その305 学院の決闘者たち
姿は見えずとも声だけで登場していたナナっさんだった。
そういえば初対面の時もこんな感じだったかも。
「今、二人の脳内に直接話しかけておる。ちょっと手が離せなくてのう」
「へぇー、脳内から響く声って案外普通の声と変わらないんですね」
「ラウラ、果たしてその納得の仕方であってますか?」
どうやらナナっさんの本体は別の場所にいるらしい。
だったら別に声だけで頑張って入って来なくてもいいんですけどね!?
神出鬼没を律義に守り過ぎている!
「まあ、手間が省けたと思いましょう。学院長、それで資料についてなのですが」
「旧校舎のトイレにいる幽霊の名前を知りたいから資料が見たいという話じゃったな?」
「把握しすぎじゃないですか!?」
「把握ではなく、この学院の全てを掌握しておるのじゃ」
「怖すぎませんかこの学院長」
流石学院長様だけあってこの学院で知らぬことはないらしい。
そうだよね、ナナっさんが学院に潜む幽霊なんて面白いことを知らないわけがないもんね。
……あれ、ということはナナっさんは幽霊をあえて見逃してトイレに住まわせているということになるのかな?
「それで……資料とはわしが歴代生徒のデータで作った『生徒トレーディングカードゲーム』のことじゃな?」
「生徒のデータでなにしてるんですか!?」
「はい、それです」
「そしてそれで合ってるんですか!?」
学院を掌握しているどころか、生徒を掌の上で遊んでいる!
いや、でもちょっと待てよ……それってもしかして、ヘンリーとかお兄様とか、推しのデータもあったりします!?
だったらちょっと遊んでみたいんですが!
「一応、許可取り出来た生徒だけで作っているから安心して欲しいのじゃ」
「よかった……ナナっさん、人権意識はあったんですね」
「わしをなんじゃと思っとるんじゃ!?」
「とにかく、そのカードにあった『愛犬家』の顔が幽霊に似ていると思うんです。見せて貰えませんか?」
「レイマンさん、愛犬家なんですか!?」
知らない情報が次々と出て驚きっぱなしの私である。
言われてみれば人嫌いだけど動物好きみたいな雰囲気が無きにしも非ずかも……。
いや、まだその愛犬家さんがレイマンさんだと決まったわけではないけれど。
「勿論、構わんぞ。ただし……わしは今、お仕事中でな」
「あっ、だったら仕事終わりに伺うことに──」
「仕事中じゃからめっちゃ遊びたい」
「気持ちは分かりますけども!」
「今からわしと遊んでくれ。ラーウラちゃん、遊びましょ、じゃ」
仕事中だから後にしてくれという話ではなく、仕事中だからこそ遊んで欲しいという話だった!
分かる。分かりますよ。忙しい時ほど遊びたくて、暇な時ほど意外と遊ぶ気が起きなかったりするんですよね。
勉強中にゲームがしたくなる現象に似ています。あれは確か『セルフ・ハンディキャッピング』と言うんでしたっけ。
「ナナっさんからの遊びの誘いを断る私じゃありませんよ。何で遊びますか?」
「それは勿論……生徒トレーディングカードゲーム! 略してSTCGで決闘じゃ!」
「話題に出たから遊びたくなったやつですねこれ! やります!」
ちょっと興味があったのでそれで遊ぶ分には割と楽しみな私だった。
推しのカードあったらいいなぁ……私の推したち、許可出す雰囲気が皆無だけども。
少しウキウキしていると、ヘンリーが私の肩をぽんと叩く。
「ラウラ、気を付けてください。あのゲームは……魔のゲームです」
「えっ? そういう感じですか!?」




