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王喰  作者: 和和和和
15/15

今日の食事




「ちょっとビターな裏切り者の下種野郎」


「貴様……!」

 良人(いいと)とオークに指を差され、獲物として認定されたザイオスは、その表情に憤りと敵意を浮かべる。

「いくぞ、相棒」

『今日のメシの時間だ』

 獲物となった捕食者が生きるために戦う意志を示すのを見て取った良人(いいと)は、それを喰らうものとしての牙を剥き出しにする。

 その身から放たれる炎がその闘志――捕食者の食欲を表すように猛々しく燃え上がり、ザイオスから叩きつけられる風圧のような闘志に揺らぐ。


 良人(いいと)とザイオスが睨みつけるような視線を交錯させてしばしの間硬直していたかと思った次の瞬間、二人の姿が一瞬にして消失する。

 目にも止まらない速さで移動し、瞬時に上空へと飛び上がった良人(いいと)とザイオスは、王喰の炎を纏った拳と王威(オーラ)の光に染め上げられた戦斧の刃を正面からぶつけ合う。


「オオオオッ!」


 咆哮を上げるザイオスから放たれる王威(オーラ)の破壊光とせめぎ合う良人(いいと)は、その剛力によって弾き飛ばされて空中で体勢を整える。

「コイツ……」

(なんて馬鹿力だ。しかも強い)

 正面から自分を弾き飛ばすほどの剛力はもちろんのこと、自身の天敵である王喰とすら渡り合うことのできる戦闘力を発揮するザイオスに、良人(いいと)は内心で驚愕を覚えていた。


