12.こわいものが来る
帰りは、ゆっくり。
手と足がぷるぷるだと伝えたら、アミョーたちは歩くことに決めたらしい。
走ってたときはしがみつくのに必死だったけど、アミョーがゆったり歩いてくれると、眺めがよくて気分がいい。
羽に両脇をはさまれて、ゆあんゆあんと揺れるので、だんだんうととうとしてくる。
つんと肩がつつかれて、はっと気がついた。
「寝たら落ちるよ」
ペードが笑いながら、杖の先でつっついてきてる。
「おお。アミョーの上は気分がいいですよ」
一生懸命だった行きとは、大違い。
花畑に飛ぶチョウや鳥が見えて、のどかさいっぱい。
みゃう
ポッポキがちょっとこっちを見て、相づちする。
「ポッポキも気分がいいですよ」
みゃうみゃう
同意されたみたいで、もっと気分が良くなった。
ントゥとペロはお花畑で駆け回って遊びつつ、遅れるとお骨さまに乗せてもらって追いついてくる。
テーマイはヒトを乗せていないアミョーたちと一緒に、短距離競走で遊んでる。最初は遠巻きだったけど、だいぶ仲良くなったみたい。
きれいなチョウや珍しい花を見つけて、ニーノに指さしたり、途中で競争を始めたストストとシステーナを応援したりするうちに、アミョーの群れが見えてくる。
「遠くから見ると、たくさんいるのがよく分かります」
焦げ茶色のたくさんの点がだいたい同じくらいの距離を開けて集団になってる。
もうケンカはほとんど治まって、お互いの巣に伴と一緒にいるか、一人で巣の上で頑張ってるみたい。
――なんと!
急にお屑さまがぴこんっと伸び上がった。
――大変なことなのじゃ! すぐに、わしではないわしのところに行くのじゃ!
「え? 何? どーしたんだ?」
お屑さまは大興奮でぴこんぴこんしてる。
――急ぐのじゃ! こわいものが来るのじゃ!
私は首をかしげかけたけど、ニーノの反応が早い。
「急ぐぞ」
アミョーに声をかけて、走り出した。
「……おぉ! ポッポキも急ぎますよ!」
みんながどっと一方向に動き出す。
ナームたちと別れた辺りが遠くに見えはじめたところで、それを見つけた。
よく分からない生き物がナームたちをうかがいながら、草むらの中を移動してる。
そろーっと近づく動きは肉食獣っぽいけど、ぼろくずの塊みたいな形はどんな動物とも結びつかない。
「あ! 走り出しました!」
ぼろくずがばっと動き出し、すごい勢いでナームたちへ駆け寄る。
ケー――!
気がついたアミョーが頭を高く上げ羽を広げて、激しい声を上げた。
元々大きいアミョーが何羽も威嚇すると、かなりこわい。
でも、ぼろくずはひるまない。
ナームを蹴倒して、カウに飛びかかる。
――なんと! こわいものなのじゃー!
長お屑さまがみょんみょんして叫んでる。
「うわ! 何すんだ!」
ぼろくずはひっかくようなしぐさをして、そのままカウと地面に転げこんだ。
杖が落ちて、ぼろくずとカウはつかみ合い、もみ合いになってる。
――落ち着くのじゃ! 落ち着くのじゃ!
長お屑さまの声も聞こえる。
でも、ぼろくずはとうとうお屑さまの止まり木をもぎ取った。
「長おくずさま!」
――大変なことなのじゃ! わしではないわしがつかまったのじゃ!
システーナがストストの背中から飛び出していく。
……ぱりぱり
ふと変な音が耳に届いて、横に視線を向けた。
「わ!」
ニーノはいつも通り無表情だけど、見たことないくらい冷たい気配が漂ってくる。
……ニーノもシスも怒ってますよ!
「あぁ! 待ってください! 今は近づかないで!」
マレンポーの声がしたけど、ストストもポッポキも止まらない。
長お屑さまはパタパタしながら、ぼろくずに連れて行かれてる。
――待つのじゃ! 落ち着くのじゃー!
――わしではないわしが連れられて行くのじゃー!!
お屑さまたちが叫んでる。
「大変なことですよ!」
するとそのとき、とてもきれいな音が耳に触れた。
大地を震わせるような力強い高音が、花畑の上を響きわたる。
出所を探すと、花畑に立ってるカウがいた。
ひっかき傷だらけの顔を上げて、カウが歌ってた。
「おお……、とってもきれいな声……」
口を動かしてる途中なのに、 ぱたっと目蓋が落ちた。
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