営業メール
これは会社員のSさんから聞いた話だ。
Sさんは地方の工場を回る営業職だ。
ある日の午後、外回りから戻ると、1通のメールが届いていた。
件名は、
「ご提案資料送付の件」
送り主は知らない会社だった。
営業をしていると、こういう飛び込みメールは珍しくない。
Sさんも気にせず開いた。
「この度は弊社製品をご紹介したく、ご連絡差し上げました。
貴社のお役に立てると考え……」
そんなありふれた文章が続いている。
ところが途中から急に文字化けした。
「蕁璽錙璽匹・錣・蠑γ娘・輓┯・紊砲弔覆・襦・螢好箸里匹鵑淵拭璽殴奪箸・・劼両ι覆里匹海北ノ呂魎兇犬銅・蹐忙蠅襪里・鯤・呂靴討修譴鮖楮・箸靴禿験・靴討い・海箸膿卦・亮・蹐鯀・笋垢海箸・任」
英数字と記号が延々と並んでいる。
「なんだこれ、バグか……?」
そう思って、閉じようとした。
その時だった。
文字化けの中に、1行だけ読める文章があった。
『これは読めますか』
一瞬、ぞっとした。
営業メールにそんな文章が入るはずがない。
もう1度、読み返す。
最初は普通の営業文。
途中から文字化け。
さっき見たようなメッセージは確認できなかった。
気味が悪くなり、そのメールは削除した。
数日後。
同じ会社から、またメールが届いた。
件名も同じだった。
「ご提案資料送付の件」
開いてみる。
やはり途中までは普通の営業文。
そして文字化け。だが今度は、その読める1文が少し長くなっていた。
『これだけ読めれば充分です』
Sさんは反射的に振り返った。
もちろん誰もいない。
そのまま、急いでメールを閉じて、削除した。
その後、暇なときにSさんは署名欄の会社名を調べてみた。
帝国データバンクにも載っていた会社だった。
しかし、数年前に倒産している。
もちろん、その会社のホームページも残っていない。
電話番号も使われていなかった。
送り主の名前で検索しても、それらしい人物は見つからなかったという。




