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その298 タッション・パッション・オブセッション


 そうだった! ヘンリーはからかうの大好きなイジリっ子なんだった!

 ここ最近は気落ちしていたので目立たなかったけれど、私というペットを見て己の嗜好を思い出してしまったのかも。

 だとすれば、推しの元気を取り戻せてオタク冥利に尽きるけれども!


「ええ、確かに嫌がることはしないと言いましたが、怖がることをしないとは言っていませんからね」

「と、とんでもない詭弁!」

「勿論、本気で嫌がるようならこの案も却下しますが、怖いだけなら安心してください。全力でお守りしますから……ね?」

「ううっ……!」


 囁くようなイケボと真剣なまなざしを急に向けられて、私は思わず息が止まる。

 突如として襲い掛かる顔面の暴力! 止まったのが息の根じゃないだけ褒めて欲しいところですね。

 そしてそんな顔で言われたら何でも言うことを聞いてしまうのが私なのだった……。

 それに幽霊への恐怖より……推しの安心感の方が圧倒的に上だしね!


「ま、まあ、様子を見るだけなら……」

「ありがとうございます! やっぱりラウラがいてくれた方が色々と話が早いですからね」

「良い幽霊さんの可能性もありますしね」

「それはどうでしょうかね……」

「煽らないでください! 恐怖を!」



 そんなこんなでやってきました旧校舎。

 うちの学院も大層な歴史を誇っているものでして、敷地内に旧世代の遺物がちょこちょこと残っていて、この旧校舎もその一つだった。

 木造の校舎は冷たく静かで、そんな静寂の中に響き渡る自分の足音が、果てしなく恐怖を駆り立てる。


 さて、ここのトイレに噂の幽霊が生息しているらしいのだけど……。

 いや、生きていないから死息か……なんか変な言葉ですね。


「ここの男子トイレですね」

「男子トイレですかぁ……入ったことないです」

「経験がおありでも困ってしまいますよ」

「タッションと言う高等技術を行うんですよね」

「セッションみたいに言われましても」


 男子と縁遠い人生を送って来た私にとって、そもそも男子トイレという場所が未知にみちみちている。

 そして未知は間違いなく恐怖の根源だ。

 あ~、怖くなってきました。


 そろりと足を踏み入れると、案外女子トイレとそれほど大きな違いが無いことが分かる。

 しいて言えばタッションってこんなオープンな場所でするのかと思った程度だろうか。

 もはやこれって下半身露出場所なのでは。

 そう思うとちょっと萌えてきますけれども。


 それにしてもトイレ技術が育ってる世界に転生して本当に良かったと思う。

 うんこが投げられていたフランス周辺を参考にされていたら私の心が死ぬところだった……都合の良い世界最高!

 

「そしてトイレでなら恐怖でお漏らししてもダメージは軽微で済みますね! ラッキー!」

「甚大なダメージですから! その時は素直にトイレに入ってください」

「ごもっとなご意見です」


 恐怖からか私のテンションも少しおかしくなり始めていた。

 いや、元からこんなもんだろって言われると否定しにくいのですが!

 もうちょっと普段はお上品だと自負しています!


「さて、ちょっとした儀式のようなものが必要みたいでして、このトイレの奥から二番目の個室のドアを──」

「三回ノックとかですか?」

「いえ、上上下下左右左右スタートとドアノブを動かすそうです」

「思いの外操作が複雑です!」


 そしてそれはもう裏技のコマンドなんだけれど!

 というかスタートって何!?

 何を始めちゃうの!!?


「スタートはどうやらその時にドアを開けるということのようですね」

「なんだかすっごく怪訝な気持ちなのですが」

「ええ、私もです。しかし試してみない事には何も分かりませんから……ラウラ、念のため後ろに隠れていてください」

「は、はい。隠れまくります」


 なんだかとっても怪しげな幽霊召喚?方法なのだけど、どれだけ怪しくても実践して見なくては分からないと言うのも事実。

 私はヘンリーの背後で身を縮こませながら、儀式の一部始終を見守る。

 幽霊さんに出てきて欲しい気持ちと出てきて欲しくない気持ち、丁度半分。

 でもここは推しの為にも……出てきてください!


「さあ、開けますよ……!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 最初花子さんかと思ったら、、、突然のグラディウス! スタートじゃ無くてBAだけど、、、 そして男性のトイレって女の子から見たら不思議だよねぇ 恐怖でテンションおかしくなるのあるあるだよね ど…
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