0010-03
緩やかな音楽が流れている会場。男女一組、ペアになって踊っている者も多く見える。だがそんな中で、特に目立っているのがグレンゲとスイハのペアだった。
グレンゲの少し荒々しいとも言える乱雑な踊りを包むように、相手を引き立たせる為に自らは淑やかに、スイハが相手をしていた。
「へぇ。グレンゲのやつ踊れたのか」
「ね。暇でしょ? 一曲お願いできる?」
独り言を呟くいていたヨイヅキに対して、にやっ、と笑いながら誘ってきたのはコウリョである。身長差があるので難しいのでは、と思っていた。
「いやいや、俺との身長差を考えれば──」
「ふふ。大丈夫だよ。ほら、きっと楽しいよ?」
目の前にはコウリョの面影を残した女性が居た。何時ものように子供のような無邪気さは抜けて大人っぽさが溢れる姿である。身長もだいぶ伸びて、ヨイヅキと目線が合うぐらいであった。
「踊ろうよ。ヨイ君」
「わかりました。エスコートしますよ。お嬢様」
わざとらしく大きく礼をしてから出された手を握った。曲がまた緩やかに流れ出している。
「なら、エスコートさて貰おうかな。王子さま」
「冗談はよせ。俺に王の資格は無い」
「ふふっ。そうだね」
他の貴族と変わらない、ずっと昔からある儀式的な超高難易度の踊りをなんなくこなしていく二人。
ここまで完璧に踊れるものは、あまり居らず逆に目立ってしまっている。
「すごい。ヨイヅキ、綺麗に踊ってる。でも、一緒に踊ってる人誰だろう?」
「確かに。ヨイヅキのやつ、誰と踊ってるんだろ?」
大人の体格では、相手のできないみちっ子のカーミレとシュトラウスが二人で喋っていた。アズサは小柄な男性とは踊れるので楽しんでいるのだろう。ここには居なかった。
「ねぇ、シュトラウスお姉ちゃん。暇」
「確かに……だって、私達踊れないもんね。小さくて!」
シュトラウスは竜の器になってからというもの、身長がかなり縮んでしまった。助からない身で助かっているので文句は言わない、と本人はいっていたがやはり少しだけ気にしているのだろう。カーミレは、まだまだ成長期がまだなので当たり前であるが。
「どうしたんですか? カーミレちゃんにシュトラウスちゃん」
「あのね。リョクハお姉ちゃん。カーミレね、暇なの」
「私も同じく」
暇潰しの相手に選ばれたのはリョクハであった。同じく、誰とも喋っておらず黙々と辺りを見回しているだけだったからだろう。
「そうなのね。確かに、私も暇だわ」
笑顔でそう言っている。だが馴れているのか周りをただ見ているだけのようだ。
カーミレも目を瞑って辺りの音に集中してみる。ざわざわ、ざわざわと人の声が四方八方から聞こえている。他愛のない話し声が多いが、やはり棘のある悪意に満ちた声も聞こえる。
町を救ったと言えど、所詮ヒトデナシである、だとか心無い声である。少しだけ聞いたことを後悔したカーミレであった。
そんなこんなで、ゆっくりと時間が過ぎていく。楽しい者にはあっという間に、つまらない者には永遠ともとれるほどの長い時間が。