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ゴミとして捨てられた聖女、魔王と手を組み王国に復讐する  作者: ふりっぷ
第一章 魔王城制圧編

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異常な日常

亡命した将軍シュルツ。

彼の目に映ったのは、

統制も規律もない異常な日常だった。

フェルマー視点:シュルツという亡命者


報告を受けた瞬間、私は彼を「処分候補」に分類した。


元・ブリュード王国第二将軍シュルツ。


前線指揮、兵站管理、兵の損耗抑制――

いずれも一級。


優秀な亡命者ほど危険なものはない。

選択を誤ったときの破壊力が違う。


ヒマリは「一人で会う」と言い張った。

私は記録水晶を操作しながら、男の経歴を洗い直す。


不自然なほど、整っている。


武功誇示がない。

私怨による粛清がない。

部下の損耗率が異様に低い。


英雄でも、狂人でもない。


ただ、削られながら生き残ってきた男だ。


こういう人間は危うい。

次に何を信じるかで、世界の形を変える。


私は間者の可能性も考えた。

だが決定的に違う点が一つあった。


――彼は、何も要求していない。


地位も権限も、情報も。

忠誠の証明すら、自ら差し出さなかった。


亡命者とは本来、信用と引き換えに何かを渡す生き物だ。


だが彼は違う。


疲れ切っている。


逃げたのではない。

壊れる前に立ち去ったのだ。


ヒマリが通した理由も理解できる。


彼女は浄化の時、直感でポイントを変える。

そして今回も外していない。


私は監視名簿に彼の名を記し、優先度を一段下げた。


代わりに注記を残す。


――

「支配すれば壊れる。

 だが放てば、最も長く残る」

――


扱いづらい。

だが、最も価値がある。


それが、シュルツという男の評価だった。



シュルツ視点:魔王城の内部


目を覚ましたとき、鐘は鳴らなかった。


号令も、起床ラッパもない。


それなのに、拠点は静かに動いている。


廊下を何かが滑っていった。


……雑巾?


違う。ゴーストだ。


その上に腹ばいで乗ったヒマリが、片手を振る。


「おはよーございまーす……」


「何をしているのですか」


「掃除」


即答だった。


「歩けばよいのでは?」


「昨日走り回ったから疲れてて」


意味がわからない。


だが彼女はそのまま、すい、と曲がり角へ消えた。


私はしばらく立ち尽くした。


――常識が通用しない。


だが、空気は穏やかだった。



食堂らしき部屋に入ると、さらに異様だった。


長机の上に、食事が並んでいる。


だが配置が雑だ。


鍋、パン、果物、干し肉、薬草茶。

統一感が一切ない。


しかも――


「毒見はしたのか?」


「してないよ?」


答えたのは、ヒマリだった。


彼女は湯気の立つ椀を両手で持ち、

のんびりと椅子に腰かけている。


「危険では?」


「んー。たぶん大丈夫。残飯食べてたし」


「残飯?」


「ゴミ捨て場に結構落ちてたよ」


私は言葉を失った。


「あなたはこの城の主ではないのか……」


「まだ、中層の魔物をようやく説得できたところ」


「では、余計に危険ではないか。配下となって日も浅い魔物に

 料理を作らせるとは」


「料理得意な子もいるんだよ。毒と薬、紙一重らしいし」


理屈としては理解できる。

だが、理解したくない。


隣では、包帯だらけの男が普通にスープを飲んでいる。


「人間もいるではないか……平気なのか?」


「腹は壊さないのか」


「三回に一回くらい。でも慣れる」


慣れる?


軍では食事は秩序だった。

時間も席も役割も決まっている。


ここには何もない。


それでも、不満は聞こえなかった。



朝食後、ヒマリが言った。


「今日ね、やることある人は勝手にやっていい日だよ」


「任務は?」


「ない」


即答だった。


「では、敵襲があった場合は?」


「そのとき考える」


あまりに無防備だ。


軍人としての感覚が、悲鳴を上げる。


「それでは組織として――」


「今はこれでいい」


ヒマリはあっさり言った。


「ずっと命令で動いてきたでしょ?

 だから今は、自分で動く練習」


私は言葉を失った。


忠誠も、命令系統も、罰則もない。


それなのに――

人は、ここにいる。



外に出ると、さらに奇妙だった。


鍛錬場のはずの場所で、

剣を振っている者と、昼寝している者と、

なぜか花を育てている者が混在している。


サキュバスが叫ぶ。


「踏まないでよ!ヒマリ様に花飾り作るんだから!」


「鍛錬上でやるな!」


「ヒマリ様がいいっていってるの!」


口論になりかけて、

最後はなぜか笑って終わる。


統制がない。

規律もない。

だが、殺気もない。


私は胸の奥に、

奇妙な違和感を覚えていた。



昼前、ヒマリが隣に立った。


「どう?」


「理解できません」


「うん。だと思った」


否定しない。


「ノリスを見ていて思った。縛り過ぎると壊れる」


彼女は外を見つめた。


「下層は怯え、中層は支配に慣れすぎてる。

 いま支配を強めると、どっちも離れてく」


軍事理論とは逆だ。


「危険な思想だ」


「でも人も魔物も少しずつ増えてるよ」


軽く笑う。


「ノリスみたいに遊ぶよりはマシでしょ?」


胸が、わずかに痛んだ。



その夜。


私は寝床で目を閉じながら、考えていた。


勝敗より、納得を重んじる主。


ここは、軍ではない。


だが――


「……居心地が、悪くない」


それが一番、恐ろしかった。


かつて私は、

正しさのために剣を振るった。


次に、勝利のために振るった。


では今は?


まだ答えは出ない。


眠りに落ちる直前、ふと思った。


もしノリス様がこの光景を見たら、

きっと鼻で笑うだろう。


いつでも滅ぼせると。


だが――


この遊びの時間を経て、方向性を見出した時、

軍としての強度はむしろ増しているのではないか。


そう思いながら、私は目を閉じた。


この異常な日常が、

私の身にも変化を及ぼし始めていた。

シュルツの視点で、ヒマリ陣営の今を描きました。

次は、物語が動き出します。

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