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王喰  作者: 和和和和
14/15

最後の食事




「どうだ。いい眺めだろう? イシュカティール(・・)



 天を衝く塔のごとき形となった街の頂に立ち、そこから見える景色を一望した巨大な角を持つ帝王種――「ザイオス」は、最大の皮肉を込めた言葉と共に視線を向ける。

 そこにいるのは、地面から生えた光に拘束されたかつてのこの街の支配者である「イシュカティール」だった。


「不意を衝いて傷を負わせ、手負いの妾を追い立てて捕えたくせに、随分と威勢のいいことを言いよる」

 王威(オーラ)の力によって構成された光の枷に囚われ、完成された宝石を思わせる美しいその身体を血に汚したイシュカティールは、せめてもの抵抗とばかりに敵意を宿したその視線をザイオスに向ける。

「そちらこそ強がりはよせ。俺とお前では戦闘力が根本的に違う」

 しかし、そんなイシュカティールの言葉は、勝者となったザイオスにとっては負け惜しみに過ぎない滑稽なものでしかない。

 鼻を鳴らして嘲笑するザイオスに対し、イシュカティールもまた臆することなく挑発めいた声で言う。


「お前のそれは、強さではない。ただの暴力じゃ」


「クク、言ってくれる。――見ろ」

 あくまでも強がるイシュカティールの言葉に喉を鳴らしたザイオスは、その視線を何もできないかつての女帝から再び変化した街へと向ける。


「これからこの街は俺が管理する飼育場になる! この星の人間どもを管理し、より美味な個体を掛け合わせてより美味な食糧へと作り替える生産工場となるのだ」


 両手を広げ、まるで世界全てを集中に収めたかのような仕草で嬉々とした声を上げるザイオスに対し、イシュカティールは眉根を寄せて言う。


「それは傲慢な者の考えじゃ」


「否。知恵があり、生態系の上に立つ者の当然の権利だ」


 自然を自然のままに受け入れる自然派(ネイティブ)と、自然にあるのものを知恵を得た者がその力をもって自分達の生活により適応するように改良する美食派(グルメ)――決して相入れない思想を持つ二人が互いの意見を否定しあう。


 しかし、その問答に意味もないことは二人が一番分かっていた。イシュカティールとザイオス、二人の間にあるのは、戦いに勝った者と敗れた者という事実のみ。

 世界の歴史が勝者によって作られるものである以上、イシュカティールの言い分がどれだけ正しくとも、今全ての決定権を有しているのはザイオスなのだ。


「自らの力でこの世界に己の偉業を打ち立てる。そうして初めて、俺はこの地の支配者になれる」

 そう言って自身の手に身の丈にも及ぶ巨大な戦斧を掲げ、その切先をイシュカティールへと向ける。


 いかにザイオスがイシュカティールより強くとも、それだけで上に立てるわけではない。

 だからこそ、ザイオスが正式にこの街の支配者になるために、イシュカティールを己の手で葬る必要があった。


「あの世というものがあればそこでしっかりと見ておけ。今日からこの街は俺のもの。この星の人間達も、しっかりと管理して美味な食糧に育ててやろう」

 口端を吊り上げ、愉悦の笑みを浮かべたザイオスは手にした戦斧を天高く掲げ、その切先をイシュカティールの首へと振り下ろさんとする。

「……っ」

 それを見たイシュカティールは、己の命運が尽きたことを察し、悔しさを滲ませながらも、その死を受け入れるように目を閉じる。

 この現状を作り出した自身の失敗、その結果の全てを己の命で贖う覚悟を決めたイシュカティールの細い首にザイオスの戦斧が振り下ろされんとする。


 その瞬間、天を震わせるような轟音が鳴り響き、大地が揺さぶられるほどの衝撃が塔と化した都市全体を駆け抜けた。


「――っ!? 何事だ!?」


 何かしらの天変地異、あるいは爆撃かと思われるほどの衝撃によろめいたザイオスは、イシュカティールの首を落とすことが出来ずに怒号を上げる。

「しゅ、襲撃です!」

「都市の防壁が破壊されました! この力の波長は――王喰です!」

 何が起きたのかを問い質すザイオスの声に、その軍門に下った帝王種達が状況を報告する。

「……!」

 王威(オーラ)を用い、レーダーや通信を行ったことで周囲を探知し、即座に状況を把握した帝王種達の言葉に、光の鎖に囚われたイシュカティールが瞠目する。

(童)



