8.うきうきマレンポー
地馳さまの座の三人は受け取った止まり木を回したり、ひっくり返したりしてしげしげ見る。
「この横木にお屑さまがつかまってくれるということですか」
――うむ! 寝るときなど便利なのじゃ!
おお、使用者からの感想。ジュスタはにこにこしてる。
「それで、これはどこかに置く物ですね」
「ダメじゃん。物置く場所なんかないぞ」
「まず、お屑さまがここにいてくれるか聞いてみようよ、マレンポー」
「このお屑さまに聞きゃあいーんじゃねーの?」
システーナが腕ごとお屑さまの腕輪を差し出す。
――わしではないがわしは、しばらくここにおってもよいのじゃ! 引き留められれば同じ所に長くいるのじゃ!
「岩の間にはさまってるお屑さまもいるらしーからな」
――そうなのじゃ! 岩が引き留めるのじゃ! わしは偉大な竜ゆえ、仕方のないことなのじゃ!
岩にはさまったままなんて大変そうだけど、お屑さまは岩とおしゃべりするのかな?
「じゃあ、ナームの所に行きましょう」
「待って待って、マレンポー、みんながイライラだよ」
カウの褐色の手がマレンポーのもふマントを引っ張る。
――おれ、行くか?
――でも、マレンポーたち、足遅いぞ。竜さま、追いつけない。
――おれ、イライラいやだぞ。行くぞ。
三羽のアミョーたちが頭を高くしたり、首をかしげたりして聞いてくる。
一瞬じゃ、どのアミョーが誰か分からない。
ばっと駆け出して、群れのアミョーたちに駆けこんだのは、蹴爪にポポの黄色。ストストみたい。
アミャ! アミャ! ミャーウッア!
リズミカルに鳴きながら、スキップして小競り合いの間を駆け回る。
「カタッカとクフプも頼みます。わたしたちも、たまには走るか歩きますよ」
――おう。走る練習、いいぞ。
――カタッカ、行くぞ。
二羽も駆け出して、それぞれ鳴きながらアミョーの群れを駆け巡る。
ウー――――――カッカッカッカッ!
低い鳴き声のあと、くちばしを打ち鳴らすような音が響く。
アミョーはいろんな鳴き方ができるみたい。
「――お? なんか、変わりましたよ」
あっちこっちでアミョーが大きく羽を広げて小競り合いしてるのは変わらない。でも、なんだか感じが違う。
「もしかすると、あの浮いているものはアミョーの思考ですか?」
「えー! すげー! よく分かるな!」
カウがニーノを珍しそうにじろじろ見る。マレンポーがそばかすいっぱいの頰をにーっとさせた。
「本当にすごい。ニーノさんはこの世界の物の考え方に精通してるんですね」
「何ですか? あの透明で浮かんでる形のことですか?」
ニーノは眉をひそめながら、軽く頷く。
「説明は私のものではない。マレンポーさん」
「見慣れぬことがあったら、たいていは特性が関わってると思っていいってことかな? 面白いですねー! あ、でも、竜の座だからということですか」
「マレンポー、訊かれてるよ?」
カウが呆れた顔で指摘する。黒くてぴかぴかのペードはカタッカたちを眺めたまま。
「あ、説明ですよね! わたしがここに来たときってアミョーしかいなかったんですよ。人間のわたしにもアミョーたちは親切にしてくれるんですけど、やっぱり人間のコミュニケーションは言葉に依存してるから言葉が欲しかったんですよね。特にアミョーは野で生きる生き物です。困っていることは表に出さないから、ケガしていることを隠したまま、いつの間にか群れから消えちゃうみたいなこともありました。とっても悲しくて……」
「マレンポー、話長いよ!」
ペードが叫ぶ。
「ああ、そうか。すごく簡単にまとめると、意思疎通できるようになるのがわたしの特性なんですよ。この群れ……座というべきですか――はアミョーが大多数ですから、アミョーの思考が見えるようになっているんです」
「さっきまで、アミョーたちの上に出てる形が濃い色になってたの、気づいた?」
ペードが腰から細長い筒を取り出して、口に当てる。珍しい形だけど、水筒かな。
「形がはっきりして、色が強く見えると、こう……なんか、ぎゅーっと押されてるみたいな感じ、たいていイライラしてるんだ」
両手で空気をぎゅーっとつぶしながらカウが言う。
「でも、言葉じゃないですね」
「そう! いいところに気がついたね!」
疑問を口にしたら、マレンポーが嬉しそうに目をキラキラさせた。
「アミョーたちは思考を言語で組み立てていないんですよ! だからわたしの特性は翻訳みたいな性質にならなかったんだと思います。結局、アミョーたちの近くに浮かぶあれを見てわたしたちで判断しないといけない。色、形、面積……容積かな? から、こういう気持ちなんだというのを推測するんです」
「私たちにも見えるということは、マレンポーさんの特性はあなた個人に留まらないということですか」
「……え、えー!」
……あれ? マレンポーからキラキラがどんどんあふれてるように見える。
「エーヴェさんとニーノさんでしたっけ? え、どうしてそんなにいいところに気がつくんですか? 一般的に、特性って個人にしか及ばないんですか? 確かにカウやペードは……」
「マーレーンーポー――! 話はあとにしようよー! お屑さまのところに行きたいー!」
カウがぶーぶー抗議した。
「あたしもー! お屑さまが二人になるところ見てーよー」
システーナも便乗する。
――そうなのじゃ! 早くわしではないわしに会いに行くのじゃ! マレンポーの話は長すぎるのじゃ!
お屑さまが激しくぴこんぴこんした。
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