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その302 顔良の顔


 力と言うより魔法という言い方には魔法学院生らしい見識が窺えた。

 うん、制服も着ていたしやっぱりこの学院の生徒の霊らしい。


 そしてなんとなく幽霊固有の能力のようなものを想像していたけれど、この言い方だともしかすると生前から『記憶を消す魔法』を操れたのかもしれない。

 ヘンリーは質問を続ける。


「それはどの程度の範囲を消せるものなのでしょうか?」

「おかしなことを聞く奴だな……そうだな、お前の今日の朝ごはんの記憶を消すことも出来るし、五年前の誕生日のプレゼントの記憶なんかも消すことも出来る」

「ものすごく正確に消せています!」


 レイマンさんの記憶を消す魔法はこちらの想像を遥かに超えて優秀なものだった。

 もしかして結構すごい魔法使いなのではないだろうか。

 このお方がトイレに縛られてるのって相当な損失なのでは……?


 彼の素性が気になるところだけど、それはさておき、レイマンさんはこちらの求める存在そのものだった。

 これなら私の自他共に恥ずかしい記憶を消すことが出来るかも!


「こちらが指定する記憶を消して貰いたいのですが、そう言うことは可能ですか?」

「可能だが……そこまで協力してやる義理がないな。俺にも得がないとつまらない」

「ごもっともな意見です!」


 初対面の相手に、しかも結構失礼な出会い方の相手に、何の得もなく協力しようなんてそんなのよほどのお人よしでなければあり得ない行動だ。

 つまり、レイマンさんにも何か見返りがなければならない。

 

「なにか欲するものがあるようでしたら、勿論協力させて貰いますよ。非常識なお願いは聞けませんが」

「俺がお前らに要求することは……俺の名前だ」

「レイマンさんの名前ですか……?」

「そのレイマンと言うのも嫌いではないが、本当の俺の名前を知りたいんだ。名前以外の記憶も希薄だが、何よりもまず名前だ。そうしなければ俺はトイレマンから逃れられない……!」

「切実です!」


 トイレマンという屈辱的な名から逃れるべく、レイマンさんは己の生前の名前を欲しているらしい。

 実に健全な願い事で、これならこちらも手放しで叶えてあげたくなるというものだった。

 そう思っていたのだけど、ヘンリーは何故か眉間にしわを寄せている。

 推し鑑定士な私の見識ではこれは「困ったことになった」という意味合いのはず!


「一つ聞きたいのですが、このドアを開けた場合、あなたは怒ると言う話ですが……」

「何度も言わせるなよ。絶対に開けるな。開けたらお前らの記憶を全て消して、二度と話さん」

「……この件、一度持ち帰っても良いでしょうか」

「好きにしたらいい。どうせ俺はここにいる……じゃあな」


 その声と共に、ドアの向こう側から感じていた気配のようなものが消え、後には静寂が残された。

 恐る恐るトイレのドアを開けてみるとそこには元の空の便座があるだけで、どうやら繋がりはまた断たれたらしい。

 

「はぁ……参りましたね」

「どうかしたの、ヘンリー?」


 溜息をつき独り言をこぼすヘンリーの様子に首を傾げると、ヘンリーは眉間に手を当てる。

 それにしても顔良な人は悩む姿もかっこよすぎるな。

 きっとこういう人の姿を見てロダンさんは『考える人』の像を作ろうと思ったに違いない。


「あの方の顔を見ようとすると、怒って記憶を消されるじゃないですか」

「はい、それはそうですね」

「その場合、顔を見た記憶も消されるわけで……現にレイマンの顔を思い出せません」

「……ああ! 私しか覚えていないんですね!? それが名前を調査する上で不便すぎると!」


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