35.死の山
「ガナッシュさん、みっけ」
フラミンゴに追い出され長屋を後にしたガナッシュを近くの雑木林で見つけた。「お話終わりましたよ。行きましょう」ロゼがガナッシュの腕を引っ張るのにガナッシュは動かない。表情に影を落とし俯いている。
「俺は、何してるんだろうね」
「え?」
「被害者救済をやっているのは俺じゃないのに。国の資金源も坑夫が働いて得たものなのに、貴族に生まれただけで人から感謝されて敬われて頭を下げられて。俺は何もしてないのにね」
「何もしてないことないですよ。・・・・あの、これは内緒なんですけど」
ロゼがガナッシュの耳に顔を近づける。「王女様との結婚は自分たちを守るためなのかもって思うと、文句言わずに仕事しなきゃって言ってる人がいました」小声でロゼが言う。
「ガナッシュさんはいつも自分を犠牲にしちゃうから見えてないだけで、何もしてないことないんですよ。それはみんなわかってますからね」
「ロゼ・・・。」
「みんなみんなガナッシュさんのこと心配してるんですから。それだけ愛されてるってことですよ。そんな顔しないでください」
悲しそうな顔をしてほしくなくてロゼは大きく笑って見せた。口角を上げれるところまで上げて、更に手で無理やり押し上げた。するとガナッシュが小さく吹き出す。変な顔になっていたのかもしれないと、恥ずかしくなって手を下ろすとその手を掴まれた。そして引き寄せられる。ポスンとガナッシュの腕に収まった。
「カッコ悪いとこ見せちゃったや。ごめん、忘れて」
「カッコ悪くなんか」
「ロゼって不思議だな。一緒にいるだけで心が軽くなるんだよね。見てるだけでも癒されるし」
「えっ!?・・・そ、そうですかね!?」
「ははっ、赤くなった」
「な、なってません!」
とは言ったものの顔に熱をもったのは自覚している。まんまと言い当てられたのが恥ずかしくてガナッシュの胸に顔を押し付けて隠した。すると後頭部に大きな手が添えられ更に押し付けられる。もう片方の腕も肩に回り、まるでガナッシュに閉じ込められているようだった。顔を落としたガナッシュの唇が右耳に触れる。ロゼは身動き一つとれない。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ガナッシュに言葉はない。ロゼも息を止めるので精一杯だ。ほんの少しだけ顔を動かすと「・・・もう少しまって」右耳に息がかかる。
「もう少しだけ。気持ちを、整理するから」
「・・・・・・。」
「・・・・・・ロゼ息してる?」
「・・・・・・。」
「してないよね、これ」
ガナッシュが身体を離した。真っ赤な顔を俯かせガッチガチに固まったロゼの頬をガナッシュはくすぐった。飛び跳ねるほど驚いたロゼが顔を上げる。「慣れたらそれはそれで面白くないんだろうけど、さすがに息止められちゃうとね、心配だから」さっきまでの悲しそうな顔ではなく、表情を緩ませてガナッシュは小さく笑っていた。
「よし、行こう。フラミンゴさんに怒られる」
ガナッシュはロゼの手を引き歩き出す。ロゼは真っ赤になった顔を手で必死に扇ぎ熱を冷めさせようとする。ビーグルに見られるとマズい。目ざといビーグルにはすぐバレる。必死に必死に手で風を扇いだ。
長屋に戻った二人をフラミンゴたちが出迎える。ビーグルの顔がニヤついているのをロゼはあえて見ない。「ガナッシュ、ボッツさんに挨拶しろ。元親方として道案内してくれるらしい」フラミンゴがボッツの前にガナッシュを促す。
「・・・ガナッシュ?」
「あ、行商の旅に出ていたときの名なんです」
「はあ、これはまた美味しそうな名前で」
「でしょ!」
