51.導かれた二人
フラミンゴがヒルケット村に戻ってきたのは明け方だった。げっそりやつれた顔のフラミンゴはガナッシュの顔を見るなりその場に倒れた。「・・・ね、寝かしてくれ。つ・・かれた」限界まできていたようである。
「フラミンゴさん、帰って来たんだって?」
マーカスがガナッシュに訊ねた。「明け方帰ってきました。とても疲れてるようですので寝かせてもらっていいですか?」ガナッシュはフラミンゴの荷物を抱えながらマーカスに言う。「構わないよ。すごい成果だね、それ。さすがフラミンゴさんだ」マーカスはガナッシュが持つフラミンゴの荷物を指さした。
「きっと取引に成功したんだ。うんうん。すごい、すごすぎる」
「マーカスさんはフラミンゴさんに何を依頼したんですか?」
「僕はフラミンゴさんなら薬を手に入れることができるって期待を込めて言っただけなんだけど、まさか本当にゴルドバ村長が取引してるブツを手に入れてくるなんて思いもしなかったよ。やっぱ商人の中でも一際有名な方なだけあるね」
浮足立っているマーカスが「ホアンナ、お茶を淹れてくれ」声さえも踊らせてリビングへ向かう。ブルーノの家なのにホアンナが淹れるのか?と疑問に思ったが、まるで自分の家のように勝手をしている姿にそんなの今更のようにも思えた。
「さすがにフラミンゴさんが寝てる間に拝借、とはいかないよね?」
「さすがにマズいでしょう。窃盗みたいなもんですよ」
「だよね。フラミンゴさんが起きるのを待とうか」
マーカスはホアンナが淹れたダージリンティーを飲む。とても美味しそうな顔をする。それとも機嫌がいいだけか?ガナッシュはマーカスから視線を外さず、自分も出されたダージリンティーに口を付けた。
「・・・少し、聞いてもいいかい?」
「・・・なんですか?」
「君とフラミンゴさんは一体どういった関係なんだい?」
「私が師事しているんです。フラミンゴさんは行商人としては名が売れてますから」
「とはいっても君の父君は貿易商人だよね?大量の品を船に積み、海を渡り他国へ赴く。内容も規模も全然違うじゃないか。あえて別の人物を師事するのは父君への反抗かい?」
「フラミンゴさんが尊敬に値する人だからです。規模なんてものは関係ありませんよ。私はフラミンゴさんの人柄と商売をする上での信条に胸を打たれたんです」
「・・・うん、それはなんとなくわかるかな」
ホアンナがスコーンをテーブルに置いた。すぐさまマーカスがそれに手を伸ばす。ホロっと零れたくずが服の上に落ち、それを手で払った。
「僕も医者をやっているから色んな人の内面を見てきてる。あの人は素直な人だよ。けど、内に秘めた闘志のようなもので相手を蹴散らすパワーを持っている。苦労してきたんだろうな」
「マーカスさんにも似たような部分がありませんか?」
「僕?」
「のらりくらりと人を躱しているように見えて、本当は人の心に触れたがってますよね。けど心に触れてしまえば余計な心労を増やしてしまう。それを避けてるのでしょうか」
「・・・・・。」
「あえて内側には入らない。医者ってそういうものなのかもしれませんけど」
ガナッシュもスコーンに手を伸ばした。少し柔らかめのスコーンは歯を立てるとくずが零れ落ちそうになる。スコーンの下に手を添えてくずが服の上に落ちないように気を付ける。
「・・・意外と君も素直なんだね」
「・・・・・。」
「嫌そうにしないでくれよ。褒めてるんだ。表情を変えないから何を考えてるのかよくわからないけど、君にとって一緒にいる仲間の存在は何よりも大切なものなんだっていうのは痛いほど伝わる」
「ごめんね」ガナッシュから目を逸らして謝罪するマーカスの真意がわからない。何に謝っているのか。心当たりが多すぎる。
