その310 poochでlaunchしよう
「やっぱり別人ってことですか!? それとも生霊?」
普通に考えたらこの二つしか可能性はない。
しかし先ほど言った通り別人というにはあまりにも容姿が一致しすぎていて、にわかには信じがたかった。
私の記憶が間違っているのかなぁ?
「ラウラ、それは行ってみれば分かることですよ」
「行ってみるって、何処にですか?」
「そのお店にですよ。ナタ学院長、教えてくださいますか?」
ヘンリーは考えが纏まったのか、涼しげな表情を浮かべている。
もしや真相がもう分かってしまったのではないだろうか。
さす推しか? さす推しチャンスか?
私は推しを推せる時に推す所存ですよ?
「構わんよ。店の名前は『pooch』じゃ」
「ポーチ、居酒屋と言うには洒落たお名前ですね」
「洒落た男じゃからのう」
「そのお店なら話に聞いたことがあります。行ってみましょう」
未だに事態を理解できず戸惑う私だけれど、ヘンリーに連れられて学院長室を出て、学院を出て、近くの街に降りて、話の居酒屋まで移動した。
そしてその店の前、開け放たれた両開きのドアの奥に、私は信じられない者を目撃した。
なんとあの人が、レイマンさんが、当たり前のようにカウンターで酒を振舞っていたのだ!
ほ、本当にいた!
いや、でも、ちょっと違う……?
何が違うかと言えば歳だ。目の前の彼はトイレのレイマンさんに比べて、ちょっとだけお歳を召しているように見える。
でも特徴は完全に一致していて、同一人物としか思えない。
まるでトイレと居酒屋で時空がズレているかのようなこの現象。
一体全体どういうことなの!?
「では入って見ましょうか」
「入るんですか!?」
「それは勿論。お嫌ですか?」
「すいません、あの、幽霊とかレイマンさんとか関係なく、ちょっと入るのに躊躇してしまいます! 大人のお店なので!」
酒場とかそういうのに入った経験がゼロの私だった。
お酒も飲んだことありません! 更に言うと炭酸も飲めません! お口が二酸化炭素に負ける!
「開けた雰囲気ですし、誰でもウェルカムなお店だと思いますよ」
「本当ですか? 中に入ったら『おいおい、ここはお嬢ちゃんのようなガキの来るところじゃねぇぜ。ミルクが飲みたいならママにおねだりするんだなァ!』とか言われませんか?」
「それは芝居がかりすぎです」
「ですね。定番すぎて言われたら逆にちょっと嬉しいまでありますもんね」
こういう場所へのイメージが貧困すぎて警戒心を強めてしまったけれど、さすがに脳が二次元過ぎた。
でも実際私が飲めるものはミルクしかなさそうな気もする。
私、ミルクは好きなんだけど、その、いっぱい飲んでも背が伸びなかったという一点だけで恨んでいるんだよね。
絶対許さんぞ……誇大広告!
「それに長居はしませんよ。ちょっと確認するだけですから」
「確認……?」
「ええ、実はもう分かっているんです。レイマンの正体も、彼の本当の名前も」
当たり前のような態度ですごいことを言う推し!
私は思わず飛び跳ねて拍手してしまう!
「やはりさす推しでしたか!!!!」
「なんですかさす推しって」
やっぱり全てを察しているヘンリーだった!
もはやさす推しすぎてそのうち名前がサスオ氏になってしまいかねない?????
「すごい! すごすぎますヘンリー! 教えてください! なんと言うお名前なのですか!?」
「それはですね──」




