14.怒る竜さま
甲板からロープを投げ下ろして、お骨さまのところへ駆けつける。
「大丈夫ですか?! 大丈夫ですか?!」
緊張でぼふぼふになってるントゥが落ち着きなく頭の上を走り回ってるので、お骨さまはきょろきょろ頭を動かしてる。
――よくやったのじゃ! 皆、よくやったのじゃ!
「光栄です」
ぴこんぴこんするお屑さまにニーノが頭を下げた。ニーノと一緒に地面に戻ったジュスタもへらっと笑う。
「間に合って良かったです」
どしんどしんと足音が近づいてくる。
口をいっぱいに開いて、大きな岩をくわえたお影さま。
ぼっ
よだれがついた岩を地面に置いて、お影さまはこちらを見る。
ぱたぱたと羽を動かした。
システーナが笑う。
「あー遊びてーんだな」
――これ! 影! なんと考えの足りないことじゃ! 骨が危なかったのじゃ!
お影さまは首を傾ける。
――大丈夫なのじゃ。わしはバラバラになっても元に戻れるのじゃ。
「あ、そういえばそうです」
一瞬止まったお屑さまが、激しくぴこんぴこんする。
――痴れ者め! 自らバラバラになるのと、落ちてバラバラになるのはわけが違うのじゃ! お主、高いところから落ちたことがあるのかや?
ントゥはまだぼふぼふにふくらんでる。
――ないのじゃ。
――そもそも落ちたら痛いのじゃ!
「おお、そーだぜー。痛えのはよくねーよ」
システーナがゆったり肩をすくめる。お骨さまは首をかしげた。
――わしは肉がないのじゃ。痛くないのじゃ。
「でも、落ちたことがないから分からないですよ! 痛かったらいやです!」
「お骨さまが痛いなどあってはなりません」
ニーノのきっぱりに、こくこく頷く。
ぼっ
もう一回、お影さまが羽をぱたぱたして、みんなの髪が揺れた。
ヴァン!
「ントゥ、止めろ」
ニーノにぴしゃんと言われて、ントゥはふっふっと鼻息をあげる。
――む? なにゆえ岩がないのじゃ。
「あ! りゅーさま!」
竜さまがむくりと首を起こす。
――大変なことだったのじゃ! 付き人がよくやったのじゃ!
耳をぴるぴるっと動かした竜さまは、急に立ち上がった。
うぉぉおおおおおおー――!
「なんと!」
叫びを上げて竜さまがお影さまに飛びかかった。
ぶがっ!
お影さまがびっくりして、慌てて逃げる。口を大きく開けた竜さまに顔を噛まれそうになって、そのままひっくり返った。
竜さまがばぐんと口を勢いよく閉じて、どきっとする。
……竜さま、怒ってます!
ひゅー……ひゅー……
今まで聞いたことがない声で鳴きながら、お影さまは竜さまの口から逃れて、空に逃げる。竜さまはどんっと飛び出して、お影さまの体を踏みつけて、そのまま地面に押しつけた。
ぶー……!
――高いところから落としてはならない。壊れる。――見よ!
竜さまがこっちに戻ってくると、大きな岩をくわえた。羽の一振りで空中に浮かび上がる。
間を置かずに、何かが空から落ちてきた。
――――どん!
ぼっ!
地面でばたばたしてなんとか体勢を戻したお影さまは、側に落ちてきた物にびっくりする。
竜さまがゆったり舞い降りてきた。
お影さまは落ちてきた物に鼻を寄せる。
「あ! 岩、割れちゃってますよ」
――これが「壊れる」である。
お影さまは割れた岩の破片をくわえて地面に置き、転がそうとして首をかしげた。
ぼっ
――壊れると、遊べぬ。
お骨さまが移動するので、みんなでお影さまの側に行く。
ぶー……
お影さまは割れた破片をたくさん積み上げて、がらっと山が崩れるのを見てびっくりしてる。
――友が岩を壊したのじゃ。悪い竜なのじゃ。
――そうである。高いところから落として物を壊すのは、よくないことである。
お影さまはうろうろして、岩が壊れてることがまだよく分かってないみたい。
――生き物や竜を落とすのはもっと悪いのじゃ! 影は考えが足りんのじゃ!
お屑さまがぴこんぴこんする。
お影さまは首を傾けた。
「お影さまはまだ知らないことが多いですよ!」
――その通りじゃ! 大事なことを覚えるのじゃ!
お影さまは首をかしげてこっちを見てたけど、また割れた岩を積み上げて、頭で押す。
もちろん、割れた岩はがらっと崩れるだけ。
うー……
繰り返すうちに、だんだん、お影さまの元気がなくなってきた。
――うむ。壊れるのは悲しいのである。
竜さまが金色の目をぱちぱちした。
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