14.ごきげん竜さま ふたたび
どざー――ん!
激しい音に思わず飛び上がった。
お化けに変装した竜さまも、ちょっとびっくりしてる。
――おお、友が湖に転がり込んだのじゃ。
どばしゃ、ばっしゃんっ
浅い湖を、竜さまがごろごろ転がってる。
愉快そう。
「ジュスタ。火のついた薪を一本持ってこい」
「え? はい」
鉤付きロープをまとめてたジュスタが、ニーノにうなずいてまた船に戻っていく。
――わしも遊ぶのじゃ。
お骨さまはひょいひょい跳ねて、湖のほうへ行ってしまった。
周りでいろんな物が動いてるのに気が付いたのか、お化け竜さまが羽を広げて動かす。
ぐ、ぶー――
羽ばたきで帆がずれてしまった。日差しを浴びた黒い竜さまはさっきの声を出し、のっそりと太陽に背を向ける。
ニーノがさっと帆をかけ直す。暗くなると動けないことはないみたい。のそのそと船の向こうに移動し始めた。
陰が分かるのかな。
「黒い竜さま、ほんとに光が嫌いですね」
追いかけて行ってみると、陰に入って帆を頭からかぶったまま、黒い竜さまは体を丸め、うずくまる。くるりと体にしっぽを回してるところは、竜さまの寝るポーズと同じ。
「黒い竜さま、寝ちゃった」
「まだ回復が十分ではないのだろう」
ニーノが目を細めてから、敷布の場所に戻る。
「……あれ? なんかにおいがしますよ?」
戻る最中、鼻に匂いが触れた。
あまりいい匂いとは言えない。何かが腐ったような。
ニーノがため息をつきながら湖を見た。
湖の水面を波立てながら、ばちゃんばちゃんと繰り返し転がる竜さま。愉快そう。
「あ! りゅーさま、火が消えました!」
あれだけ濡れればきっと火も消えてる。
「大変なことですよ!」
「なにがだい?」
穏やかなジュスタの声に振り返った。
「ああ、ちょうどいい」
ジュスタが持ってきた火を受け取って、ニーノは竜さまの近くに飛んで行った。
「――あ。投げました」
竜さまに向かって、火のついた薪を投げる。
たぶん、また火がついたはず。
やっぱり明るいからよくわからない。
そのまま、ニーノが竜さまの上空にとどまってる。
「……きっとりゅーさまに怒ってますよ!」
「そうだね。ニーノさんは竜さまが硫黄を食べるの、嫌いだからな」
「ニーノはりゅーさまに近づけなくなるのが嫌いですよ」
「あっはっは! それは俺もだ」
「エーヴェも!」
おしゃべりしてる間に、ニーノが戻ってきた。
ニーノに怒られたせいか、竜さまは転がらずにしっぽで水面を打ったり、たたいたりして遊んでる。
「ひとまず大丈夫だろう」
「おおー」
「よかった」
火が消えただけで匂いが漂ってくるなんて、竜さま、まだまだ硫化ガスを出し続けそう。
――皆、たくさんがうるさいのじゃ。
お骨さまがひょいひょい戻ってきた。
水がぽたぽた落ちててきらきらしてる。
「おくずさまですか?」
「――ぅ!」
お骨さまが近づくと、ジュスタがかくっと首を揺らした。
「お? ジュスタ、どうしました?」
ニーノはいつも通り。
「ああ、エーヴェも聞くかい?」
手のひらを差し出されたので、重ねる。
――まったく! わしとシスを置いて帰るなど、無礼極まりないのじゃ! 硫黄なぞ食うから、かようにしょうもなくなるのじゃ! 山はしょうもないのじゃ!
頭の中に響いた声に、頭がかくっと揺れた。
……おくずさま、怒ってます。
――お屑さま、お怒りはごもっともですが、エーヴェたちが危なかったので……。
ニーノがお屑さまのすさまじいおしゃべりを縫って、事情を説明する。
――なんじゃと! わしの知らぬものなのじゃ! 勝手に帰るゆえ、わしがわしの知らぬものに会えなかったのじゃ! 山はとんだ痴れ者なのじゃー!!
お屑さまがぷりぷり怒って、高速でぴこんぴこんしてるのが目に浮かんだ。
……やっぱり、お屑さまも知らない竜さまだったのか。
お屑さまはとっても騒々しいけど、黒い竜さまのなぞについて何か分かるかもしれない。ちょっとわくわくしてきた。
――結構そっちまで距離あっからさ、竜さまがいねーと帰れねーけど、竜さままたこっち来れっか?
「あ、シス―!」
システーナの明るい声に、思わず叫ぶ。
――おーおちび! 竜さま、ごきげんか?
システーナの笑顔が声から伝わってくる。
「ごきげんです! 今は湖につかってます。硫化ガスに火がついて、ずっと青く燃えてますよ」
――なんじゃとー!
――うぇー――!
また頭が揺れる。いちばんにぎやかな二人の声が、頭の中にこだました。
――なにそれ、見てー――よー――!
――山が青く燃えるところなぞ見たことがないのじゃ! わしがおらぬところでわしが見たことがないことをするとは、山は痴れ者なのじゃ!!
――とってもうるさいのじゃ。
お骨さまが、ぱかっと口を開けた。
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