『ビビるなよ、相棒。喰われる奴は常に弱者じゃねぇ。捕食者と戦うための知恵と力を持ってるもんだ』 


 そんな良人(いいと)の脳裏に、舌なめずりの音と共にオークの好戦的な言葉が響く。

 地球でも肉食獣を草食獣が撃退するように、天敵である捕食者に一方的に喰われるだけが被捕食者ではないのだという認識を再確認する。

「誰に言ってるんだよ!」

 しかし、そんなことを言われるまでもなく分かっている良人(いいと)は、微塵も揺らぐことのない闘志のごとき炎を燃やしてザイオスへと向かっていく。

 深紅の流星と化した良人(いいと)は、先程のお返しとばかりに拳に纏わせた炎を剣のような形状に変え、迎撃のために振るわれたザイオスの戦斧へと叩きつける。


「ぐ……っ!」


 渾身の力で放たれた良人(いいと)の一撃の重みに耐え兼ねたザイオスは、歯噛みをしながら吹き飛ばされ、自身で作りだした塔の街の壁へと叩きつけられる。

 爆煙と粉塵を巻き上げ、塔と化した都市の中へと墜落したザイオスは、己から滴り落ちる鮮血を見据えて牙を剥く。


「王喰がぁああッ! 貴様を殺さなければ、我らの暮らしから安寧が失われてしまう! さっさとこの星から――我らの前から消えろ!」


 その咆哮と共に王威(オーラ)の力を放って塔を破壊したザイオスは、爛々と光る双眸で空中に佇む良人(いいと)を睨みつける。

 瞬間、ザイオスの声に応えるように、塔と化した都市が形を変え、高さ数百メートルはあろうかというほどの巨大な人型の鎧と化す。


「これは……!」


『あの街を作ってた力でこの街を自分の鎧に作り替えたんだ』

 さらには数十人にも及ぶ帝王種達が良人(いいと)を取り囲むようにして姿を現す。

 自分達の命を脅かし、支配者としての安寧を揺るがす存在への危機感と敵意を露にした帝王種達に、オークが良人(いいと)に思念で語りかける。


『こりゃピンチだな、相棒。一旦引いて体勢を立て直すか?』


 本心からのものではないことが明らかな軽口をたたくオークに口角を釣り上げた良人(いいと)は、その言葉をかき消すように、身に纏う炎の火力を更に高める。


「馬鹿言うな――あいつからもらったこの力が負けるわけないだろ」


『上等』


 周囲にいる帝王種など眼下にないとばかりに、都市を鎧として纏ったザイオスを見据えた良人(いいと)は、その中にいる獲物――「ザイオス」を見据える。

「全員でかかれ!」

 鎧から響く声と共に周囲に展開した帝王種達が四方八方から一斉に良人(いいと)に向かって襲い掛かり、自らの天敵を排除せんする。

 それと同時に、都市を鎧を纏ったザイオスも王威(オーラ)で強化したその腕を最上段から良人(いいと)に向けて叩きつける。

「……ッ!」

 速度の乗った都市の質量を炎で受け止めた良人(いいと)は、しかしその威力を受け止め切れることができず、そのまま地面に叩きつけられる。

 王威(オーラ)の力で作られた都市の鎧の拳の一撃は、地盤が割れるのではないかと思われるほどの破壊力を発揮し、太陽を隠すほどの爆塵を巻き上げる。

「まだまだ!」

 しかし、それほどの一撃を叩きつけながら、ザイオスは確実に王喰を仕留めるために、何度も何度も執拗に拳を撃ち込んでいく。

 一撃ごとに大地に亀裂が走り、巻き上げられた大地の粉塵が天から降り注ぐ光を遮る土砂の雲を作りだしていた。


「……童、いや王喰」

 天地を揺さぶる衝撃音を聞きながら、光の鎖に囚われたイシュカティールは、見えない場所で戦っている良人(いいと)を見つめていた。


「――!?」


 その時、天を衝く都市の鎧を纏ったザイオスは小さく瞠目し、地面に叩きつけた拳が持ち上げられるのを見る。

 そこにいるのは、先の一撃で地面に叩きつけられた王喰――「良人(いいと)」。その身に煉獄の炎を纏い、自身の数十倍の質量はあろうかという拳を持ち上げていたのだ。

「ウ、ラァアアアアアアッ!」

 渾身の力を振り絞り、炎を解き放つと同時、その衝撃波によって巨大な都市の鎧が大勢を崩してよろめく。

 自身の数百倍の大きさと質量を有するザイオスの都市鎧を吹き飛ばした良人(いいと)は、その身に負った傷を炎と共に治癒する。

「チィッ……しつこい奴だ」

 天敵である王喰を返り討ちにせんとするザイオスは、先の攻撃でも倒せなかった良人(いいと)の姿に鎧の中で歯噛みする。

 その声音には、都市そのものを支配し、王威(オーラ)の力で鎧と化して繰り出した攻撃を以ってしても倒せない王喰の生命力を忌々しく思っているザイオスの心境が露になっていた。

「好き放題やってくれたな」

 土煙が立ち上る中で軽く肩を回した良人(いいと)は、周囲にいる帝王種達が向けてくる戦意など意にも介さず、ただ一つ標的と定めたザイオスだけを見据え、口端を吊り上げる。


「――けど、ようやくお前の居場所を見つけたぜ」


 その双眸で睨み付けるのは、天を衝く巨大な人型の鎧と化かした都市――その頭部のわずか下あたりにある部分だった。

 これほど大きな鎧をやみくもに壊しても埒が明かない。だからこそ、良人(いいと)はこの戦いの中でザイオスがどこにいるのかを探していたのだ。

「っ!」

 王喰としての感覚と嗅覚を駆使した良人(いいと)に狙いを定められたのを感じ取ったザイオスは、顔を引き攣らせながらもその力を解放して迎撃する。

 都市の鎧が王威(オーラ)の力によって形を変え、無数の龍の首を思わせる形状となって他の帝王種と共に良人(いいと)へと迫る。


 ザイオスと帝王種の攻撃をかいくぐる良人(いいと)は、王喰の炎を手の中に収束して槍のような形状へと押し固める。

 炎が持つ破壊力の全てを凝縮した槍を手にした良人(いいと)は、その双眸で都市鎧の中に隠れたザイオスに狙いを定める。


「――いくぜ」


「どんな気分だ、地球人!?」

 王喰たる良人(いいと)に獲物として狙いを定められたザイオスは、都市の鎧の中から王威(オーラ)の力で声を拡大する。

 都市鎧が放った無数の閃光を軽やかに回避し、その隙に肉薄してきた帝王種の剣を炎槍で打ち払う良人(いいと)に、ザイオスの言葉が叩きつけられる。


「我らに飼われ、喰われるだけだったお前が王喰の力を手に入れて、我らを喰らうものとなった。これまで自分達を散々喰らってきた者達を恐れさせ、殺して喰らうのは、さぞいい気分だっただろう!?」


