ連盟に任される事となった。
そんなわけで、IOCが明確な基準を出せれない今回のリスボン五輪は荒れると予想されている。
スポーツ業界が大混乱してる中、我が白浜ダンジョンには、スキルを修得すべく、各国の有名選手が集結していた。
各国の軍隊が訓練していた施設は、400mトラックだけでも50面に増設され、その他テニスコートやらバスケットボール場やらボルダリング用の壁やらが追加されたが、プールだけは適温にできないため追加できなかった。
特にボルダリング用の壁は、他の競技の選手や探索者にも人気で、200パターン用意した。
「大家さん、この壁もっと高いのとかできませんか?」
「できるけど?」
「なんか、すっげー高いのやってみたい。」
四条にねだられて、30m→50mとだんだんと高くして、ついには100mのボルダリングの壁を作ってしまったが、作ったその日にオランダのアルフォンス選手に制覇された。
「ゲンタ、ヌルいな。」
100mの高みから見下ろすアルフォンス選手にちとイラッとした俺は、半ばやけくそで1000mの壁を作り上げた。
が、これはアルフォンス選手の罠だった。
難易度を確認すために、試しに10m登ったところ・・・
『新規スキル取得 絶壁踏破』
げっ!こんなスキルあったのか。
ダンジョンに絶壁を作るときは登れないように作るから、知らなかったよ。
権能は、崖を登るとき関連する身体能力が1%上昇するという物だった。
レベル1は1%で大したことがないが、100mを登ったアルフォンス選手は、レベル2の
5%上昇を獲得しているはずだ。
ならばと気がつくはずだ。
1000mなら、レベル3が手に入るはずだと。
レベル3は20%上昇だ、死ぬ気で鍛えても、スキル保有者に勝てるはずがない。
アルフォンス選手は、見事俺が作った頭オカシイ1000mの壁を制覇し、『絶壁踏破』のスキルのレベル3を手に入れた。
「よし、次は1万mだ。」
「エベレストより高いじゃないか!」
オリンピックを目指す選手は、強さに対す渇望がおかしいな。
「やったーっ、1000mクリアだ!」
四条よ、お前も頭がおかしかったな。
なんて事があり、選手の皆さんは、鍛練に励んではダンジョンで便利そうなスキルを次々と身につけていった。
オリンピックを目指す選手は、強さに対する渇望がおかしい。
俺がフィジーにダンジョンを作ろうとクック諸島行きのトランスポータルの罠を使おうと思ったときだった。
「がはっ!」
『聴力強化』のスキルで強化された俺の耳は、声にならない悲鳴をキャッチした。
まさか、南紀白浜空港ダンジョンに潜ってる奴がいるのか!?
ここは、空港施設以外はどうなってるか分からない。
ここのコアは確か、ヤクタットのでかい白熊の魔石から作った奴か、一体何が出るんだ?
俺は銃刀法違反を覚悟で四天王の矛を手にすると、慎重に急いで声のする方に向かった。
そこにいたのは、一人の黒人女性だけだった。
「大丈夫か?」
とっさに声をかけたが、そこには魔物の姿はない。
出血がないようだが、女性はなぜか身動きが取れないようで、歯を食い縛っていた。
近くには『治療』の魔法で使う笏が転がっていた。
一体どういう状況だ?
俺は訳が分からないまま『治療』の魔法を発動した。
「たっ、助かりました。」
彼女によると、『筋力強化』の魔法を極限まで使って、筋繊維を切断し、『治療』の魔法で回復して筋繊維を太くしようとしたらしい。
しかし、筋繊維より先に骨が砕けてしまったそうだ。
そりゃそうだ、『筋力強化』の魔法は本来、筋肉を痛めないように保護してあり、骨の強度など全く考慮されてないのだ。
それを地球で使ったら、人体の限界を越えてから筋肉の保護が働く、骨なんか砕けるだろう。
「おかげで『骨格強化』のスキルが手に入りました。」
「あっ・・・そう・・・」
ちなみに、わざわざ南紀白浜空港ダンジョンに来たのは、だんじょん荘や白浜ダンジョンより、外の方が『治療』の魔法の効果が高いと思ったからだそうだ。
正解です。
「『骨格強化』のスキルがレベル3に上がるには、100回骨折すればいいんですよね。」
「そりゃそうだけど、骨折ってめちゃくちゃきつくないですか?」
漫画や小説だと骨折しても平気で戦闘を続けているけど、実際は無理だ。
その場から動くのだって、凄まじい精神力がいる。
それを100回って、頭オカシイぞ。
もしかして痛覚無効とか、そういうスキルがあるのか?
