↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/6

#6

 ツェレミア王女がついに婚約! というニュースは、ミルが思っていたよりはずいぶん早くアンドラシア王国中に広まっていった。他に大きなニュースもない時期だったのだろう。王国籍を持たない相手との婚約は問題になるかと思ったが、「王国内に、彼女より強い独身男性などほとんどいないだろう」と、人々はあっさり納得したようだった。

 それからしばらくして、ダリアとミルは相談所のソファーに座り、ツェレミアとブラックドラゴンを出迎えていた。成婚による退会の書類に、二人が代わる代わるサインする。

「彼と引き合わせてくださったこと、心から感謝いたしますわ」

 ブラックドラゴン――ハッセ・アトルムの傍に寄り添ったツェレミアが、幸せそうに口を開いた。かたわらに座るハッセは、ツェレミアとの釣り合いを取るためか、普段よりも少し年上の人間の姿に転じている。

「ボクもです。このまま、あと何十年かは独身でいるのかと思っていましたから」

 穏やかに見つめ合うふたりを見ていると、ミルとしても暖かい気持ちになってくる。

「ミルも諦めないで頑張ってくださいね。同じドラゴンとして、応援していますよ」

「お、同じだなんてそんな、私なんてしがないレッドドラゴンですし……あの勇者様にペットを殺されても、何もできなかった小物ですから……」

 まあ、とツェレミアが目を丸くする。あれ、言ってなかったの、という顔をするハッセを前に、ミルはどうしたものかと曖昧な笑みを浮かべた。

「い、いや、あの……グリーンドラゴンたちは、人間で言ったら、庭に集まってくる小鳥に餌をやっていたら懐かれてしまったというような感じで……私からすると可愛いペットというか、言葉もわりと通じるので寂しさを紛らわす家族みたいなものだったんですけど、まあその……生態系の摩擦は仕方ないです。謝りはしませんが、恨みもありません」

 その《竜殺しの勇者》があんな人だとは思いませんでしたけど、とミルはため息をつく。

「そうですか……伝説によれば、もともとドラゴンが住まう土地に攻め入って、人間の王国を作ったのはこちらですものね」

「ドラゴンが人間と魔族を相手取った全面戦争に負けたのも、同胞が散り散りになったのも事実ですよ。でもまあ、たぶんみんな、そんな昔のことに興味はありませんから。ドラゴンが住める山は、世界にまだいくらでもありますし。私くらいのショボいドラゴンだと、あそこに見える丘のような山でも、充分暮らせてしまいますので……」

 ミルが言えば、ハッセも腕を組んで頷く。

「ドラゴンは昔を振り返るよりも、新しい刺激を欲しがる生き物なんです。これからの生活が楽しみですよ、ハニー」

「わたくしもです、ダーリン」

 それから人目もはばからず、自然な仕草で唇を重ねるふたり。

 はわわ、と目を丸くするミルに、ダリアが微笑ましい小動物を見るような視線を向けた。


 ◇


 ツェレミアとハッセが腕を組み、仲良く出て行くのをダリアとミルは見送る。

「いやー、しかし……さすがです所長。まさかこんなに上手くいくなんて」

「そうね。わたしとしては、できればもう一組まとめてみたかったのだけど……まさかケガ人ひとつ出さずに討伐隊が帰ってくるとは思わなかったわ。あなたの手腕を見くびっていたみたい」

「あの、所長? もう一組って……」

「気にしないで。これは仕事とは関係ない、単なるわたしのお節介だから」

 首を傾げるミル。

 ふと、ハッセが何かを思い出したように振り返り、ツェレミアを置いてひとり戻ってきた。

「どうかされましたか?」

「すみません、これだけはお伝えしておきたくて」

 ハッセが真顔でミルの両手を握る。

「――騙されたと思って、一度ピンヒールを履いてみてください。絶対に似合いますから」

 では! と去って行くブラックドラゴンの後ろ姿。

「……どういう意味でしょう、今の」

「あら、わたしも同じことを考えていたのよ。今度ピンヒールを履いてみない? 武器もたまには別のものを使ってみたらどうかしら。鞭とか」

「はい……?」

 午後の陽光を浴びて、ツェレミアとハッセが仲睦まじく歩いて行く。

 ダリアの発言に首を傾げながら、ミルは今度こそ、去って行くふたりの背中を見送った。


(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。