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【第63話】マタンレー 甘い香りの国 その1

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 荒々しい海風に横殴りの雨はどこへいったのやら、見張り台からの景色は圧巻そのものであった。静かに波が打ち、空のオレンジ色がそれに反射し様々な色彩を見せてくれる。遠くにはこれから停泊するであろうマタンレー島の逆光を浴びた緑黒い影が待ってるぞといわんばかりである。


「キレイねー ・・・・」

 夕日に照らされたリンデルの紅潮した顔も、少しばかりうるんだ瞳も夕日の光を受け輝いて見えた。


「そうだね」

 パインがそう言うと少し彼女は、何故かわからないが、少しむっとした表情になっていた。


「おまえら あんまりイチャつくなよ ・・・」

 後ろで自分らを見ていたチャーギがそう言ってきた。


「わっ すいません ・・・」

 そう声を上げたものの、後ろを振り向くと彼は笑顔を作っていた。


「すまん パイン 俺 お前に少し嫉妬してたんだ ・・・」

 何に対してだよと焦りのつっこみを入れようかと思ったが続けて彼は語り出していた。


「実は俺もコーダンさんに特訓を受けたことがあるんだが ・・・ 逃げだしたんだ ・・・」

(そっちかよ ・・・ 別に俺はお願いしてないしな ・・・)

「もう傍を離れようと思ったんだが ミグーナさんが俺を探して引き留めてくれたんだ ・・・」

「そこから数年経つんだ おかげで経験も積めたし 生活面も上手くいってたんだよ」

「だからお前が来た時 それを邪魔されるんじゃないかって ・・・ サクラさんが仕掛けたことにうまいように乗ってしまった 彼だけの問題じゃないんだ」

「だから 謝らせてほしい ・・・ すまなかった ・・・」

 チャーギの告白をしどろもどろしながら聞く。


(なんて返せばいいんだ ・・・)


 そう思っているとリンデルが肩を軽くこずいてきた。


「この人 頭スカスカだから チャーギさんの話よく分かってないと思いますよ」

 相変わらず嫌な事をいう。


「いや そんなことないって ・・・ 謝られるような事をされた気がしなくって ・・・」

 そう自分が言うと2人して笑っていた。


「おまえら あんまり羽目外し過ぎるなよ!」

 チャーギにそう言われ軽く顔を赤くしてしまったが、夕日のせいにしてやろうと思った。


 この日のピーナツ号は全員が笑顔であった。


 翌日…。


「いんやー もう働きづめでやってらんねぇよ おんめぇ またけったいな事してくれるよなぁ」

「手すりだぁ? そんなん予備なんか積むわけなかろうがよぉ 壊しよってよぉ」

「それにおめぇんとこのでっかい上司がまたわけのわからんものつくれいうてきたぞ それも真夜中によぉ」

「ああもうあの 黒いのが夜にぬっと目の前現れてみぃよ おっかなくてしょうがねぇがぁ」


 まだ日の出るまえからゼンダに叩き起こされこうして話を聞いている。船が港に着いたのはそれから少し経った早朝であった。


…。


「ええ ゴホン コーダン殿及び討伐隊の冒険者の方々 この度は大変な無礼をしてしまったこと 再度 ここで頭を下げさせていただきたい」

 副船長のエゾマが船首の先のベンチの上で全員に挨拶をしている。


「イインダヨー ・・・ アア ネムイ」

 ペチンとコーダンの右腕にミグーナのストレートパンチが吸い込まれる。


「本来は討伐隊の方々にも物資の積み込み等をお願いする予定ではあったが 今回はサクラを主体として船員達でやらせてもらう」

「しばしの余暇と思い この島を満喫していただければと存ずる いいかな?」

「アア カマワンケド オレハ センチョウ ト ウチアワセアルカラ カンケイネェゾ」


(まだ船長見てないんだけど ・・・ そもそも居るのか?)


「そ そうであったか それは存じていなかった では雑用はこちらで受け持つ故 各々明日のこの時間まで自由にしていただきたい」


 明らかに動揺を見せるエゾマが続けてそう話し、お開きとなった。


(おお これはまさかの旅行満喫なんじゃないか ・・・ ?)


