0006-02
影渡して移動した場所は高い、天空にも届きそうな程の塔だった。
塔の名前は天空巨塔。天にも届きそうで、とてつもなく大きいことからそう呼ばれている。
だが、だれもこの頂上まで登ったことはない。登れないのだ。
頂上に近くなると、空気が途端に薄くなる。魔術で空気を生み出したとしても、すぐに掻き消されてしまうのだ。
「コウリョ!頼みがある」
「あ!ヨイ君じゃ~ん。どしたの?」
ヨイヅキの声に直ぐに塔から一人の少女が現れた。この少女こそ光と療の竜、コウリョである。
「実は治療をしてほしいんだ。コイツの」
「え?このままはもう無理だよ?忘れたの?死者は蘇らないよ?」
あっけらかんと笑うコウリョ。死をひっくり返せないのは、竜であっても同じことなのだろうか?
「そこを何とか。頼む」
「ん~。出来ないこともないよ?でも、望まない姿になってしまうと思うよ」
望まない姿とは、分からない。いつも、ヨイヅキはヨイヅキの我儘で助けてきた。カーミレだってそうだ。
この考え方は、ヨイヅキが助けられたときに染み付いたものである。
ヨイヅキが死にかける程の怪我を負った時。その時はまだ若い者も、年老いた者も先程の老年の男のように竜に敵愾心を持っていた。
見つけたら問答無用で殺そうとするほどに。
そんなときに、ラヴァだけが助けてくれた。
『ん?なんで助けたのかって?助けたかったからに決まってんじゃん。だからさ、キミも助けたい!って思った人は助けてあげてよ。キミにはその力があるんだろう?』
笑顔でそういったラヴァはヨイヅキの竜の顔を撫でた。
「それでもだ」
「ふぅ~ん。大切にされてるんだね。転生ならいけるかな?魂はまだ残ってるし」
輪廻転生。
器が壊れてしまった魂は他の新しい器に入れ替わる。これが、輪廻転生である。
「でも、ある程度の知性を持たせるなら代償が必要だよ?」
こちらの瞳をじぃっと、見ながらそう告げる。いかに、治療等に特化しているコウリョでも代償無しには転生先を選べないのだ。
「俺の左腕を」
「ふふっ。本当にいいの?代償に使えばボクでも再生できないかもよ?」
「それでも、だ」
強い意思を持って、コウリョの問いに答える。
「ふふっ。いいよ。直ぐに準備するさ」
クルリと回り、塔のなかに入っていった。ヨイヅキはそれに続いていく。
「さぁ、始めようか。久しぶりだなぁ。輪廻転生の儀は。ボクは天才だから失敗しないよ!安心して」
「あぁ。わかってる。お前は天才だ」
「んじゃ。ここにその子置いてよ」
指差されたのは、長方形の台だった。幾何学模様が幾重にも重なったデザインとなっている。
そこに、シュトラウスを置いた。脇腹の傷口からまた、血がこぼれだす。そこからは、ゆっくりと魔方陣が描かれていく。
「いくよ!ほいさっ」
「いきなりやるな!いてぇ」
思いっきりヨイヅキの左腕を引きちぎった。瞬時に血が止まる。コウリョの能力である。回りにいる生きている者の怪我を回復させる、という。
ヨイヅキの左腕が先程の台に置かれる。溝に血が吸われていくように広がり魔方陣が完成した。




