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王喰  作者: 和和和和
12/15

進化の力



「なんだ、その姿は!?」

「こんな姿、報告と違う!」

「――まさか、進化したのか!?」


 新たな姿となった王喰――「良人(いいと)」の姿に、周囲にいる帝王種達が驚嘆の声を上げる。


「これが……」


『そうだ! 俺達の進化した姿だ!』

 変化した自身の姿に一瞥を落とし、身体に漲る新たな力を感じ取った良人(いいと)に、オークが嬉々とした様子で吠える。

 心の内から聞こえる王喰の歓喜の声を聞き流し、良人(いいと)は自分の身体に溶けたフィナーリアの存在を感じて感傷を抱く。

「――フィナーリア」

 自分に宿ったフィナーリアの命を感じ取り、帝王種達の狼狽する姿を双眸に映した良人(いいと)が、鋭い爪の生えた手を軽く握ると、そこから紅蓮の炎が生じる。

 煌々と燃える炎が、まるで龍のようにのたうち、咆哮を思わせる轟音を上げながら迸る。

「う、うわぁぁあああっ!」

 帝王を殺し喰らう紅蓮の炎がその力を示し、王威(オーラ)の武器と守りすらも焼き尽くし、帝王種の一人を呑み込む。

 その炎が収束して掌へと呑み込まれると、良人(いいと)の口から嚥下の音が響く。

「許しを乞うつもりはない。生きるために仕方ないなんて言う気もない。俺は、生きたいから、死にたくないから、お前達を喰うんだ」

 軽く舌なめずりをし、先程喰らった帝王種の味を噛みしめる良人(いいと)は、その双眸で残った帝王種達を見据える。

 その瞳にもはや帝王種への怒りはない。今の良人(いいと)の瞳にある感情は食欲。――生きるために必要な命を求める純粋にして根源的な生命の衝動だけだった。

「こいつをこれ以上放置するわけにはいかない!」

「全員、死力を尽くして戦え!」

 自分達を獲物として捉える良人(いいと)の視線に恐れを抱いた帝王種達は、その力を解放して天敵たる帝王種を全霊を以って討伐せんとする。

 王喰も。帝王種も。どちらも生きるために戦う意志を有して相対する。


「ハアアアッ!」


 帝王種達が裂帛の気合と共に放つ王威(オーラ)の力の波動が全方位から良人(いいと)へと向かって迸る。

 大気すら焼き切るほどの力が凝縮された破壊の力が迫り、炎を纏う王喰となった良人(いいと)に炸裂し、天を貫くほどの破壊をもたらす。


 天地が震えるほどの力。帝王種が放った全霊の力は、かつて地球を支配していた人類が有していたいかなる兵器をも凌ぐほどの――それこそ、その気になれば小さな星くらいならば破壊するほどの力がある。

 まさに王の力と呼ぶに相応しい力の炸裂。しかし、その破壊の力は一瞬だけその威光を示したかと思うと、次の瞬間には内側から生じた紅蓮の炎によって食い尽くされる。


「な……ッ!?」

「馬鹿な、いかに王喰といえど、これだけの攻撃を無傷で凌ぐだと――!?」

 王威(オーラ)を喰らい尽くした紅蓮の炎の中心に佇む良人(いいと)の姿を見止め、帝王種達から驚嘆の声が零れる。

 この世界における唯一無二の帝王種の天敵。その名に恥じぬ力を以て王威(オーラ)の輝きを喰らった良人(いいと)は、その手中に収束した王喰の炎を剣の形へと押し固める。

 焼けた鉄を思わせる赫々と輝く両刃の長剣。それはまるで夜空に輝く星の一つを握っているかのようだった。


「いくぜ」


 抑制の利いた声で静かに宣言した良人(いいと)が炎剣を一閃させると、その炎熱が爆風となって吹き荒れ、周囲一帯を一瞬にして灰燼へ変える。

 森も、川も、大地も、その一薙によってこの世から消滅し、青い空を赤く染め上げる。


「――っ!」


 その輝きを目の当たりにした帝王種の男は、視界が赤く染め上げられた瞬間に共に戦っていた仲間達が消滅しているのを見て息を呑む。

 否。現実には消滅したのではない。王喰の力を持つ炎に呑まれ、仲間達が喰われたのだということは、その手に炎を回収して咀嚼するような音を発した王喰――良人(いいと)の様子を見れば明らかだった。