 隣を見るとリンデルも目をランランと輝かせているのが見えた。だがしかし、これはピーナツ号の配慮であり実際には討伐隊には各々やるべきことが発生している。


 ミグーナが自分らを集め、この島での予定を采配してくれていた。


「コーダンはずっと船にいるわ 船長と打合せ 出てくるかもしれないけど 私たちとは別行動よ ・・・・」

 まず、チャーギは漁夫達の手伝いを命じられていた。そしてパインとリンデルとミグーナは部材の調達運搬であった。


「一泊することになるけど チャーギ あなた少し 肩の荷でも降ろして来たら?」

 そうミグーナに言われたチャーギは少し浮足だっているのが見て取れた。


『男って嫌だわ ・・・・』

 そうリンデルが小さな声で囁いていた。

 

 その時何を言っているのかパインにはまだ良くわかっていなかった。それはさておき、その他部材の調達だが、それはもうすでにゼンダからこれから作る物の図面と足りない部材の項目が描かれたメモ紙が渡されていた。そいつを船に積んだトラックの1台を借りて運べばいいという寸断だ。


「それじゃ 各々 ・・・・ 楽しんじゃいましょう!」

 この島のリーダーのミグーナもまんざらでもない様子であった。


…。


「ちょっと あんた下手過ぎない?」


 パインはサクラに船の倉庫に止めていたトラックの運転を指導をされ、どうにかこうにかこの慣れない道を走らせるも、こうして女性陣からブーイングを食らっている。


「う ・・・・ ひどいなこれは」

 ミグーナも船酔いすらしていなかったのに明らかに様子が変だ。


 地図も何も分からないのでミグーナのナビでどうにかこうにか露店が立ち並ぶ場所まで着く。


 アッシュの急ブレーキでこれでもかと体を打ったのはいい思い出、自分もそれを自然に真似している始末である。


「おい まじでやめてくれ ・・・・」

 降りた後もミグーナは具合が悪そうであった。


 ここマタンレー国はナンテコッタイよりも随分南西に位置しており、かなり蒸し暑い。


 景色はさらに緑を色濃くし、バカに騒がしい鳥の声がする。人々は麦わら帽子を被り、みな薄手の服を着ている。


 道路は舗装されている所とそうじゃない所があり、運転初心者の自分にとってはかなり難しいと思っている。


 まだ朝なためか、人通りはこの商店街と呼ばれる場所でも少ない様子であった。しかし、きちんと店はやっているようで、様々な南国の代物が売られていた。


 運転に集中しすぎてあまり見てなかったので今こうして色々と確認をしていっている。


「えっとここで何買います?」

 そう言うとミグーナはよろよろと近くにあった休憩所の椅子に腰かける。


「あたしはあんたにやられたよ ・・・・ 2人で適当にしばらく歩きまわって頂戴 ・・・・」

 ミグーナのその言葉に少し傷ついたが、「ごめんなさい」と返事をしてリンデルと2人で露店をめぐり歩くこととなった。


…。


「まずは そうね ・・・・ 食べ物でしょう!」

 彼女は2人きりになり明らかにテンションが上がっていた。久しぶりのそれだったのでパインは恥ずかしくなっていた。船であまり見なかった彼女の笑顔が今までの激しい出来事を嘘のように忘れさせてくれた。

 

 彼女は普段のオーバーオールから短パンにTシャツ姿になっていた。さすがに彼女でも蒸し暑いようだ。軽く日焼けした彼女の赤くなった頬がとても可愛くみえた。


 南国のフルーツそのままの外見の容器のジュースに2人して舌鼓を打つ。甘酸っぱいそれは今まで経験したことのない味であった。


 座る椅子もテーブルも木で編んだように作られており、地面もさることながら優しく自分の体を支えてくれている。


 時折吹く風は、海のそれとは違い、線香とこのフルーツの皮のにおいを混ぜたような香りがしてとても気持ちが落ち着いた。


「あんたそれ もう着るのよしなよ」

 ズズと最後のジュースを飲み終えた彼女が、胸に穴の開いたスポーツウェアを指さしてきた。あのチャーギに胸を貫かれた事実は確かにこの服に刻まれていた。


 そうされてなお、こうしてピンピンしているのが、自分もそうだが、見ていた船員達も不思議に思っていないのが少し変だと思った。あまり記憶にないのだが、おそらく急所は避けられていたのであろう。サンベルがそう言っていた気がする。


