その308 孤独が生んだプレイングスキル
突然の死に驚くナナっさんを尻目に私は頭を下げる。
……はい、実はカードゲームは経験者な私です。
いや、正確には対面で人と対戦したことはないので経験者と呼ぶには中途半端なのだけど、TCGアニメは色々と見ているし、一人でカードのデータを見てデッキ構築を妄想したり、一人で対戦したりしてました。
そんな孤独な成果が今ここに!
……まあ、今回ワンキル出来たのは私の腕前と言うよりは推しのコンボ性が高かったことと、ナナっさん一人で作ったゲームだからまだまだ作り込みが甘かったお陰なのだけど。
仕方がないことなんです! 難しいんです! ゲームのバランス調整というものは!
「驚きました……こういうの得意なんですね、ラウラ」
「いえいえいえいえ! 全ては推しのおかげです」
「うーむ、まだ改良の余地があるかのう」
ゲーム性をぶっ壊すタイプの勝ち方をしたせいでナナっさんは書類の裏から困った声をあげていた。
なんだか申し訳ない気分である。
でも、ゲームはテストプレイを重ねて良くしていく物だから!
「とりあえずプレイヤーの初期ヒットポイントが低すぎるかもしれません。開発初期段階でヒットポイントが少なく設定されているのはあるあるなのですが、基本的にヒットポイントが少ないほど先行有利になりますので、8000くらいにした方がいいかと」
「さくさくプレイを目指した結果が仇となったようじゃな……!」
推しを使えるカードゲームなんて私としては全力で応援したい所存なので、ついつい口が回ってしまう。
この一方的にまくし立てる感じ……嗚呼、オタクの悪いところでまくってる!
「あとこれはよくある調整ミスなんですが、墓地から召喚できる手段があると墓地が第二の手札になってしまうんです。だから、お兄様の『三枚墓地に送って召喚』というデメリットがデメリットととして機能していなくて、むしろメリットになっている問題があります」
「ほうほう」
「ですのでそれを避けるためにカードの死に場所を墓地以外に設ける必要がありまして、デメリットとして組み込むなら『除外する』などのテキストにすると良いと思います。あと初期手札の枚数や直接プレイヤーにダメージを与えるカードについても言いたいことが──」
「ストップ! ラウラ、話が盛り上がるのは大変良いのですが、今は勝利の報酬を得るべきです」
「あっ、す、すいません! つい!」
あまりにも早口な上にあまりにも話が脱線しすぎた!
ごめんね、ヘンリー! なんも分からないよね!
もっと後攻の不利を無くすためにメリットを与える──みたいな話もしたかったけれど、それはまた今度、ナナっさんと個人的に合った時にするとしよう。
そう、この決闘は遊びではなく……いや、遊びなんだけどそれだけじゃなく! 大切なものを賭けた決闘なのだから、その成果は受け取らなければ!
「『愛犬家』のカードを見せるんじゃったな。それならわしのデッキに組み込まれておる。ゲーム中に使って『いや使うんかい!』と言わせたかったんじゃが……」
「なんかすいません!」
「いや、いいんじゃ。好敵手が出来たことをわしは嬉しく思う……受け取れ! これがそのカードじゃ!」
ピッとナナっさんその2から投げられたカードをヘンリーは優雅に二本指で受け取る。
しれっとやってるけど結構すごい。
「……やはり、そうでしたか」
ヘンリーはカードを見ると、すぐにそう呟いた。
何故かずっとこのカードについて難色を示しているヘンリーだけど、一体何が書かれているのだろうか。