※※※



『ハッ、ハア! 食事の前の準備運動としちゃあ悪くねぇな!』


 その頃、天を衝く塔と化した都市の外周。――王喰の炎によって焼滅させて作り出した大穴を前にしたオークが嬉々とした声を上げる。

「一気にいくぞ」

 そんな、どこか危機感のないオークに告げた良人(いいと)は、炎の翼を広げて一直線に都市の最上部へと向かっていく。


 王喰の嗅覚と探知能力を以てすれば、この程度の都市ならば一度会ったことのある帝王種を見つけ出すことは難しくない。

 王喰となった己の感覚に導かれるまま赤い炎の流星とかした良人(いいと)は、音すらも置き去りにする速さで一直線に天を翔け昇っていく。


「迎撃!」

 力任せに防壁を突破してきた良人(いいと)達を補足していた帝王種達が次々に姿を現し、各々が王威(オーラ)を具現化した武器を携えて敵意を露にする。

 天敵と戦うという事実も相まってだろう――敵意と恐怖の入り混じった決死の表情を浮かべた帝王種が向かってくるのを見据える良人(いいと)の脳裏に、オークの声が響く。


『来たぜ相棒。今日のメニューはあいつらじゃないんだろ? 殺すなよ』


「分かってるよ!」

 天敵という名の捕食者として、もしその命を殺めたならば相手を喰らうのが礼儀というもの。

 倒すのは容易だが、今目の前にいる帝王種達を喰わないために、殺さないように戦わなければならない良人(いいと)はオークの忠告に応えて炎を噴き上げる。


 炎の力によって加速し、一直線天を昇っていく良人(いいと)に、四方に散開した帝王種達の攻撃が襲い掛かる。

 収束された王威(オーラ)の力の雨の中をかいくぐる良人(いいと)は、それによって生じた破壊をかいくぐりながら、歯噛みする。


「邪魔だぁあああああっ!」

 視界を奪い、身体に打ち付けられる爆発の衝撃に苛立った良人(いいと)は、感情に任せて炎を解放すると、王喰の力が帝王種達の王威(オーラ)を焼き払って消滅させる。

 そのまま炎の翼を広げ、力強く羽ばたいた良人(いいと)は上空に待ち構えていた帝王種達が協力して展開した王威(オーラ)の障壁を力任せに貫き、天の彼方へと消えていく。


「は、疾い!」

「前よりもはるかに強く――」

 数十人による包囲と攻撃を突破した良人(いいと)の速度と力に、帝王種達が驚愕の声を上げる。

 赤い閃光の軌跡に導かれるように帝王種達が背後を振り向き、天を仰いだ時には、すでに良人(いいと)の姿は手の届かないところにあった――。


『ヒャハハハハッ! 最高だぜェ!』


 進化した新たな力に歓喜するオークの声を脳裏で聞き流しながら、良人(いいと)はさらに速度を上げ、一気に最上階へと到達する。

「……王喰」

 塔の側面を登り切り、天空へと昇った良人(いいと)の影を視線で追いながら、ザイオスは低く抑制した声で呟く。

 その軌跡をザイオスが視線で追い、良人(いいと)は炎の翼を羽ばたかせて、ゆっくりと降下していく。

 光の鎖で拘束されたイシュカティールと、塔の縁に立っていたザイオスの丁度中間に降り立った良人(いいと)は、二人の帝王種に交互に視線を向ける。

「まだ生きてるみたいだな」

 深手を負い、光の鎖に絡めとられたイシュカティールを一瞥した良人(いいと)は、抑制の利いた声で語りかける。

 安堵しているわけでもなく、ましてや残念に思っているわけでもない。ただ淡々と事実を確かめるような良人(いいと)の口調に、イシュカティールは苦笑を浮かべる。

「……童か」

 先日、自分を殺さんと牙を剥いてきた良人(いいと)の姿を今の良人(いいと)に重ねたイシュカティールが目を伏せるのを見計らっていたかのように、背後からザイオスが声をかける。


「丁度いい所に来たな、王喰。そこにお前の餌があるぞ? 好きなだけ貪っていけ」


 イシュカティールを殺す手間が省けたとばかりに嬉々とした声音で言うザイオスの言葉を背中越しにきいた良人(いいと)は、ゆっくりと振り返る。


「勘違いするなよ」


「なに?」

 イシュカティールを喰うように促された良人(いいと)は、低く抑制した冷淡な響きを帯びた声で、眉根を顰めたザイオスに言う。

「誰を喰うのか決めるのは俺だ。お前じゃない」

 この場における捕食者である自分が、誰を食べるのかはあくまで自分が決めることだと断じた良人(いいと)は、一拍分の間を置いて口を開く。

「相棒」

『なんだ、相棒』

 良人(いいと)の言葉に、その身体に融合していたオークが顔を出す。

「今の気分は?」

 そんなオークに対して投げかけられた問いかけに、オークはその意図を正しく読み取って鼻を鳴らす。

『――はッ、決まってるだろ?』

 その言葉と共に、共有した身体と心からオークの感情が流れ込んでくるのを感じながら、良人(いいと)は指先でその獲物を示す。


「ちょっとビターな裏切り者の下種野郎」




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