 彼に世話になりすぎるのもどうかと考え、彼にもお土産を買わないと、と思い出す。


「ちょっと 聞いてるの?」

「あ うん ごめん そうだね」

 なにが「そうだね」よと、リンデルがはしゃぎながら言ってくる。


…。


 ジュース屋を後にし、2人はここでパインの服を買った。

 薄手ではあったものの、丈夫でゆったりと着れるタイプの黄緑色の7分丈のシャツであった。ついでに同じ生地の黒い短パンも買った。


 外国旅行者が多いのか、こうして自分は「刀」を脇に持ち、リンデルに至っては「ショットガン」を背負ってるのにも関わらず店の方々は平気そうであった。そして別のお店で2人して麦わら帽子を買った。


「うは それ面白い!」

 リンデルの髪型は今1つの団子であったため、丁度帽子が浮いているような見た目であった。パインは思わず声に出していた。


「いいのよ! これはこれでファッションよ!」

 まんざらでもない様子の彼女に再度笑ってしまった。


「ちょっとあんた達楽しみ過ぎてない~?」

 復活したミグーナが後ろからドヤァと現れた。


 その後はミグーナの案内の下、リンデル用の弾薬、確か麻酔弾って言っていた。それを購入した。サンベルにはここの土着の希少そうな植物のホルマリン漬けのビンを購入した。


 ミグーナはあのフルーツの甘い香りのする石鹸やオイルを購入していた。色々想像してにやけてしまっていたのは気のせいだろう。


…。


 トラックに戻り、材木屋や資材屋まで車を走らせ、ゼンダのメモを見ながらそれらを購入し積み込む。

 昼前にそれらを降ろすためまた船まで戻ってきた。


…。


「いや~終わっちゃったわねぇ ・・・・」

 そうミグーナが嬉しそうに言う。汗を拭き、次は何をさせんだろうとパインは考えた。


「やっぱ ・・・・ 海でしょ!」

(おお!)

「あんたにやけすぎ!」


 これは出来過ぎている、なんてご褒美なんだ。こうしてジャンルが違う美女2人と海に行けるなんて。


「い いきましょう!」

 南国の空気が頭の中にまで浸透してしまったようで、パインもノリノリであった。


…。


 急いで船の部屋に戻り、リンデルと一緒に買った恥ずかしい海パンに足を通す。この恰好で船の中を通るのは少し恥ずかしかったので、上着をちゃんと着て外まで出た。


 船を徒歩で降りる中、ふと操舵室付近を見上げる。そこにはコーダンともう1人、御歳を召した方、杖をついた老人が一緒にいたのが分かった。


(彼がもしや ・・・?)

『パンッ』

 背中をミグーナに強く叩かれ「いっ!」とパインは声を上げてしまった。


 彼女ら2人そろって船室の階段を上がってきており、甲板から掛けた橋の上にこうして集まった。2人とも既に水着を着ているようで、ちらっと見える素肌に心が躍った。


 幸い他の漁夫は今この場にいないようで、こうした幸運に嫉妬されずに済んでいた。それに目を奪われコーダンと老人の事はすっかり頭から抜けていた。


…。


 ザザと砂地の道を歩き、観光客用のビーチにまで足を運ぶ。着替えや武器も一応携帯していた。それらを全てパインが背負っていたが、彼女らの歩く姿が目に入る幸運とそれでは後者が大きく勝っていた。


 ビーチから見る海の景色は圧巻であった。人は殆どおらず、ほぼ貸し切り。海鳥の白い翼が下からでも良く見える。透き通った青い空にそれらが非常によく合っていた。


 蒼い海から白い泡を伴った波が金色の砂浜にザザと打ち寄せられている。


 そしてなにより……。


 いつのまにやら水着姿の彼女らが景色にこれでもかと彩りを添えていた。


 リンデルはあの時買った水色の水着。透き通った白い肌はその肩と腕だけピンク色に染まっている。うっすらと割れた引き締まった白いウエストに可愛らしいお尻のライン。そこからすらっと伸びる太もも。


(みずみずしい ・・・ )


 ミグーナのそれは、、おっとヨダレが出てしまいそうだ。失敬。


 長い首すじから肩にかけてのライン。そこにあるのははち切れんばかりのたわわ。すっとS字になっていくウエスト。鍛えられたたくましい太もも。本人も自分のプロポーションを理解しているのであろう、これまでかというほどの小さな面積の水着はヒョウ柄を装しており、うぶな自分では到底言い表せないお姿であった。

 時折棒立ちになってしまいそうになりながらも彼女らと砂浜を駆けまわり、波にダイブする。


 まるで楽園のようであった。


「あいてっ!」

 ミグーナの放ったビーチボールに顔面を打つ。


「ちょっとパインまた鼻血!!」

 そう言いながら体についた武器を小刻みに揺らしながら走ってくるリンデル。


(また ・・・?)


