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オサとワサビ

「……ん……ん?」

 ワサビが目を覚ますと、ぼやけた視界ながら、外が闇に包まれていることがわかった。つまり夜なのだ。

「あれ……?」

 ワサビは違和感を覚えた。

 見える景色は満天の星空だけだ。

いやそれよりも、手が動かない。足も動かない。

 それもそのはず、彼女の両手両足は広げられた状態で、石の台に縛り付けられていたのだ。

「……何で? どーゆーこと?」

 ワサビは何が何だかわからず混乱した。ただ、首は動いたので辺りを見渡してみたところ、そこは石舞台の中央で、その周りを町人たちが取り囲んでいるということがわかった。

「一体、何が……?」

「生け贄を!」

 誰かが叫んだ。それを皮切りに、あちこちで「生け贄を」というコールが起こった。

「え、ええっ?」

 その群集をかき分け、正確には群衆が自ら道を開き、サツマイモのつるで作られた月桂冠もどきをかぶり、さらに原色を散りばめた派手な衣装を纏った男が現れた。どうやら神官のようである。

「汝は生け贄に選ばれた。感謝するがよい」

 神官は、仰々しく言った。

「……え? あたしが生け贄?」

 ワサビには神官の言っている意味がわからなかった。

「さよう。汝は芋神さまに捧げられるのだ」

「え? 何で?」

「この日照り続きではこの町は滅んでしまう。芋神さまに生け贄を捧げ、奇跡をもたらしていただくのだ」

「えー?」

 ワサビには知る由もなかったが、この町のサツマイモ畑をよく見ると、その奥にはつるの巻きついた髑髏もあった。

「もうすぐ夜が明ける。太陽が昇る時、汝は神に捧げられる……」

「あれ? 今夜じゃないんだ。へー、結構眠ってたんだなぁ」

 ワサビは場違いな感想を漏らした。

「おお、間もなく日が昇る――」

 神官が感嘆の声を漏らした。その言葉通り、空が白み、太陽が顔を出し始めた。

 それに合わせ、神官は巨大なナタを取り出した。

 そして振りかぶる。

 しかし、ワサビの顔に恐怖の色はない。むしろ安堵の表情を浮かべ、ある一点を凝視していた。

 それをいぶかしんだ神官がその視線の先を見ると、そこには大きく姿を現し始めた太陽――

 その中に影があった。影は次第に大きくなり、

「オサ!」

 ワサビが叫んだ。

 影はオサだった。オサはそのまま突っ込み、張り巡らされたロープにかかりそうになる瞬間、体を縮小させくぐり抜け、一気にワサビの元まで飛来した。

 そのまま神官の振りかぶったナタを弾き飛ばし、鋭い爪でワサビを縛っていた縄を引きちぎった。

「つかまれ。脱出する」

 オサは体のサイズを元に戻し、言った。ワサビは「うん!」と元気よく返事をして、その背に飛び乗った。オサは翼をはためかせ、ふわりと浮かびあがる。

「に、逃がすな! 神への供物だ!」

 神官が叫ぶ。それに合わせ、町人たちが殺到する。その手にはクワなどの農具が握られていた。

 しかし、彼らに捕まるより早く、オサは飛び上った。とはいえ、上はロープで封じられている。ワサビを乗せた状態では体を縮めてくぐり抜けることも出来ない。

「――入口から出るしかないか……しっかりつかまっておれ」

 びゅん、そう風を切る音がした。オサは群衆の頭上すれすれを駆け抜けた。

 群衆は慌てて追いかける。オサは、町中に張り巡らされたロープが邪魔で、いまひとつスピードに乗れない。

「くっ……」

 町の入口へはあと少しであるというのに、いまや群衆はオサ(とワサビ)のすぐ背後まで迫っていた。

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