0010-05
「アズサっ。大丈夫かっ!」
自分の心配よりも先にアズサの心配をする。それから割りと少なくなってしまった魔力を温存するために詠唱を始める。
「我の動きを阻害する者達よ。障壁となる者達よ。我が怒りの前に散り、その灯火を吹き消そう。影茨の障壁」
壁のようにヨイヅキと泥のわずかな隙間に入り込み、押し出していく。負けじと泥も多い尽くそうとするが、影茨の障壁の方が強く、押し出されていく。
「破裂せよ」
ぽんっ、と軽い音と裏腹に凄まじいほどに破裂した。まるで膨らませた風船を破裂させたかのように。
「アズサ、今助ける!」
※※※
その頃、アズサは全身を泥で覆われていた。辛うじて息はできる。だが、甘ったるい匂いが鼻孔をつつきまくっている。
それにこの泥、生暖かく全身を包み込んでいるのだ。圧倒的な力で押さえつけられているように全く動けない。
「なんだか体がおかしいのじゃ」
全身をビリビリと駆け抜ける、火照ったような感覚。感じたことのない感覚に驚きを隠せないアズサである。
それになんだか、眠たくもなってきた。だが眠れば死ぬのはなんとなく理解できた。
だが次の瞬間、全身を舐め回されているような不快感が襲ってくる。服の中にも幾分が入ってしまっているようで、危険な感じである。
「うにゃぁっ! 気持ち悪いのじゃ!」
だんだんと、不快感は激痛へと変わっていく。手先が、足が少しずつ痛んでくる。だが動くこともできずに永遠と時が過ぎていくようにも感じられる。
「助け、て。ヨイヅ──」
もしかしたら死んでしまうかもしれない、と思いつつも意識を闇に落としてしまった。
「アズサ、大丈夫か?」
「ん、ヨイヅキ殿。ここはどこじゃ?」
「先程の泥みたいなあいつらが、チョコスライムだったみたいだ。それより、大丈夫なのか? 助けたときには気を失っていたから、心配したぞ」
ヨイヅキもアズサもチョコスライムの粘液でどろどろである。茶色い液体が体のあちこちに引っ付いている。
「まさか、あんなにも強敵だったとは……」
「助かったのじゃ。ありがとう、なのじゃ」
素直に礼を言うアズサ。少しだけ目をそらして、そうか、とだけ呟いたヨイヅキ。何かを思い出したかのようだった。
「どうする? 恐らく、このチョコスライムの破壊したコアを持っていけば依頼完了だが……」
「体を洗いたいのじゃ……」
少し時間がたったからか、全身にこびりついている粘液が固まり始めている。それに、様々な場所に入り込んでしまったのだ。ベタベタであるので、早く水浴びをしたいところであるのだろう。
「どうする? 川は近くにないぞ。家に戻るしかないが、この格好で戻るのは嫌だな。なんか、失敗したみたいで」
「そうじゃな。事実ではあるのじゃがな」
ものすごく変なプライドである。しかし、良い案も浮かばないので仕方がなくそのまま帰ることにした。帰りの道中に、可愛そうな目を向けられたのは忘れたい記憶である。