「……俺も、最初はそう思ってたよ」


 ザイオスの言葉に小さく独白した良人(いいと)は、炎の槍を一閃させて周囲にいた帝王種達を熱風で吹き飛ばし、鋭い双眸で眼前にそびえる都市の巨人を見据える。


「この力を手に入れて、お前らを殺せるんだって浮かれて舞い上がってた。お前らを殺せる力に優越感を感じてた」


 都市鎧の腕が振るわれ、それが途中で分裂し、無数の鞭となって降り注ぐと、良人(いいと)はその攻撃の嵐をかいくぐりながら、抑揚のない声で淡々と言葉を紡ぐ。


「でも、色んな奴と出会って、俺は自分が間違ってたって分かった。――どんなに俺が強くても、俺はお前達がいないと生きていけないんだって思い知らされたんだ」


 その脳裏には、美亜、フィナーリア、イシュカティール、オーク、これまで喰らってきた帝王種達の姿が次々とよぎり、自然と炎槍を握る手にも力が込められる。


 王喰の力を手にし、帝王種の天敵になっても良人(いいと)の心は晴れなかった。

 むしろ、その天敵となったことで、良人(いいと)は自分が憎んでいた帝王種の命が、自分を生かしてくれていることを否応なく実感することとなった。

 帝王種を喰らう天敵でありながら――否、天敵であるが故に、自らの食料である帝王種を慈しまざるを(・・・・・・)えなかった(・・・・・)


「この力は、お前達を殺すためのものじゃなくて、俺が生きてくためのものなんだ」


「同じことだ!」

 無数に分裂していた都市鎧の巨腕が再び一つになり、左右から良人(いいと)を叩き潰さんと迫る。

 まるで人が蚊を潰すように左右から叩きつけられた巨大な腕の一撃を炎の翼で阻んで回避した良人(いいと)は、穏やかな眼差しで言う。


「違うさ。同じだけど、違うんだ」


 帝王種を殺す力は、王喰が生きるために食料を確保するために必要なもの。結果的に帝王種を殺すのだとしても、その力は生きるためにこそあるのだと今の良人(いいと)には分かっていた。

 己の身に血肉となって取り込まれた帝王種達――フィナーリア達が良人(いいと)に教えてくれたのだ。


「俺達は自分達以外の命を喰わなきゃ生きていけない。どんな綺麗ごとを並べても、どんな言葉で飾っても、俺達は命を味わって生きていくんだ

 だから俺達は、食べ物に感謝して、誰かの命に支えられた自分の命を大切にするんだ――一人よがりでもいい。他の生き物を喰うからこそ、食べる命に正面から向き合うんだ」


 今ここにいる自分の命は、多くの別の命が支えてくれたものだ。肉となった家畜はもちろん、植物に至るまで全て。

 地球人としての飯田良人(いいと)としての自分。王喰となった自分。その命を支えてくれた全ての命を噛みしめ、良人(いいと)はザイオスをまっすぐに見据える。


「もう一度言うぜ。――俺はお前を喰う。それはお前が、俺のメシだからだ」


 その目に宿っているのは、敵意や憎悪などではない。ましてや感謝や慈愛でもない。

 ただ食材を前にし、生きるためにその命を糧とせんと欲する捕食者としての、ただ無機質な生命反応だった。


「なめるな! そう簡単にこの俺を喰えると思うな!」


 天敵から向けられた視線威ザイオスが背筋を冷たくすると同時、槍を構えた良人(いいと)はその背から放出した炎を推進力にして一直線に巨大な塔の鎧へと向かっていく。

 恐怖を振り払い、生にしがみつかんとするザイオスの咆哮と共に都市鎧の巨大な腕が振るわれ、周囲に展開する帝王種達が王威(オーラ)の力によって攻撃を放つ。

 しかし、良人(いいと)はまるで物理法則を無視したような不規則な軌道を描きながらそれらの攻撃を回避し、ザイオスへと炎槍の切先を向けていた。

「落ちろ! 落ちろ!」

 降り注ぐ王威(オーラ)の攻撃をかいくぐり、都市鎧が振り回す腕の隙間を縫うように飛翔する良人(いいと)は、その双眸でただ一点――今、喰らうべき獲物だけを見据えていた。


