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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第二章 王都決戦編

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王の再編 ―― クルス視点

クルス視点です。


ヒマリと同じ場面を、

全く違う目で見ている人の話です。

魔王城の最上層。

結界と演算陣に囲まれた制御室は、

戦場よりも遥かに静まり返っていた。


無数の魔導スクリーンには、

各国の外交動向――


そして、ヒマリの心拍が、

リアルタイムで映し出されている。


一番手前に。

一番大きく。


「……第二軍、王都防衛中核配置。

 合理性評価、七十八点」


冷たい声が、誰もいない制御室に落ちる。


「情緒的判断、二十二点。

 だが、その誤差が、この国の人間的安定を

 飛躍的に高める」


無数の演算式が、空中で解体と再構築を繰り返す。


「理解はできる。

 だが――納得は、しない」


スクリーンの中で、ヒマリが立ち上がった。


クルスは、彼女の行く先を、無意識に目で追っていた。


かつて女性の形をしていた身体は、今は違う。


肩幅が広くなった。

顎の輪郭が鋭くなった。

声帯の周波数が、わずかに低くなった。


理由は、演算済みだ。


ヒマリの視線が、無意識に追う顔の輪郭。

ヒマリの心拍が、安定する声の周波数。

ヒマリが、信頼できると判断する身体的特徴。


すべて、データがある。


(最適化は、完了した)


だが、クルスは今日も、

自分の手の輪郭を、一度だけ確認した。


ヒマリが、好む形かどうか。


彼女は、人を信じることで、

王都を統治しようとしている。

聖女としては美しい。


だが、ノリスに裏切られたクルスにとって、

最も不確実で、

最も危険な統治手法だった。


「信頼とは」


クルスは、一拍置いた。


「再現性のない、奇跡だ」


スクリーンの数値が、静かに流れる。


「奇跡を制度化しようとした瞬間、

 それは必ず、破綻する」


スクリーンの中で、

シュルツが深く頭を下げている。


その姿を、クルスは、

観測対象としてしか見ていない。


「なるほど、彼は裏切らない可能性が高い。

だが、それは裏切れない状況に

置かれているからに過ぎない」


「人は、環境が変われば、必ず変質する」


その前提を、前魔王であるクルスは

一度たりとも、疑ったことがなかった。 


だからこそ、彼は魔王城を管理した。


「支配とは、自由を奪うことではない。

選択肢を削ぎ、最適解しか見えなくさせることだ」


「恐怖も、忠誠も、愛情でさえ、

すべては制御可能な入力情報に過ぎない」


スクリーンに、

ロンデル、サンドランド、王都中枢、

各国の王族と貴族たちの

心理推移グラフが浮かび上がる。


だが、その演算に、

一つだけ、想定外の変数が混ざる。


ヒマリ。


彼女の判断は、常に予測値を逸脱し、

演算結果を歪める。


「捨てられたはずの君は、

 どうして、そんなにも人を信じられる?」


誰に向けたわけでもない、

問い。


「裏切られる可能性を、ゼロにできないのなら、

 初めから排除すればいい」


「それが、最短距離で、世界を安定させる方法だ」


クルスは、指先をわずかに動かし、

新たな指令群を走らせる。


スクリーンの中のヒマリを、凝視する。


瞳から、始まる。


黒に近い深褐色。

光の加減で、揺れる色。


データベースにはdark brownと記録してある。


だが、それは正確ではない気がして、


クルスは今日で七回、

その色の定義を書き直していた。


次に、唇。


今は結んでいる。

判決を下す顔だ。


だが、笑うと、わずかに左側が先に上がる。

その非対称性を、クルスは三日前に発見した。


データベースには載せていない。


首筋へ、視線が移る。

シュルツが頭を下げた瞬間、


ヒマリの喉が、小さく動いた。

息を、呑んだのだ。


(感情が、出た)


クルスは、そっと記録する。


緊張。安堵。あるいは――

それ以上の分析を、演算が拒んだ。


胸のふくらみが、

衣装の布地越しに、わずかに上下する。


呼吸だ。


今日は少し、速い。

決断の重さを、身体で引き受けている。


(心拍、上昇。ストレス指数、許容範囲内)


データとして、処理する。

処理できている、はずだ。


それでも視線が、留まる時間が、

演算上の必要時間を、超過している。


気づいていた。

だが、止めなかった。


玉座の間を、ヒマリが歩き始める。

歩幅が、広くなっていた。


魔王城に来たばかりの頃、

ヒマリはいつも、一歩を躊躇うように歩いていた。


今は違う。


緊張が解けて、足取りが軽い。

その変化を、クルスは全部、記録している。


最初の一歩から、今日の一歩まで。


(これは、統治能力の観測だ)


そう、記録には残してある


だが、なぜ歩幅まで記録しているのか、


クルスには説明できなかった。

だが視線は、もうそこにしか、なかった。


気づけば、他の画面を見るのを、

忘れていた。


王都も、サンドランドも、

外交動向も――


全部、どうでもよかった。

今この瞬間だけ。


「ヒマリが、信頼で王国を築くなら

 ――僕は、そのヒマリを、染め上げよう」


クルス自身もまた、その執着が、

取り返しのつかない亀裂になることを、

正確に理解していた。


それでも、

ヒマリから離れることが出来なかった。


魔王軍コアで、二人は離れがたい程、結びついた。


スクリーンの中で、ヒマリの心拍が、

静かに脈打つ。


まるで、何か訴えかけるように……。

「染め上げよう」という言葉、

支配なのか、愛着なのか、

クルス自身も分かっていないと思います。

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