**
ロゼはウェストと一緒に農作業を手伝っていた。剣山のように針が数十本立ったところに麦の穂を引っかけて穂を落とす。足踏みペダルを踏みながら、踊るかのように上半身を左右に揺らし、ニコニコ楽しそうに作業するロゼを周りは口を半開きにしながら眺めていた。「わ~、たのし~」リズムを刻むかのように揺れるロゼを見て、次第に周りにも笑顔が波及していく。「なんか新鮮な気持ちになるね。マンネリしすぎて忘れてたよ、仕事は楽しむもんだってこと」作業場には明るい声が広がり始めた。
「働き者だなぁ、ロゼちゃんは」
「楽しいですよ?ビーグルさんもやりましょうよ」
「パスパース。だって俺いつもおっさんやガナッシュ君にこき使われてるもん」
「そうですか?」
「そうでしょ?」
「ビーグルさんは身軽だからお願いしやすいだけだと思いますけど」
「身軽?」
「足速いし」
「それだけ?」
「ほら、ガナッシュさんって割とのんびりしてるじゃないですか。それにフラミンゴさんはそれなりのお年ですし。だからビーグルさんにお願いした方が効率的なんですよ、きっと」
「それを使われてるっていうんだけどね」
「んー?」ロゼは作業をしながら宙を仰ぐ。その後ろ姿を見ていたビーグルはロゼの背後に立ち「ロゼちゃんは、俺のことどう思ってるの?」そっと訊ねてきた。「ビーグルさんは・・・・。」視線を宙に投げなら呟くロゼの言葉に続きが出てこない。
「俺のことなんとも思ってないんだ!酷いや!」
「え!?あ、いや、そういわけじゃないんですけど・・・そうですねぇ、ビーグルさんは年の近いお兄ちゃんって感じかなぁ」
「・・・お兄ちゃん?」
「ガナッシュさんは大人のお兄さんなのでちょこっと緊張しちゃいますけど、ビーグルさんは友達に近い感じです。怒ってもいいし、ぶってもいいし」
「友達の概念間違ってない?」
「なんでも言い合えますしね」
ロゼはビーグルに顔を向けずに作業を続けている。
「・・・ふ~ん。期待した言葉と違うけど、ま、悪い気しないかな」
へへっと笑ったビーグルは穂の詰まった麻袋を持ち上げ仕事を手伝い始めた。「それってロゼちゃんがロゼちゃんらしくいられるのはガナッシュ君より俺ってことだもんね~」脱穀をしているロゼと同じようにビーグルも小躍りをしだす。それを見たウェストが「ほへ~」と変な声を出した。
「君、ウチで雇いたいね。働き者だし、周りだってやる気にさせるし。どう?このままここに嫁がない?」
「嫁ぐ?」
「農家の嫁とか嫌?」
「何ほざいちゃってんの!?しれっと口説かないでくれる!?ロゼちゃんは俺と結婚すんの!」
「はああ?何言っちゃってんですか!?私、結婚しないって何度も」
「お、れ、が、いるでしょ!ガナッシュ君のことはいい加減諦めなよ!あと、ちっこい王子もダメだよ!やだやだ!そんなの面白くない!顔よし頭よし財力よしの三拍子揃った奴なんかに靡くなんてロゼちゃんらしくないんだから!」
「だから!」
手を止めて言い合いを始めた二人に何も言えないでいるウェストと他の作業者たちは眉を垂らしながら笑いだす。「仲が良いんだか悪いんだか」微笑ましい光景をしり目にウェストが麻袋を荷車に積もうとしたところで「お?」と声を出す。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」
ウェストの声にロゼが顔を向ける。「昨日の犬、昼間に見かけるの珍しいけど、君のこと待ってるみたいだよ」ウェストが指さす畑の方向に目をやると、昨日の黒い犬が離れたところでお座りしてこちらを見ている。
「遊んできていいよ。大分手伝ってもらったから」
「いいんですか?」
「うん。けど、気を付けてね。昨日も言ったけど、あの犬、素性がよくわからないんだ」
「わかりました。では、ちょっとだけ遊んできます」
ロゼは着ていたエプロンを外し犬の方へと走り出す。「ああ、ちょっと、ガナッシュ君に怒られちゃうよ?」ビーグルも後をついてきた。すると犬は立ち上がり畑の奥の方へと歩き出す。「え?どこ行くの?」ロゼたちのいる後ろを何度も振り返りながら犬は集落から離れた山の方へと歩いていった。