 サーブを放つミグーナのたわわをつい目で追ってしまっていたためボールが見えなかった。別のボールに目が行くように仕向ける彼女の攻撃だったが、やはり自分の失態である。


 鼻血はビーチボールのせいです。2度。。

 リンデルにそれを処置されるも中々鼻血が収まる気配は無かった。


(近い 色々近いって ・・・)

 嬉しい悲鳴が胸の内側で反響し合っていた。


「あ~疲れた! お腹減った! どっかお店いきましょ!」

 ミグーナがそう言い、ビーチでのご褒美は終焉を迎えた。


(はぁ ・・・)


…。


 いつの間にやら空はオレンジ色に染まっていた。


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 いい雰囲気のお店に3人で入る。薄暗い照明と緑の長いツルの観葉植物。ボサノヴァが店内に鳴り響いている。


 人がちらほらと店内に座っており、刀や銃を見るとボソボソ小言を吐きながらこちらを見やっていた。


「あんまり歓迎されてはいないようね ・・・・」

 ミグーナがそう言う。


 店員に案内され3人で乾杯をした。


「まぁ なんやかんやあいつらも楽しんでると思うから 楽しんじゃいましょう!」

 そうミグーナが言うや否や豪快に酒を啜り始めた。


 小さな丸いテーブルに次々にお酒や肉が運ばれてくる。


(今日1日は天国だ ・・・)


 そう思いながらパインも次々にお酒を口の中に落とし込んでいった。


「んで 2人はどうやって出会ったの?」

「こいつが あたしの獲物 ・・・・ 取ろうとしたのよ ・・・・」

「そう ・・・・ でもとられたのは ・・・・ ?」

「ちょっと! なに言わせようとしてるんですか!」

 リンデルが頬を赤らめているのはお酒のせいか、それとも。そんな事を考えるも頭がおいつけず彼女らのトークショーをまじまじと見ている。


 ミグーナのペースで酒を飲んでいるといつも以上にお酒が廻ることを今知った。

 頭がくらくらとしてきた。黄色い声を上げる2人の姿が今はぼんやりとしか見えなかった。


「ちょっと すいません お手洗いに ・・・」

 そう言い席を立ち、用を足す。


 少し酔いを醒まそうと店員さんにいって外のベンチに座っていいかと尋ねる。店員さんは少し焦った様子であったが、おずおずと外のベンチまで案内をしてくれた。


(なんていい日なんだ ・・・)


 外はすっかりと日が落ち、ちらほらと灯は見えるものの漆黒の空が大地を覆っていた。


「チョット 隣 ・・・・ イイかしら?」

 重くなった頭を上に持ち上げ、声の主を確認する。


 くるくるパーマの長い黒い髪の女性であった。どきどきしながら「どうぞ」と言い、隣に座る彼女。地元の方であろうか、少し訛っていた。そして上半身は水着のようなものしかつけておらず褐色の綺麗な肌が露わになっている。幸い下はスカートのようなものを履いていた。


「お兄さん すごいイイ体ですね ソレニ ・・・・ キレイな ヒトミ」

 そのお姉さんはこちらに身を寄せ、顔を近づけてくる。お姉さんもキレイなお人である。


「良かったら これ一緒に ノマナイ?」

 酔った頭でそれを断るのは非常に難しかった。彼女に誘われるがまま、渡されたそれを飲み干す。


「お兄さん 一緒に サンポ しましょう ・・・・」

「サンポ サンポ ・・・」

 パインは彼女と一緒に漆黒の闇に消えていった。


…。


//////////////////////////////////////


「あれ? パイン遅くない?」

 リンデルがそう呟いたのは彼女達の酔いがすでに冷めかけてきた頃であった。


「あれ ほんとだ ・・・・」

 時刻はすでに0時を回っていた。

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