その309 変なバーは結構ある
私はソファーを立ち上がり、ヘンリーの後ろに回り込む。
そしてカードを覗き見ようとしたのだけど……残念! 背が足りなかった!
チクショウ! ヘンリーの目線の位置が遥か上空すぎる!
いや、こんなことで諦めていたらチビとして生きていけない。
ここで頑張ってこそチビ、そうでしょう?
私はカードを確認すべくぴょんぴょんジャンプする!
うおー! うなれ私の両足!
「あっ、すいません。どうぞ、ラウラ」
努力の甲斐も虚しく、あまりにも不自然な挙動をしていた私を慮ってヘンリーが屈んでカードを渡してくれた。
くっ……チビの努力なんて無意味だと言うのか!
「……ありがとうございます。チビたるものすぐに人に頼るべきだと猛省しました」
「まあ、人に頼ることはとても大切なスキルだとは思いますが」
チビにはどうしようもないことがあるので、ちっこいみなさん、すぐに人を頼りましょう。
前世からずっとチビなキングオブチビな私が言うのだから間違いありません。
その癖、ボッチだから人に頼れず始末に負えない私……!
チビの悲哀はさておき、手渡されたカードを受け取ると私は恐る恐るその絵柄を確かめる。
カードイラストはかなり写実的……というか写真みたいになっているのだけど、受け取ったカードに描かれていたイラストは──私が見たトイレの幽霊、レイマンさんその人だった。
間違いない。同一人物だ。
ただし、ちょっと目が優しい気もする。
犬を愛でている最中のイラストだからかな?
記載されていた名前は……ピーター。
とても普通な名前だった。とりわけ特別なところはない。
「どうですかラウラ、同一人物だと思いますか?」
「うーん……いや、間違いなく同一人物だと思います。ほくろの位置も一致していますし」
「あの一瞬でよくそこまで見ていましたね」
「ホクロはつい見ちゃうんですよねぇ……強いて言えば三割増しで優しい雰囲気が出てはいますが、それくらいは機嫌の範疇といいますか、むしろトイレに侵入されて怒っているレイマンさんが誤差と言いますか」
「ピーターか懐かしいのう。忘却の魔法を使うことで有名じゃった」
ヘンリーと話していると相変わらず書類の奥で作業をしていたナナっさんが話に入って来る。
カードになっている生徒のことなので当然ではあるのだけど、ナナっさんも彼のことは存じているようだった。
そして忘却の魔法を使う……ということは、やはりこのピーターさんとレイマンさんは同一人物と見て間違いなさそうである。
そんなに何人も使える魔法には思えないからね。一般的な魔法ならヘンリーも苦労していない。
或いは家で受け継がれて来た魔法で、このイラストの人はお父さん……みたいな可能性も捨てきれないけれど、それもホクロの位置まで同じというのはちょっとあり得ない話だった。
そう考えていたのだけど……ナナっさんの次の台詞で事態は急変する。
驚くことにこう呟いたのだ。
「今は──居酒屋の店主をしておる」
「へぇ、居酒屋の店主を……は、はいぃ!?」
余りにも自然に言われたので認識が追いつかなかったけれど、えっ、今、なんって言いました?
居酒屋の店主!? と、トイレにいるのに?
椅子をトイレに入れ替えたトイレバーみたいのがあるのかなぁ!? 酔ってもすぐ吐けて便利! ってそんなわけあるかい!




