おーい
茨城の釣り人から聞いた話。
深夜から早朝の港ではたまに変な声のようなものが聞こえる。
声のようなものというのははっきりおーいとは聞こえないぐらいだからだ。
何かの反響、あるいは聞き間違い、そのぐらいの音が聞こえる…ような気がする。
おそらく付近の小山の方から聞こえるような気がするのだが、どうにもはっきりしないし特に何があるわけでもないので誰も確かめなかった。
だが、誰も気にならないものを調べようとする人がいて、「俺が確かめてくる!」と言ってしまった。
せっかくなので声のする方に歩いて行くと、山の中腹あたりに着いた。
やはり特段何もない。
「おい」
急に後ろからおーいではなく、「おい」とはっきりと低い男性の声で聞こえた。
すごい威圧感で確かめてはいけないような、そんな気がした。
とりあえず振り返らずに家に帰ろうとするのだがその間も、
「おい、、おい、、おい」
と繰り返す。
しつこく繰り返す言葉にだんだん腹立たしくなった男は、振り返ってしまった。
が、やはり特段何もない。
その間も耳の後ろからあの声が聞こえる。
「おい」
次第に寝てる間も枕から聞こえるようになり、精神科に行ったところ統合失調症であろうと宣告され、今では薬漬けだという。
妖怪が先か、精神病が先か、とりあえずその声がしたとしても決して気にしないことが暗黙の了解になった。