0010-04
某所にて
鉄と鉄が激しくぶつかる音が木霊している。それは向き合った二人の男が出している音。
「そんな程度の実力で、俺様に勝てると思ったのか? 俺様も舐められたものだ」
「くっ。さすがツキノキ家の長。実力が違いすぎる……」
ふたたび甲高い音が鳴り響く。カランカランと。ツキノキ家の長と呼ばれた男の猛攻をなんとか防いでいる挑戦者の男。
「これで終いだな」
「負けた……」
すっ、と首筋に金属棒が添えられていた。明らかに挑戦者の負けである。
「そこまでっ! サザン・ツキノキ様の勝利」
審判が声をあげて勝利を告げる。うなだれる挑戦者を一瞥したサザンはそのまま去っていく。
※※※
「お疲れさまでした。サザン様」
「どうだった。俺様の試合は」
「さすがの一言にございます。いまのサザン様は負け無しでしょう」
「今なら、あの無能にも勝てるだろうな。勝ち逃げしやがって! 見つかったか? 無能の姉上は」
憎々しげに呟いて、隣を歩いている召し使いに聞く。召し使いは少し間を置いてから話始めた。
「恐らく、アズサ様はナルトリアと呼ばれる町にいらっしゃるのだと思われます。魔術の効かない剣士が壱之刻を討伐した、という噂を聞いております」
「ちっ。十刻災厄を倒したのか。まぁ、どうせまぐれだ。俺様も倒せるはずだ。なら、俺はナルトリアに向かう。用立てしてくれ」
「ですがツキノキ家を長期間、開けることに……」
「くどいぞ。さっさとしてくれ」
「かしこまりました」
※※※
「ヨイヅキ! 遊びに行ってくるね」
「気を付けて遊ぶんだぞ。カーミレ」
はーい、と言う元気な声がして扉を開けて出ていった。今、家にいるのはアズサとヨイヅキだけである。シュトラウスは大神殿で仕事中であり、他の古竜達はパーティーが終わった今日の朝早くに皆、帰っていった。
「アズサ、たまには一緒に魔獣討伐に行かないか?」
「そうじゃな。行きたいのじゃ」
「なら準備してくれ、大量に狩るぞ。どうやら大量に沸いているみたいだからな」
ヨイヅキはいつもの戦闘用のローブを羽織ながら言っていた。嬉しそうにアズサも頷いて、部屋に戻る。恐らく、Ⅰ天地煌華と戦闘衣装を取りに行ったのだろう。
「よし行くぞ。アズサ」
「行くのじゃ!」
二人がナルトリアの町から出て、魔獣が群雄闊歩する地帯へと歩き出す。ちらほらと魔獣が見えるがどれもこれも他の魔術師でも狩れる弱さなので無視しておく。
「ヨイヅキ殿。今回の目的の魔獣はなんなのじゃ?」
「あぁ。チョコスライムと呼ばれる茶色い魔獣だ」
チョコスライムとは、甘い匂いを漂わせて近づいてきた獲物を捕食する危険な魔獣である。普通のスライムは半透明でコアが見つけやすいのだが、チョコスライムは茶色で透明ではないのでコアが見つけにくいのだ。
「チョコスライムのチョコとはなんじゃ?」
「あぁ。それは、菓子の名前だそうだ。初めて発見した勇者が溢した言葉らしい。それと、稀に色違いのホワイトチョコスライムもいるらしい」
ホワイトチョコスライムは色が違うだけである。チョコスライムと脅威度は変わらない。
「のう、ヨイヅキ殿。なんだか甘い匂いがしてしたのぉ。美味しそうじゃのぉ」
「あぁ。近くにいるみたいだな」
少し歩くと、湿地があった。大量の泥があたりに散らばっている。不思議なことに泥の中から青々しい草が生えていた。
「きゃっ!」
「アズサっ」
突然、泥が動き始めた。ふにょんふにょんした泥は触手のように蠢き、アズサを絡めとって行く。しっかりと握っている天地煌華を抜く暇も無いようだ。
「影茨の槍!」
ヨイヅキの影から槍のような黒い影でできた茨がアズサに向かって飛んで行く。アズサ以外の魔術師ならこの触手と一緒に貫かれて死ぬだろう。
だが、アズサは特異体質《魔力反発》を持っているのだ。影茨の槍はアズサに触れることなく、霧散した。触手は魔術によって弾かれる。これで天地煌華を抜く時間ができた。
「ちょっと、怖かったのじゃ。仕返しじゃっ!」
すぐにアズサに絡んでいた触手が切り刻まれる。ぼとり、と落ちる。だがまだまだアズサを飲み込もうと触手が迫ってくる。
斬って斬って、斬りまくっても中々勢いは収まらない。時々、ヨイヅキが援護してくれるので致命的な隙はまだ見せていない。だが、ヨイヅキもヨイヅキで泥が襲ってきているのだ。
ほとんど弾き飛ばしているが、ヨイヅキの魔力も有限である。
「しまった!」
ヨイヅキがとうとう泥に捕まってしまった。その時に魔術を撃ち損ねてしまい、アズサも致命的な隙を見せてしまう。