「どうしよう・・・勝手に山に入っちゃったら、さすがにガナッシュさんにもフラミンゴさんにも怒られちゃうかも」
「うん、怒られると思う。昨日触るだけでもあれだけ嫌がってたし」
「でも、な」
黒い犬はロゼが足を止めると自分も足を止めロゼが来るのを待っているのだ。「魔女の使役って言ってたっけ?危ないにおいすんな~」ビーグルが鼻をくんくんと上下させながらロゼの前に出て犬へと歩き出す。
「ロゼちゃん、そこで待ってて。俺が見てくる」
「え、でも」
「危ないからさ」
ビーグルがロゼを置いて一人先を歩くと、山の方へと歩いていた犬は身体を反転させ、山に背を向けた。そしてビーグルの後ろにいるロゼを覗き込むように顔を横に突き出す。
「・・・・見てる」
「ビーグルさん、やっぱり私も行きますよ」
「ん~~・・・・しょうがないか。確かに今、ロゼちゃんから離れるのよくなさそうだし」
ビーグルがロゼの腕を掴んだ。「手、繋いでいい?」嫌だとは言いづらく、ロゼはビーグルの服の裾を引っ張る。「・・・それはそれで可愛いからいっか。離さないでよ」ビーグルは掴んでいたロゼの腕を離し肩をポンポンと叩く。こんなにお兄さんらしいビーグルを見るのは初めてで変な感じがする。さっきまで同レベルで言い合いしていたのに。
犬はとうとう広大な麦畑からも離れ山の中へ入っていってしまった。「う~ん、ますます危険なにおいがする」ビーグルは今度は鼻を搔き出した。先を歩く犬の後ろをゆっくりついていくと山の中で声が聞こえた。か細い女性の声。すると今までゆっくり歩いていた犬が駆け出した。
「あ・・・」
「どうかした?」
「飼い主さんかもしれません。昨日、そんな話をしたんです」
「犬が人の言葉を理解してると思ってるの?」
「なんとなく伝わってませんかね?」
「そういやロゼちゃんってジンともおしゃべりしてんだよね。多分、一方的なんだと思うけど」
ロゼもビーグルも足を止めず、遠くへ行ってしまった犬の後を追うと今度は人影が見えた。ビーグルが咄嗟にロゼの肩を引き、木の陰に隠れる。突然のことにロゼは反応できずビーグルの胸に顔をぶつけた。それをビーグルは気にも留めず、じっと人影の方向を見つめている。
「ドリュー!よかった!ダメじゃない、勝手にいなくなったら。探したんだよ?」
女性の声は大分幼かった。ロゼよりも若い声に聞こえる。ビーグルが目を凝らして姿を捉えようとするその姿を、ロゼも真似をするように目を細めた。黒い犬に並ぶ少女は推定十歳前後だがモナよりは年上に見える。「ロゼちゃんのちょい下くらい?ってかロゼちゃんいくつよ」自分の正確な年齢は知らない。なぜなら孤児だったからだ。
「あ、ちょっと!引っ張らないで!破れたら大変なの!これ以上ダメにしたら怒られちゃう!」
犬が少女のスカート引っ張ってこちらに向かって来る。「うえっ!来んの!?」ビーグルはロゼの肩を抱いたまま木に隠れ身を潜めたが鼻の利く犬にはあっさりバレ、目の前に飼い主と思しき少女を連れてきた。ドリューと呼ばれた黒い犬は嬉しそうに尻尾を振っている。
「えっ!?だ、誰!?ってか、どうしよう!!ゴルドバさんに村の人以外の人と会っちゃいけないって言われてるのに!」
セバスチャンと同じくらいの背丈の少女は丸い瞳を更に丸くして両手で口を覆う。「誰って、こっちもアンタ誰?って感じなんだけど」ビーグルは少女を睨みながらドリューも睨みつけた。ドリューは相変わらず大きく尻尾を振っている。
「あ、私たち旅の商人でして、ヒルケット村に寄っただけなんです。怪しい者じゃないですよ?」
「ダメなのダメなの!会っちゃダメなの!」
「はいはい、んじゃ帰るわ。俺たち、その犬におびき寄せられただけだし」
ビーグルがロゼを連れて下山しようとするとドリューがロゼの足元に回った。道を塞いでいる。「ドリュー・・?」少女の戸惑いなど気にもせずドリューはロゼの足に擦り寄って甘えだした。昨日はここまで甘えなかったのにどうしてだろう。ロゼは少女に顔を向けた。
