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第四話:ユイの覚悟

お昼の更新です!

ユイの覚悟が決まり、物語が動き出します。

「……つまりこの依頼、整理するとこういうことだよな」


 ユイが依頼書の上で指先を滑らせ、魔物の数と構成が記された箇所でピタリと止めた。


「三十体以上の、しかも統率された魔物の群れ。それを村人を守りながら、あたしたちだけでなんとかしろ、っていうことなのか!?」


 静寂を切り裂くようなユイの叫びに、ギルドホール内の喧騒が潮が引くように収まっていく。近くのテーブルで酒を酌み交わしていた冒険者たちが一斉にこちらを振り返り、ひそひそとした囁き声が波紋のように広がった。


 チヅルは猫耳をぴくりと動かし、にんまりとした笑みを深めていた。


「まあ、そういうこと。厳しいけどね」


 チヅルの軽い、しかし確信に満ちた返答を聞いて、ユイは再び沈黙した。


「ちょっと待って、ユイさん。『なんとかする』というのは、三十体以上を殲滅しなさいということじゃないのよ」


 マリアが困惑した表情で補足する。彼女はユイの驚きを宥めるように、依頼の本来の目的を丁寧に説明し始めた。


「このクエストの第一の目的は、あくまで『調査』なの。どの程度の脅威が迫っているか、魔物の規模、種類、行動パターン、なぜ統率の取れた動きをしているのか――その情報を正確に持ち帰ってほしいのよ。シドー様もギルドも期待しているのはそこ。調査報告をもとに、騎士団とギルドが本格的なレイド作戦を組むかどうかを判断するわ。あなたたちに無理な戦いをさせたいわけじゃないの」


 マリアは一度言葉を切り、三人の顔を丁寧に見渡した。


「でも、もし調査の結果、村の防衛に時間的猶予がないと判断されたら――レイド作戦を組んで対策を練る余裕がないなら――その時は速やかに村を放棄して、村民二千人を一番近くの宿場村リロまで誘導してほしい」


「リロ……。あそこなら宿場村として規模も大きいし、一時的な受け入れなら可能ね」


 ラズベルが頷くと、マリアはさらに声を落とした。


「そして最悪の事態、退避中に魔物に追撃されたとしたら……その時はあなたたち冒険者が遅滞行動をとって、村民の命を守り切ってほしい。それが……このクエストの本当の意味よ。殲滅じゃなくて、魔物の脅威を凌ぐことなの」


 マリアの説明を聞きながら、チヅルは(うんうん)と内心で深く頷いていた。チヅルにとって、先ほどの「まあ、そういうこと」は殲滅を指してはいなかった。斥候としての情報収集、時間的猶予の正確な見極め、最悪の場合の村の放棄と誘導、そして追撃があれば命を懸けた遅滞行動――依頼書を見た瞬間から、これら全てのシナリオが彼女の頭の中には理路整然と並んでいたのだ。


「……三十体以上の魔物を倒しに行くんじゃないよ。凌ぎに行くんだ」


 チヅルが独り言に近い口調で短く付け加えると、ユイは何かを噛みしめるように黙り込んだ。


「んー、果たしてホントにそうなるのか?……」


 ユイは小さく鼻を鳴らし、独り言のように呟いた。


「……まあ、何が起こるか分からない依頼ほど、やりがいがあるってもんだな」


 その言葉とともに、ユイの表情から「困惑」が完全に消え去った。正確には、これ以上の思考を強制停止して吹っ切れたと表現すべき変化だった。代わりに瞳に宿ったのは、真っ直ぐな、そして揺るぎない「覚悟」の色だ。ヤンチャなギャル風の軽さはそのままに、その目の奥には剣士としての鋭い芯が宿っている。


 ユイは無意識のうちに、腰に帯びた魔刀「白綱しらつな」の鞘にそっと指先で触れ、微かに鯉口を切った。戦いに臨む者が無意識に行う、魂の確認のような仕草。


(……よし、腹が決まったな)


 ユイが顔を上げると、ふとチヅルと目が合った。チヅルはほんの一瞬だけ、口角を上げてニヤリと笑う。それは、ユイがこの結論に至ることを初めから予見していたかのような、不敵な信頼の微笑みだった。


「チヅル……お前……。いや、なんでもない」


 ユイはむっとしたように顔を背けた。自分の心の動きが完全にお見通しだったことが気恥ずかしく、そして何より悔しかったからだ。


 そんな二人の言葉なきやり取りを、ラズベルが「ふふっ」と慈しむような微笑で見守っていた。三人の間に流れる空気は、今や一つの生命体のように密接に噛み合っている。


 ホールの喧騒が、再び日常の音へと戻り始める。チヅルが再び場を引き取り、真剣な表情で詳細地図を広げた。


「発生源がどこかにあるはずだよ。ゴブリンやオークが三十体以上、統率されて動いているなら、群れの根拠地と、群れをまとめる指揮官がいるはず。そこを特定すれば、対処の道筋が見えるし、報告書の質が全然変わってくるからね」


 とどのつまり、チヅルのこの発言が、今回の調査依頼の肝であった。早々にその現場を押さえ、情報を持ち帰ることこそが、成功のカギなのである。


「じゃあ、一旦ここで解散して、準備を整えてから天頂の鐘がなる頃に、またギルドに集まろう。クエストに参加する冒険者全員で作戦を詰めたいし」


「ええ、わかったわ。陽7ようななこくから作戦会議ができるよう、テーブルを確保しておくわ。Eランクパーティーの皆にも、その時間にここに集まってもらうよう連絡しておくわね」


 マリアが頼もしく応じ、深い信頼を込めて三人を見送る。チヅルは去り際に振り返り、マリアにこう告げた。


「マリアさん、あたし、ちょうどお腹が空く頃だし、全員分の日替わりランチを手配してもらってもいいですか?」


「ふふ、わかったわ」


 マリアは快諾し、ラズベルとユイは、「やっぱりチヅルはチヅルだな」といった表情で顔を見合わせて笑った。


 ギルドの大扉を潜り外に出ると、東の空から柔らかな陽光がチヅル一行を照らし出す。チヅルは戦略家として前を見据え、ラズベルは三人の無事な帰還を誓うように微笑み、ユイは白綱の柄に手を添えたまま不敵な笑みを浮かべた。


 今ここに、三人の覚悟は、完全に一つとなった。


本日19時過ぎと20時過ぎにも更新します!

次話では作戦会議の全貌が明らかに。

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