12.岩転がし
みんなで夕陽を眺めてるとニーノも甲板にやって来て、丸い岩を見て眉をひそめた。
「夜中に転がって落ちる。地面に置け」
「ほいほーい」
システーナが軽々と岩を持ち上げて、船から飛び降り黒い岩を竜さまに見せに行く。
「ニーノはあの岩が何か、知ってますか?」
「いや。丸い黒い岩だ」
「おお」
じゃあやっぱり、形が珍しいだけの岩なのかな。
竜さまは丸い岩を口にくわえてから、地面に戻すと、お骨さまのほうに鼻先で押す。
ごろごろごろ……
重い音を響かせて、岩が転がる。お骨さまも鼻先で押すけど、力が足りないのかごろ……くらいで止まった。
システーナが笑って、竜さまの前までごろごろ押して戻った。
「ボール遊びみたい」
――ボール遊び!
ぴこんっとお屑さまが伸び上がる。
――すっかり遊んでおらんのじゃ! 童! 軽やかなわしのボールはどこじゃ!
「そういえば、はじけ菓子は最近食べません」
お屑さまの軽やかなボールは、はじけ菓子――ポップコーンのこと。
「材料があまりない。地馳さまの座に着いて作るといい」
「特別味ですか?」
「――できなくはない」
「やったー!」
ニーノ特製はじけ菓子です!
「はじけ菓子! ぱんぱんぱん!」
――はじけ菓子! ぽんぽんぽん!
お屑さまと一緒にはじけ菓子の歌を歌って踊った。
濃い青の空に一番星がきらめくと、お影さまは船の陰から出てきた。
お骨さまと竜さまのほうへのしのし近づいて、羽をふるわせる。
――ぽはっ! 影は遊びたがりなのじゃ!
「おお、あれはそういうポーズですか」
――もう皆寝る準備に入る。
竜さまは耳をぴるぴるっとふるわせた。
お影さまは首を傾けて、お骨さまに向き直って、羽をばたばたさせた。
――おお、影は元気なのじゃ。遊ぶのじゃ。
お骨さまは後肢でひょいひょい跳ねる。
ぼっ!
お影さまはお骨さまの真似をして、足下に置いてある黒い岩に気がついた。匂いをかいで鼻先で押す。
ごろり、と黒い岩が動いた。
ぼっ!
お影さまは二、三歩後じさり、また黒い岩に近づく。今度は強く押してみた。
ごろごろごろごろ、ごろ……ご……ろ……
黒い岩は大きな弧を描いて竜さまの前にたどり着く。竜さまは金の目をぱちりとさせて、鼻先で岩を押した。
ごろごろ返ってきた黒い岩に、ぴょいっと飛び乗る要領で、お影さまは片足でつかんだ。首を右にかしげ、左にかしげて頭でぐいっと黒い岩を押し出す。
ごろごろ……
角に当たったせいか、岩は転げてお骨さまの前に行った。
お骨さまは口をぱかっと開けて、体をくるっと回すと尻尾で岩を打った。
ぼっ!
お影さまは速いスピードで戻ってきた黒い岩を、追いかけて止める。黒い岩を見つめて一周した。
転がる岩が楽しいみたい。尻尾でぶんと黒い岩を打った。
「わ!」
「危ない!」
黒い岩がごろごろと船に向かってくる。
ふわっと風が起こって、ニーノが岩を押し留めた。
――危なかったのじゃ! 岩で船に穴が空くのじゃ!
お屑さまが激しくぴこんぴこんした。
「ニーノが止めました!」
「お影さま、船に岩を当ててはいけません」
ぼっ
お影さまは首をかしげて、岩が返ってくるのを待ってる。ニーノはしばらく黙ってから、岩をお影さまに押し出した。
ごろごろごろごろ……
お影さまはくるっと回って尻尾で岩を打った。
誰もいない方向に行った岩にシステーナがぴょーんと跳んで追いつく。
「はーい、お影さまー!」
システーナが黒い岩を蹴り出す。
ごろごろごろごろ
まっすぐ返ってきた黒い岩にお影さまは跳び乗って止めた。
――影、転がす遊びはそこまでである。
竜さまは言ったけど、お影さまはまた頭で黒い岩を転がす。
ごろごろごろ
転がってきた岩を竜さまは受け取ると、寝る姿勢になって首で岩を包んでしまった。
ぼっ!
お影さまは竜さまに近づいて、黒い岩を引っ張り出そうとするけど、竜さまはしっかり首の下に収めてる。
――遊びは今日は終わりである。
――おしまいなのじゃ。
お影さまはくるっと竜さまとお骨さまを一巡りして、のしのしシステーナのほうへ行き、羽をパタパタする。
「あたしは岩持ってねーよ」
今度はのしのしニーノの所に来る。
ぶー
お影さまの羽根の風で、ニーノの髪が揺れた。
ニーノは黙ってる。
「残念ながら」
ニーノ、とっても残念そう。
ぶー
あきらめきれないお影さまは、船の周りを一巡りはじめた。
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