15.黒い竜さまについて考える
「あ、テーマイ、おはようございます!」
お屑さまがやいやい指示をするので、竜さまのところに向かう。湖ではテーマイがのんびり朝湯中。
こっちを振り返った口に、黒い海藻に似た物がぶら下がっていた。
「む?」
なんだか見たことある。
「あ、ニーノが集めてたやつですよ」
テーマイは口をもごもごしてる。食べられるんだ。
「ここにもあるのか」
ニーノが近づいてきて、テーマイと一緒に水の中を見る。岩の表面に藻みたいに張り付いてる。
「おお、ニーノ、これ集めますか?」
藻を確認してたニーノが、首を振った。
「いや、次でいいだろう」
――たくさんがうるさいのじゃ。友ー!
一緒に湖をのぞき込んでたお骨さまが、ひょいひょい竜さまの側に寄っていった。
――うむ。友である。
竜さまはばさばさっと羽を振るわせた。
うをぉぉぉおーん
急に吠えた!
でも、全然本気じゃない。湖面にさざ波が立つくらい。
「竜さま、お屑さまがお話されたいそうです」
ニーノは湖の上に浮かんでるからいいけど、私とジュスタは泳いでいかなきゃいけないから大変だ。ジュスタが途中から背負ってくれる。
竜さまは足下を湖に浸してるけど、水につかってないところはぼうっと炎に包まれてる。あんまり近づくとやっぱり熱い。
――山! 勝手に青く燃えるとはしょうもないのじゃ! 痴れ者め!
お屑さまが怒ってる。
――うむ。黒き竜が火を噴いたのである。かように燃え続けるとは思わなかった。
竜さまは大きく口を開けて、ぼっと青い火を吐いた。気に入ってるのかも。
――その黒き竜は何者なのじゃ! わしはケンカ場に竜がおるなど知らぬのじゃ!
――しかし、おぬしはケンカ場に入れぬであろう。知らずともおかしくない。
竜さまは尻尾で水面をばしゃばしゃ叩きながら話してる。
――なんとしょうもない! 竜は竜の気配が分かるのじゃ! じゃが、黒き竜のことなど知らぬのじゃ!
――わしは火を吐かれても、竜とは分からなかったのじゃ。今もよく分からないのじゃ。
お骨さまは最初にそう言ってた。やっぱり竜って分かんないのか。
「りゅーさま、エーヴェ、あの黒い竜さま、知ってますよ。前にまどろみどきに入ったときの竜さまですよ」
竜さまは目を細める。
――まどろみどき……。ここに来る前である。
「はい! お影さまです! ぶおーって声が同じでした」
ジュスタの背中にいるから、声に出しただけで竜さまたちと話ができる。
――む? むむ?
お屑さまが体をくねらせて、考えてるのが分かる。
――山よ! その黒き竜の姿はどのような物じゃ! 見せるのじゃ!
お屑さまが無理なことを叫んだ。
――承知した。
「お?」
竜さまが請け合ってびっくりする。
しばらくすると、頭に黒い竜さまの姿がもやもやっと思い浮かぶ。
「なんと! ジュスタも見えますか?」
「黒い竜さまのこと? なんだか頭に思い浮かぶね」
「おおー」
テレパシーってこんなこともできるのか。
――む? むむむ……、なんと! なんとなんと!
「おくずさま、どうしましたか?」
何か分かったのかな?
――名前がない竜なのじゃ! そうじゃな? そうであろう! まったく! 古老なのじゃ!
――うむ。古老であろう。
竜さまも同意する。
「古老の竜さま? 黒い竜さまが?」
この旅の目的です!
――まったく、しょうもないのじゃ! 古老の粗忽なのじゃ!
……ん? うっかり?
いったいどういうことだろう。
竜さまは大あくび。
――名を付けてやるとよい。屑はいい名を思いつくであろう。
――たいそう哀れなのじゃ! 良き名が必要なのじゃ!
――そうじゃ。名前は大事なのじゃ。
竜さまたちだけで納得してる。
「何ですか? どういうことですか? お屑さま、もう分かりましたか」
――うむ! その竜はこの世界の竜ではないのじゃ! 他の世界から、古老が連れてきたのじゃ!
「えー!」
大問題の発覚です。
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