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斬光 ―空を止めない艦隊―  作者: 縁側×野良猫
第一章 異形空母
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第四話 着任

昭和十八年。


帝国海軍司令部は、一つの異例人事を発表した。


第三世代航空循環艦『斬光』。


ならびに、第88機動艦隊司令任命。


任官対象者。


特務少将――霧野美鈴。


司令部内は騒然となった。


二十八歳。


女性。


軽空母上がり。


しかも特務少将。


通常人事ではあり得ない。


当然、反発も起きた。


だが。


司令部は押し切った。


理由は一つ。


斬光を理解しているから。


それだけだった。


そして。


美鈴はさらに、司令部を困らせる。


「艦長、副長、航空隊長、整備班長、観測索敵士、医務長、対空防御長。」


「こちらの人員を希望します。」


提出された人事書類を見た司令部士官が眉をひそめる。


「……勝手なことを。」


美鈴は静かに答えた。


「必要です。」


「この艦は通常艦ではありません。」


「運用思想を共有できる人員が必要です。」


「艦長には、最後まで艦を捨てない人が必要です。」


「航空隊長には、空を恐れない人が必要です。」


「観測索敵士には、見える人が必要です。」


司令部士官は呆れたように椅子へもたれた。


「君は、自分専用の艦隊でも作るつもりか。」


美鈴は答える。


「斬光は、そういう艦です。」


その一言で。


最終的に、司令部は折れた。


数日後。


軍港。


朝霧の中。


巨大艦影が静かに停泊していた。


『斬光』。


通常空母とは明らかに異なる。


双刃のように突き出た艦首。


異様に広い艦体。


鋼鉄の塊のような胴体。


そして。


ゆっくりと回転している飛行甲板。


港に集まった者たちは、誰もが言葉を失っていた。


最初に口を開いたのは、航空隊長として着任した霧野風間だった。


「……でけえな。」


その一言だった。


風間は煙草を咥えたまま笑う。


「空母ってより、海の化け物じゃねえか。」


その横。


対空防御長は、静かに斬光を見上げていた。


「見たところ、対空兵装のみ。」


低い声。


冷静な観察。


「……防空体制は常時維持ですね。」


「近づけさせる気がない艦だ。」


整備班長は、完全に目を輝かせていた。


「おおおお……!」


工具箱を抱えたまま甲板を見上げる。


「こりゃ整備しがいがある船だぞ、こらぁ!」


「どこまでバラせるんだこの艦ぁ!?」


周囲の整備員たちが苦笑していた。


観測索敵士の女性士官は、静かに艦橋上部を見上げる。


「……この船の目に、私がなるんですか。」


不安と緊張。


そして少しの覚悟。


副長は何も言わなかった。


ただ、回転する甲板を無言で見つめている。


頭の中では既に。


- 発艦効率

- 整備循環

- 人員配置

- 甲板導線


その全てを組み立て始めていた。


最後に。


艦長が斬光を見上げ、大きく笑った。


「ははっ。」


「こりゃ海の要塞だな。」


豪放な声だった。


「腕が鳴る。」


その後ろ。


医務長だけは、冷静だった。


斬光を見上げたまま呟く。


「……この艦なら。」


「運ばれてくる負傷者も、多いでしょうね。」


冷たいほど静かな声。


だが。


それが現実だった。


誰も否定しない。


軍港に、風が吹く。


巨大な回転甲板が低く駆動音を響かせていた。


その音を聞きながら。


美鈴は初めて、斬光の艦橋へ足を踏み入れる。


誰もが異形艦だと思っていた。


だが。


美鈴だけは違った。


彼女には分かっていた。


この艦は。


空を止めないための艦なのだと。


艦橋最前部。


巨大な海を見つめながら、美鈴は静かに命じる。


「――第88機動艦隊。」


「発足します。」

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