【第100話】バロの依頼 その1
『もしもし ・・・・ どなたですか』
「パインと申します ・・・ あのお店でお会いした者です」
『ああ はい 覚えてるわよ ・・・・ 何か用?』
『『ザァァ ・・・ ザァァー』』
突如として強い雨が降ってくる。確かに降っていなかった。むしろ晴れ渡っていたはず…。
パインはあの男、バロがいた施設を出た所で携帯を確認した。その後にジーサに電話をかけていた。
「会えませんか ・・・ ?」
『ん? 何よ急に ・・・・ 別にいいけど』
「なるべく早く会いたくて ・・・」
『・・・・ 随分あんた ・・・・ 嫌いじゃないけど』
…。
『明日の昼過ぎ うちの事務所でなら ・・・・』
…。
事務所の場所をメールで送ってもらい、それを確認した。
「届きました ありがとう」
電話の中でリンデルの事を聞かれたが「いない」と言っておいた。
『そう ・・・・ じゃあ待ってるわ』
『『ザァーーーーーーーーーー』』
雨が……。
夜になったこの大地をより黒くさせている。
『ズプ』
パインはTシャツを捲り、胸に開いた3つの傷口を指で確認する。指先が銃痕に入り込み、体をしたたる雨水が色を赤に変える。
(これじゃない ・・・)
本当に痛い場所は指で触れられない所にあるようだった。
刀を拾い上げ、パインが作り出した惨状の上、ブロの死体の大地をトボトボと歩く。
他の冒険者の亡骸を素通りする。それすら今のパインの目には入らなかった。
羊達は木の影からパインを黙って見ていた。
…。
パインは山の斜面を転がるように下っていく。そのスピードは山を下る滝、いや泥流のようだった。
「はぁ ・・・ はぁ ・・・」
雨が体温を奪う。
血が流れ、頭を朦朧とさせる。
右腕が何度もピクンと動きパインを励ましていた。
…。
白い軽自動車、リンデルの車がパインの目に映る。彼は短い時間で山の麓のロープウェーの駅まで下りてきた。
ポケットをまさぐりリンデルの車のキーを取り出す。スペアを彼女は渡しておいてくれていた。相変わらず頭の構造が違う。
(・・・)
白い車は強い雨を受けギャンギャンと鳴いているようにすら見えた。
「よし 帰ろう ・・・」
…。
(あれ ・・・)
おかしい。体が動かない。あと少しで車に行けるのに。
『バシャン』
…。
『『ザァーーーー ザァーーーーー』』
パインは前のめりでアスファルトの上に倒れ込む。よりいっそう雨の音が耳に入った。
(「化物 ・・・・」)
心に開いた穴が埋まらない。
「う ・・・ うう ・・・ 」
「あ ・・・ ああ ・・・ 」
『バシャ』
パインの顔は水たまりの中に横向きで沈んだ。
…。
その水たまりはまだ出るパインの血で赤く染められていった。
…。
『 コツコツ 』
1人の靴音がパインの倒れる場所で鳴る。
「あは こんな所で倒れてるよ ・・・」
「仕事してくれないと 困るじゃないか ・・・」
『 コツコツ ココ コツコツ 』 『ズルズル』
もう1つ靴音が増えていた。
「困るねぇ ・・・」