「あの、飼い主さんですか?」
「え?」
「昨日、村に下りてきたんで少し遊んだんですよ。それで少し懐かれちゃったのかもしれません。すみません」
ロゼはドリューの頭を撫でて「飼い主さん教えてって言ったの私だもんね。ありがとね」ドリューは嬉しそうに耳をぴくぴく動かした。
「・・・・ドリューが私以外の人に懐くの初めて見た」
「え?」
「元々大人しい子だけど、あまり人には寄り付かないの。どうしたのかな?」
少女が首を傾げてロゼを見る。
「このこ、ドリューって言うんですか?」
「そう、私がつけたの」
「あなたは?私はロゼ」
「ちょ、ロゼちゃん」
「私、ルノ」
「ルノちゃん」
「え!」
「え?」
ルノは頬を赤らめ身体をくねらせた。名前を呼ばれて照れているようである。名前を呼ばれただけで?ロゼはもじもじしているルノの姿を茫然と眺めていると「ロゼちゃん、危機感なさすぎ!この子らはあの怪しいノワイズ村の住人かもしんないんだよ!見た目で油断しちゃダメだよ!」ビーグルに頬をつねられた。ガナッシュなら手加減してくれて痛さを感じないのにビーグルのは痛い。
「そうでしょ?アンタ、ノワイズ村の奴でしょ?」
「ちょ、ビーグルさん!そんな言い方」
「アンタらんとこ最近怪しいことやってるらしいじゃん?あんまり悪いことすると処刑されちゃうよ?」
「処刑!?」
ルノが甲高い声を上げて目を丸くした。口元を覆った手が震えだす。「もう!ビーグルさん!女の子虐めないでくださいよ!」ロゼがビーグルの手をバシバシ叩いたら、ビーグルはまたロゼの頬をつねった。「いひゃっ!」声を上げたら睨まれた。
「アンタらのとこの魔女が悪さしてるおかげでこっちはいい迷惑だよ。悪いことするんなら、もっとバレないようにコソコソやって。んじゃ」
ビーグルはロゼの頬をつねっていた手を離して今度は手を繋いできた。「ビーグルさん!そんな言い方可哀相!」ロゼの声なんかに耳も傾けず下山しようとするビーグルの足を止めるようにドリューがズボンの裾を咥えた。無言のままビーグルが軽くドリューの腹を蹴る。「ビーグルさんっ!!」ロゼは堪らず大声を出した。
「酷いことしないでください!どうして虐めるんですか!」
「関わらないのが身のためだからだよ。世の中は善良な人間だけでできてるわけじゃない」
「ルノちゃんとドリューがなにしたって言うんですか!勝手に悪者だって決めつけないでください!」
「スラムでは何も知らない子供の方が平気で人を殺せる。無知ってそういうことだよ」
ロゼに顔を向けることなくビーグルはロゼの手を引き続ける。ロゼは抵抗するように繋がれた手を離そうと引っ張った。でも力の差で負けてしまう。ビーグルとロゼの足音に紛れてすすり泣く声がした。振り返るとルノが泣いていた。ビーグルに蹴られたドリューがルノに擦り寄る。泣いているルノを慰めるように後ろ足だけで立ち上がり頬を舐めていた。
「ルノちゃん!ルノちゃん、ごめんね!ドリューもごめんね!」
ルノがゆっくり顔を上げる。皺くちゃになった顔でロゼを見つめた。目からは大粒の涙が零れ落ち、唇がわなわな震えている。ロゼは喉の奥がキューと締め付けられた。一気に鼻に痛みが、目頭に熱が宿る。込み上げるものがあった。
「謝って!ビーグルさん謝って!」
「なんでよ」
「ビーグルさんが虐めたからですよ!!」
ようやくロゼに顔を向けたビーグルは無表情で冷たい目をしている。どんな状況でもへらへら笑っていたビーグルからこんなにも冷ややかな目線をもらったのは初めてだった。ひっと息をのむ。
「ロゼちゃん、今、俺が怒ってるのわかる?別にロゼちゃんに怒ってるわけじゃないよ?だってロゼちゃんの性格知ってるし。こうなることは何となくわかってた。だからあの子供がムカつく。言ってたでしょ?村以外の人と会っちゃいけないって。ダメなんだって。それなのに何でこっちを引き留めようとするの?泣き落としをするの?おかしいでしょ」
