第1章
蛍火夜千は高校一年生らしく学校に向かう――そんな姿を見てビルの屋上で少女は微笑む。
目は宝石のように綺麗な碧眼に絹のように綺麗な金髪を腰まで伸ばしている俗に言う美少女である。
年齢は十五か十六才。
夜千と同じ位の歳だろう。
「折角治してやったんだから、その命大切に使ってよ」
小さく呟く。
と、
夜千が思いっ切り鼻からずっこけた。
少女は目を見開いて夜千に怒鳴る。
「今言った所なのに! 今言った所なのに!」
夜千は鼻血が出たのかティッシュを鼻に詰め込みながら鼻を押さえてよろよろと歩き出した。
少女は闇のように黒い二メートルはある鎌に乗る。
少女は夜千を見ながら、嫌な想像をしてしまった。
「心残 (ハク) にもしかしたら……」
ちょっと、あの男の子に着いてた方がいいかな? そう結論づけて魔女の竹箒よろしく鎌で空を舞った。
夜千を治す為に使った力の残り滓で歯を食いしばって――空を舞った。 ◆ 蛍火夜千、十六才+原付免許+原付+夏休み+バイト=旅行。
そういう事で長年の夢――『独りで旅に出よう! 俺のぶらり旅』計画 (名前は今考えた) を授業中に思案中。
夢の出来事はもう頭の片隅に追いやっている。
今は計画を作る事に忙しいのだ。
「蛍火」
シャープペンシルを走らせる。
「蛍火!」
(熱海? いやいや、高知? ってバイクで行けんのか? 自然があって温泉とかあって、んでから)
ガツン! 脳天に拳骨が落ちた。
頭がクラリとした。 窓からこっそり覗いていた少女が先生に対して、
「私が助けた命に何て事をををを!」
と憤慨していたのは余談である。 「痛てぇぇ。つーかあのやろー! 『独りで旅に出よう! 俺のぶらり旅』計画をみんなに読み上げやがってぇぇ!」
何時ものメンバーに愚痴る。
眼鏡と秀才そうな顔が印象的な特技一杯山本貴文 (たかふみ) 。
赤い髪をした自称不良気取りの池龍也 (いけりゅうや) 。
料理が得意な黒髪黒目の坂本達樹 (さかもとたつき) 。
紅一点。料理が壊滅的に駄目な工業高校のクラスのアイドル――小金井麗奈 (こがねいれな) 。
そして、強制イベント発生でコイツらと仲良くなった蛍火夜千。
これが何時ものメンバーである。
麗奈がズイ、と少し吊り目気味な大きな黒目で夜千を睨む。
夜千は麗奈をじろじろと見やる。
瞳は何時も通り、少し吊り目気味な大きな綺麗な黒の瞳。
ニキビ一つないきめ細かな肌。
鼻はちょうど良い形というか大きさというか――まあ、何時も通りだ。
そして唇。
ふっくらとしていて、柔らかそうな唇――に口紅でしてある。
ノーメイク、ノーファッションを主にしていたあの色気零のクラスのアイドルが一体どうした事か。
しかし、ノーメイクだった奴が急に色気づくなど……。
麗奈はじろじろ見られている事に我慢の限界が来たのかぷいと顔を逸らして素っ気なく言う。
「昨日、何で駅前に来なかったのよ。約束したでしょ? 買い物付き合ってくれるって」
昨日? と、夜千は思いだそうとして――思考が混乱した。
(え? 何で、布団で寝てたんだっけ?)
ゾッと背中が急に寒くなった。
氷を急に背中に付けられたように。
化け物。
殺された。
刺殺。
そして、
ブラックアウトする寸前に見た気がした謎の怪人物。
現実を見たくなくて夢という事にしていたのかも知れない。
それこそ本能で、これは知ってはいけない『現実』だと分かったからこんな簡単な真っ先に気付く筈の謎を保留にしていたのかも知れない。
得体のしれない緊張感でカラカラになった声で言う。
「わりぃ。忘れてた小金井」
麗奈は無理やり怪訝そうな顔を作り押し殺したように嬉しそうな声色で言う。
「蛍火。顔真っ青よ? 約束忘れた位で大袈裟な」
そうだ。
俺は――学校の帰り道。
化け物に殺された――!




