18.長い心配
「貴様ら、何をしている」
響いた声にシステーナと一緒に凍りついた。
「……ニーノ、おはようございます」
「何をしている」
ニーノが一欠片の笑みもなく、空中から降りてくる。
「えーっと……」
――山の糞に飛びかかっておったのじゃ!
お屑さまに暴露された。
「りゅーさまのウンコの感触を確かめましたよ!」
「そーそーそー!」
ニーノの凍てつく視線が、私からシステーナの顔をなでて、また戻ってくる。
「竜さまに説明はしたか」
「お? せつめい……」
ニーノの気配がどんどん冷たくなる。
「システーナ」
「おー? えー? せつめー?」
重々しく名前を呼ばれて、システーナが首をかしげた。
「竜さまのウンコでやったーって思っただけだぜー」
ニーノの眉間にしわが寄った。
「貴様……、貴様の糞に他の生き物が付いていたらどう思う」
首を傾ける。
「きっと……食べてます!」
「そうだ。たいていの生き物はそう考える」
――違うのじゃ! ジュスタもエーヴェも知りたいだけなのじゃ!
ぴこんぴこんするお屑さまに、ニーノは恭しく頷く。
「お屑さまは偉大で聡明なので、当然、貴様らが好奇心で振る舞っていることをご存じだ。しかし、もしお影さまが、貴様らの浅はかな振る舞いをご覧になったらどうする」
「あ、さ、は、か!」
システーナがびっくりしてる。
「万が一、お影さまが人間は竜さまの糞を食べると思われ、今後、赤子がお影さまの近くに落ちたとき、ご自身の糞を与えたらどうする」
「なんと!」
……とっても長い心配!
「そりゃあ、めちゃくちゃまじーな!」
「はい! たいへんな不幸です!」
せっかく竜さまの付き人になれても、ウンコを食べさせられたらとっても悲しい。この世界が嫌いになっちゃう。
「まずはきちんと説明し、許可を取るべきだ」
「ほおー!」
システーナは拍手してる。
「システーナ」
「あ、はいはい! 分かった! 気をつけるぜ!」
「説明は大事です」
竜さまは気にしてないけど、お話しできるんだから説明したほうが不幸な誤解が生まれない。
――影はそんな勘違いをせんのじゃ!
「はい。申し訳ありません」
ニーノはお屑さまにまた、恭しく頭を下げる。
――今は寝ておる。
竜さまが言って、大きく口を開けた。
あくびかな?
竜さまの後ろで丸まってるお影さまは、呼吸で大きくなったり小さくなったりするだけで、ぐっすり眠ってる。
「そういえば、お影さまは何を食べますか?」
竜さまは鉱石を食べるから、糞もこんなでカルメ焼きみたいだけど、他の動物の糞は――人間も――前の世界と変わりない。食べ物のかす。
「そーいや、知らねーな」
――この星では見ぬ生き物なのじゃ!
お屑さまがぴこんっと大きく伸びた。
「え? いませんか?」
――おそらくおらぬ。
頭にふわっとイメージが浮かぶ。羽が生えたトカゲみたいな生き物が見える。たくさん飛んでて、ちょっと怖い。
「じゃあ、お影さま、何食ってたんです?」
――何も。
竜さまの答えにびっくりした。
「なんと!」
ニーノも目を見張ってる。
――影は溶岩の上で温まって、飢えをしのいでおるのじゃ! 温まると元気なのじゃ!
じゃあ、お影さまにこの場所はぴったりなんだ。
「……古老の竜さまは、なぜお影さまを連れて来られたのでしょうか」
ニーノの目がちょっと険しい。
――古老の考えは分からぬ。
――じゃが、この星の竜は他の生き物を食べないのじゃ! 影もきっと食べずとも平気になるのじゃ!
お屑さまの答えにまたびっくり。
「え? りゅーさまたち、他の生き物を食べませんか?」
おどろさま、桃が好きだったけど。
――竜とはそういう物である。
「ほえー」
――星のまどろみどきに入り、他の生き物を食べず、呼び戻した生き物と生きるのである。
――他の生き物がいない星はさみしいのじゃ! 竜はさみしいのが嫌いなのじゃ!
お屑さまはぴこんぴこんする。
――うむ。さみしいのは皆嫌いである。
竜さまは頷いた。
「お影さま、偉大だなー!」
「はい、偉大ですよ!」
両手を上げてぴょんぴょん飛んだ。
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