「それは・・・。」
「俺は早くこの村を出たい。マーカスって奴から離れたい。アイツがフラミンゴのおっさんを利用してるように、ガナッシュ君やロゼちゃんのこともどうにかしようと企んでる気がしてる。そんなの嫌だ。けど、おっさんが黙ってアイツに従ってるのはちゃんと理由があるからなんだってわかってる。なら俺は、俺たちは、今、全力でロゼちゃんを守るしかないんだよ」
ビーグルが両手でロゼの頬を包む。さっきまで痛さを感じるほど強くつねっていたのに、そっと壊れ物に触れるかのように。
「俺にとってロゼちゃんは正真正銘の聖女様なんだ。俺だけじゃない、ガナッシュ君だけじゃない、多くの人たちをロゼちゃんが救ってきたのをこの目で見てきた。たとえその中身が魔女だろうと、やり方が逸脱したものだろうと、俺たちには大事な大事な聖女様だ。だから守らなきゃ。それなのにこのあんぽんたんは人の心配をよそに誰にでも声をかけて近寄っていくから、無理にでも止めなきゃ巻き込まれちゃう。だって、傷つけたくないから。・・・失いたくないから」
ビーグルはロゼの目から少し目線を逸らしている。僅かに震える手は怒りに震えてるようにも見えるし、恐怖に怯えているようにも見える。ロゼは震えるビーグルの手に触れた。
「・・・・・ごめんなさい。心配してくれてるってわかってるのに、私」
「・・・いいよ。それがロゼちゃんだし。俺も、いつもやり方間違うから、ロゼちゃんには怒られっぱなしだったからね」
ふっと短く息を吐き出したビーグルの表情が緩んだ。「・・・うん。俺はよく間違えちゃうんだ」ロゼの頬を包んでいたビーグルの手が頬を撫でるように離れていく。
「どうする?まだいるけど。あの、ルノって奴と犬」
「・・・・・。」
「一度、連れて帰ろうか。あとは頭の回るフラミンゴのおっさんとガナッシュ君にお任せって感じで」
べーっと舌を出したビーグルはいつもの調子でフラミンゴたちに丸投げする。ロゼは小さく笑い「・・・ありがとうございます。ビーグルさん」またビーグルの服の裾を引っ張った。「へへっ、やっぱ可愛いんだよな。結局俺もガナッシュ君と同じで、ロゼちゃんには甘いんだよ」ビーグルは嬉しそうに、だけど少し情けなく眉を垂らすと、ふう、と大きく息をついた。
「おーい、ロゼちゃんに謝れって言われたけど俺は謝らねーぞ!それでもいいならそっちが来れば?俺らはもう行くぞー!」
ビーグルの声に反応したのは黒い犬ドリューだった。耳をピンと立てるとルノのスカートを引っ張って近寄ってくる。やっぱり人の言葉を理解してるんじゃないだろうか。ルノは戸惑いながらもドリューに導かれロゼの隣に並んだ。
「ルノちゃん、さっきはごめんね」
「・・・ううん。でも」
「ビーグルさんは番犬さんなの。ほら、番犬って知らない人に吠えるから」
「犬?」
「そう」
「そう、はおかしいでしょ」
ビーグルが先にヒルケット村へと歩き出した。ビーグルの服の裾を掴んでいるロゼもそれに連なるように歩き出す。「あ・・・あっ」戸惑いながらも小走りでルノとドリューが並んでロゼの後ろをついてくる。
「ロゼちゃん・・・あの・・・。」
「なあに?」
「あの・・・私・・・。」
「うん?」
「ロゼちゃんと・・・仲良く、なりたい」
顔を俯かせてルノが小声で言う。うん、仲良くしよ、とロゼが答える前に「仲良くしていいの?そっちが」ビーグルがロゼの言葉を遮るかのように厳しい声で言った。
「本当はダメって言われてる。村の人以外の人と会っちゃいけないって。・・・でも、ロゼちゃん、優しいし、優しくされたの初めてだし」
ルノは両手で頬を搔くようにして身体をくねらせた。照れているのか、言いづらいだけなのか。どうして村の人以外の人と会っちゃいけないのかな?そう問おうするとルノからその理由を言ってきた。
「私、魔女だから、みんな優しくしてくれないの」