「悪いな。お前は、俺のメシだ」


「……!」

 その言葉と同時、炎の槍を構えた良人(いいと)が灼熱の閃光となって天を貫く。

 音を貫き、その軌道に存在する空気すらも焼き尽くす劫火が凝縮された深紅の閃きが、数百メートルにもなる都市の鎧へと突き刺さる。


 赤い槍の切先が王威(オーラ)を纏う都市鎧の腕を貫通し、その核であるザイオスがいる首元へとその刃を突き立てる。

 限界まで凝縮された灼熱の炎が触れるもの全てを焼滅させ、頑強なザイオスの鎧を蒸発させていく。


「ウ――オオオオオオッ!」


 咆哮を上げ、渾身の力を解き放ったと同時に、赤い光が鎧を貫通する。

「ぐ……あああああああっ」

 良人(いいと)が携える炎の槍――その切先で胸の中心を貫かれたザイオスは、己を焼く王喰の力に、苦悶と恐怖と怒りと、あらゆる感情がないまぜになった声を上げる。


「ガ、アアアアアッ!」


 死を目前にした恐慌の中、自身の王威(オーラ)を戦斧として具現化したザイオスは、その刃を渾身の力で最上段から良人(いいと)に叩きつける。

 しかしその刃は良人(いいと)の身に纏われる炎に触れて弾き飛ばされ、帝王種を殺す王喰の炎が戦斧を構築する王威(オーラ)の力を焼き尽くしていく。


「ば、馬鹿な……ッ!?」


 その光景に驚愕し目を瞠るザイオスに、良人(いいと)は静かな声で言い放つ。



「――いただきます」



「ぐああああああッ」

 身体を貫く炎槍から噴き出した炎に全身を喰われていくザイオスは、断末魔の声を残してその存在を焼失させる。

 炎に喰われ、ザイオスが槍の中に呑み込まれるのを見届けた良人(いいと)は、王喰の力を凝縮して作り出した槍を軽く振るう。


「ごちそうさま」


 炎の槍が火の粉となって形を失うと同時、軽く舌なめずりをした良人(いいと)が厳かな声で呟く。

 それと同時、良人(いいと)の左耳にイヤリングのように着けられた二つの女物の指輪が揺れて、小さな金属音を鳴らす。


 耳を凝らさなければ聞き取れない小さな小さなその音は、王喰である良人(いいと)の食事の終わりのベルであり、良人(いいと)の勝利を祝う祝福の鐘の音だった。


「……」

 ザイオスが死んだことで崩れ落ちる都市鎧の頭上で、光鎖の拘束から解き放たれたイシュカティールは、ゆっくりと傷ついたその身体で立ち上がる。

 ザイオスの死によって解放されたイシュカティールは、その美貌に険しい表情を浮かべたまま、軽く天を仰ぐ。


「……次は妾の番というわけか? 王喰」

 炎の翼を広げ、ゆっくりと降下してきた良人(いいと)は、イシュカティールのその言葉に小さくゲップを一つしてから応じる。

「今日はもう満腹だ。今からお前を喰うつもりはねぇよ」

「しばらく見ない間に、変わったようだな」

 つっけんどんな言い方ではあるが、以前感じた憎悪などが完全に消えているその声音に、イシュカティールは良人(いいと)の成長を感じ取って言う。

「どうだろうな――ただ、勘違いするなよ。俺は別にお前を助けたわけじゃない。今日はあの男を喰いたい気分だったっていうだけのことだ」

 その言葉に軽く視線を流した良人(いいと)は、イシュカティールに釘を刺すように言う。

 突き放すような声で告げた良人(いいと)は、その身を翻してイシュカティールに背を向ける。


「いつか、お前を喰いに来るから、それまでしっかりと味を磨いておけ」


「……覚えておこう」

 それを聞くが早いか、炎の翼を広げて飛び去っていく良人(いいと)の姿に視線を向けるイシュカティールは、小さく肩を竦めて背を向けるのだった。




※※※




 一陣の風が吹き抜けていく。




 天を衝く摩天楼が立ち並ぶ都市の中、その風景を見下ろすことができる高台の樹上に、一つの影が静かに佇んでいた。

『相棒。腹が減ったな』

 月の光に照らし出されるその人物――良人(いいと)は、自身の身体から姿を現した王喰の言葉に、眼下に広がる街を睥睨する。

「いくぞ、オーク」

『おう』

 ビルの間を吹き抜けてくる風に、イヤリングのように装着した金と銀の指輪を鳴らした良人(いいと)は、その言葉と共に空中へ身を投げ出す。

 瞬間、その身が炎を纏って姿を変化させ、良人(いいと)をこの都市を支配する存在「帝王種」の天敵たる「王喰」としてのそれへと変化させる。



「飯の時間だ」






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