無いよな、こいつ骨折る度に痛さで気絶しそうだもん。
こわなことするなら、トレーナーくらいつけろよ、こいつの脳ミソどうなってんだ?脳ミソぐっちゃんぐっちゃん病にでもかかってるのか?
確かに『骨格強化』のスキルは、あらゆる運動に有利だけど、そこまでして欲しいスキルとは思えない。
俺がおかしいのか?そんなことないと思うんだけどな。
オリンピックを目指す選手は、強さに対する渇望がおかしい。
過去に、寿命が半分になる代わりに金メダル取れるようになるほど強化できる薬があったら使うか?と聞いたところ、全ての選手が使うと答えたそうだ。
まあ、老後なんかいらないと考えたのかも知れないけど、人生80年と考えると、40才で死ぬ事になる。
40才はまだ早いな。
久々にだんじょん荘の外を散歩してると、コンビニが3階建てになってたり、カラオケ屋が何件もあったり、トレーニングジムみたいのが建っていたり、結構様変りしていた。
俺は、ふとトレーニングジムを覗いて言葉を失った。
「何だアレは・・・」
そこでは、600kgのバーベルを持ち上げている男がいた。
ロシアのジェミヤン選手だそうだ。
おどろくべきはその肉体だ。
筋肉が邪魔で、きをつけができないのは当然として、肘も筋肉が邪魔で90度までしか曲がらない。
太ももは普通の男性の胴回りくらいありそうで、靴下をはいてなかった。ふくらはぎが太すぎて、入る靴下がないんだろうな。
僧帽筋も鍛えすぎてどこが首だか分からず、背筋はブ厚すぎてもはや装甲だ。
アレ『装甲』の魔法なしでも銃弾はねかえすんじゃないか?
絶対ドーピングしてんだろコイツ!
「凄い体ですね、ドーピングですか?」
俺は思わず声をかけてしまった。
「はっはっはっ!面白い事言うね。
ドーピングな訳ないじゃないか。
『治療』と『筋力強化』の魔法の会わせ技だよ。」
コイツ、南紀白浜空港ダンジョンにいた黒人女性と同じく、『筋力強化』の魔法を使って骨を砕き、『骨格強化』のスキルをレベル4まで上げた後、無謀なトレーニングしては『治療』の魔法で筋肉を補修してるそうだ。
「『筋力強化』の魔法で砕けるのは弱い骨だ。
治ったとき骨が太くなるから、それだけでも強化されるんだぜ。と、シジョーコーキは言ってたぞ。」
これ考えたの四条かよ。
わざと骨折するとか、あいつは頭がおかしいな、知ってたけど。
「なるほど、それはドーピングとは違いますね。
でも、そんな量のカルシウムどうやって補給してるんですか?」
「普通にウエハースダンジョンだが?あと空港で売ってたイワシの骨せんべい。」
なるほど、ウエハースダンジョンを食べて栄養バランスを保ってるのか、お買い上げ頂いてる以上、ドーピングだとは口が裂けても言えない。
たんぱく源は、普通にリンダ牧場だろうな。
まだまだ家畜の数は足りないけど。
「怪しい薬使ってないから内臓痛めないし、『治療』の魔法があるから、どんな厳しい特訓しても選手生命が絶たれる事もない。
これからもどんどん力強くなるぞ。
応援よろしくな。」
「はい、頑張ってください。」
この筋肉ダルマまだやる気だよ。
こいつ既に人間やめてるな。
リスボン五輪の次はイスタンブール五輪だ。
しかし、6年後の冬の五輪は、全ての国が誘致を取り下げてしまったらしい。
大丈夫かオリンピック、この先スポーツはどうなっちまうんだ?
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