第八話 生還
第一索敵隊。
音信途絶。
その報告が入った瞬間。
第88機動艦隊は、一気に戦場の空気へ変わっていた。
「全艦、対空戦闘配置!」
「直掩機発艦急げ!」
「対空砲座、旋回確認!」
怒号が飛び交う。
駆逐艦群が陣形を変える。
巡洋艦が斬光前方へ展開。
巨大空母を守るための防御陣形。
だが。
敵影は未だ確認できない。
見えない。
それが逆に恐ろしかった。
艦橋。
美鈴は前方海域を見つめ続けていた。
通信士が必死に呼びかける。
『第一索敵隊、応答してください!』
『風間少佐、応答を!』
返答はない。
雑音だけ。
『……ザ……』
『……ッ……』
切れ切れのノイズ。
艦長が低く言う。
「まだ生きてる。」
美鈴は何も答えない。
だが。
握った手に力が入っていた。
副長が指示を飛ばす。
「第二防空線形成。」
「右舷駆逐隊、前方展開。」
「斬光直上空域、直掩優先。」
対空防御長も続く。
「全機銃群、迎撃角固定。」
「高度別射界確認。」
巨大艦隊が動き始める。
静かな海。
その上で。
鋼鉄だけが慌ただしく動いていた。
その頃。
外洋上空。
風間は海面すれすれを飛んでいた。
敵機が後方から迫る。
速い。
異常な速度だった。
通常航空機の動きではない。
滑る。
空を滑るように曲がる。
「ちっ……!」
風間は機体を急旋回。
敵機群が追従してくる。
普通なら失速する角度。
だが。
相手は減速しない。
「何だその動き……!」
敵機が迫る。
風間は即座に高度を落とした。
海面数メートル。
波を掠める。
機体が激しく揺れる。
後方。
敵機が一瞬だけ追従を遅らせた。
「そこか!」
風間はさらに海面へ押し付ける。
通常機なら危険すぎる低空。
だが。
敵機側も完全追従はできない。
風間は海面反射と波飛沫を利用しながら飛ぶ。
背後を振り返る。
敵機はまだ来る。
黒い。
形は戦闘機に近い。
だが。
継ぎ目がない。
鋼鉄の塊が飛んでいるようだった。
しかも。
音が妙に小さい。
「気味悪ぃ……!」
風間は歯を食いしばる。
その時。
無線へ再び雑音が戻った。
『……ザ……』
『……第一索敵隊……』
風間は即座に叫ぶ。
「生きてる!」
「聞こえるか斬光!」
艦橋。
通信士が顔を上げる。
「通信回復!」
美鈴が前へ出る。
「風間!」
雑音混じりの声。
『艦隊確認!』
『十五から二十隻!』
『模倣体確定!』
艦橋の空気が凍る。
風間は叫び続ける。
『空母型あり!』
『航空機出してきやがった!』
『通常機じゃねぇ!』
その瞬間。
後方敵機が急加速した。
風間の目が見開かれる。
「――速ぇ!」
敵機が迫る。
機銃火線。
風間機左翼を掠める。
警告音。
機体が揺れる。
『被弾軽微!』
『だがまだ飛べる!』
風間は急旋回。
さらに海面へ。
敵機が追う。
だが。
遠方。
水平線の先。
巨大艦影が見え始めた。
「……見えた。」
斬光。
そして第88機動艦隊。
風間は笑った。
「帰るぞ、この野郎。」
艦橋。
観測索敵士が双眼鏡を止める。
「……来ます!」
「高速接近一!」
対空防御長が叫ぶ。
「全機銃群、迎撃準備!」
「直掩機上げろ!」
艦橋が揺れるように動き出す。
その直後。
雲の下。
海面すれすれ。
一機の索敵機が飛び出した。
「第一索敵隊機確認!」
「風間機です!」
その後方。
黒い機影群。
対空防御長の目が細まる。
「来たか。」
低い声。
「撃ち落とせ。」
次の瞬間。
第88機動艦隊の対空砲群が、一斉に空を向いた。