「そんな……一瞬で?」

 先程まで共に戦っていた仲間達が一瞬の炎熱と共に焼失してしまった現実に放心する帝王種の男は、自身へと向けられた良人(いいと)の視線に己の死を確信する。

「ッ!?」

 その予感が現実となるように、次の瞬間には獣の顎を思わせる炎を纏った良人(いいと)が眼前にまで移動してきていた。

 刹那の時間が止まったように感じられる中、たった一人残った帝王種の男は、王喰の腕に宿った炎獣の牙が自身に喰い込むのを見届けるのだった――。


『どうだ相棒。これが、あの女を喰って進化した俺達の力! 俺達の新しい姿だ!』


 腕に宿った炎を介し、喰らった帝王種を咀嚼して味わった良人(いいと)の脳裏に、歓喜に彩られたオークの声が響く。

「そうか」

『……』

 自身の力が進化し、強化されたことで狂喜していたオークだったが、あまりに素っ気ない良人(いいと)の声に渋い表情を浮かべる。

 瞬き程度の時間を置いて王喰としての姿から人としての姿に戻った良人(いいと)は、ゆっくりと歩を進め、光を受けて輝く金色の指輪を拾い上げる。


 すっかり乾いてこびりついた血痕。その中に落ちていたその指輪は、フィナーリアが着けていたものだった。

 掌の上にある血で汚れてしまったその指輪に視線を落とした良人(いいと)は、それを拳の中に隠して神妙な面持ちで言う。


「悪い。これはもらっておく」

 今回の出来事を忘れないため、自身を戒めるためにフィナーリアの指輪を勝手に持ち去ることにした良人(いいと)は、その身を翻して森の中へと歩を進める。



 良人(いいと)が立ち去った後、フィナーリアという名の帝王種の少女が暮らしていた森の一角は焦土と化し、そこには石で作られた墓のようなものと、一輪の花が供えられていた。



※※※



「――ッ!」


 突き刺すようなわずかな痛みに眉を顰めた良人(いいと)は、耳から流れる二筋の血でその肩口を汚しながらも、それがあることを指で確認する。

 良人(いいと)の手が触れている場所――その左耳には、金と銀二つの指輪がまるでイヤリングのように着けられていた。


 銀色のそれは両親と美亜の、金色のそれはフィナーリアの形見となった、共に飾り気の少ない女物の指輪。

 それを身に着けた良人(いいと)は、瞬く間に傷が癒えて痛みが消えるのを感じながら、満足気にその金属の感触を指で確かめる。


『なんだそれ? なにかのまじないか?』

「別に意味はねぇよ。無くさないように嵌めてるだけだ。――指には合わなかったし、変身した時とか戦ってるときに壊れるのも嫌だしな」

 そんな行動を見て怪訝な声を発したオークが尋ねてくるが、良人(いいと)はこともなげに淡泊な声で応じる。


 自分にとってかけがえのない存在である家族とフィナーリアの遺した指輪を持ち歩くことを決めた際、どのようにして持ち歩くのかは良人(いいと)にとって重要なことだった。

 王喰に変身した際、腕が変化すること、そこが炎に包まれることから指に着けることを諦め、戦闘中に間違って無くすことを嫌った結果、自分の身体に直接着けることにしたのだ。

 傍から見れば異常な行為に見えるだろうが、それが王喰として生きていくことを決めた良人(いいと)の新たな覚悟と決意の表れだった。


『ふぅん。お前らはそういうものに執着するんだな』

 そんな良人(いいと)の言葉を聞いたオークは、今度はこちらの番とばかりに、淡泊な声音で応じる。

 その声を聞いた良人(いいと)は、高くそびえたち、木洩れ日を地上へと落とす森を見上げ、哀愁を感じさせる様子で呟く。


「それより、オーク。ここを離れようか」


『イート』

 良人(いいと)の口から出たその言葉に視線を向けたオークは、そこに続けられる言葉を待つように耳を傾ける。

「人が暮らしてる街はここだけじゃない。俺はここしか知らないから、この星の色んな街を見て回りたいんだ」


 良人(いいと)が暮らしていた街は、世界にいくつもある帝王種によって管理される飼育領域の一つでしかない。世界――かつて、良人(いいと)達が国と呼んでいた場所やこの星には、このような場所が他にも無数に存在している。

 地球が帝王種のものになって以来、この街以外には知らない良人(いいと)は、その目と足を外へと向ける意欲を抱いていた。


『……いいのかよ? ぶっ殺したい奴がいるんだろ?』

 その言葉を聞いたオークが確認するように尋ねてくると、良人(いいと)の脳裏に自分達が暮らす街を総べる女帝の顔が思い浮かべられる。

「あいつか……」

 王喰になる前となった後に自分に冷ややかな視線を向けてきたイシュカティールの姿を思い返した良人(いいと)が遠い目で空を見上げ、その口から言葉を紡ごうとしたその瞬間――


 大気が揺れた。






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