ロゼはビーグルから逃げるようにボッツに駆け寄った。「すっごく優しくていい人ですから!それはもう甘いお菓子を食べたあの幸せな感じと似てますから!」ボッツの前でぴょんぴょん飛び跳ねるロゼの後ろで「ふ~ん?」ビーグルが鼻で笑っている声がするのは気のせいだということにしておきたい。
「私に何の気遣いも無用です。ガナッシュと呼んでください」
「・・・・ガナッシュさんよ」
「はい」
「ワシらは心のどこかであなたを憂いておった。親が築いたレールに乗せられ、国の内政よりも外交を任されたあなたはボワイア国のニヘイア家に取り入らざるを得ず、いつかワシらネラルク大公国の民を見限ってしまうんじゃないかと」
「そんなことは」
「ファルガ様によってこの国は繁栄した。その裏側であなた様やアネット様がどれだけ苦しんできたのかは想像もつかぬ。今回の結婚もそう。とうとうここまでボワイアの同盟という名の侵略は進んできたのかと憂いておったんじゃが」
「・・・・・。」
「よき仲間を得ましたな。一人で大国に対抗するにはつらかったじゃろうて。他に兄弟もおらず、頼る者もおらず、心優しきあなた様が苦しむ様は見るに堪えんかった。じゃが、こうやってあなた様を心から慕い助けたいという仲間を得て戻られたこと嬉しく思いますぞ」
ガナッシュは頭を下げるだけで言葉が出ない。「まぁ、致し方ない部分もあるわなぁ。病に苦しむあなた様を救った聖女様ってのはセレスティア様なんじゃろ?そら、ニヘイア家には頭が上がらんよなぁ」溜め息のように零すボッツに「いや違うよ。それロゼちゃんなんだよ?」ビーグルがロゼを指さした。
「は?」
「あ、間違った。ちっこい王子救ったのがロゼちゃんなんだっけ?セバスチャンとかなんとか」
「おいこらビーグル。言いふらすなと何度言えば」
「言いふらしてないよ。訂正!訂正してんの!大事でしょ?」
「いらんことすんな!」
フラミンゴがビーグルの足を蹴る。いつもは頭を叩くのにしっかりヘルメットを着用しているビーグルの頭は守られているからだ。
「ボッツさん、内緒にしてくれますか?実は私の病を癒したのはロゼのおばあちゃんで、ボワイア国の第二王子セバスチャンを癒したのは彼女自身なんですよ」
「・・・・はあ?」
「この世界に聖女は一人じゃない。その一人に数えられるのがセレスティアなんでしょうけど、私たちの知る聖女はこの子なんですよね」
ガナッシュはロゼの手を取り自分の前に立たせた。子供用のオーバーオールを履き、大きくてぐらついているヘルメットを頭に乗せている姿は聖女の名に相応しくない。ロゼは首を大きく左右に振ると、ぶかぶかのヘルメットが落ちて転がった。
「・・・行きましょう。死の山に。聖女に導かれるままに」
**
十年近くほったらかされていた死の山と呼ばれる閉鎖された鉱山への道は大木が生い茂る林道の先で、人の侵入を阻むかのように草木が伸び放題で道とはいえない有り様だった。林道を越えるまでボッツの車椅子は押せずビーグルがボッツを背負うことになった。先にガナッシュが名乗りを上げたがボッツに盛大に拒否され、結果一番の下っ端であるビーグルの役目となった。
伸びている草木をフラミンゴが鉈で切り落として歩を進める。それでも足を捕えようとする草木に何度も躓きそうになった。「・・・あの、ペースが速すぎるんだけど」痩せた老人とはいえ人一人担いでいるビーグルが早くも弱音を吐く。
「なんでこういうときに限ってジンがいないの?万能なお馬さんが」
「まずはルート確保しねぇとケガしちまう。足滑らせて骨折でもしちまったらもうリヤカーを引けなくなるかもしれねぇんでな」
「お馬さんって繊細なのか。ってか俺、完全に馬の格好なんだけど。中腰って腰やっちゃうよね」
片足が根元からないボッツを背負うにも足が持てないのでしっかり背負えない。ボッツが落ちないようにビーグルは上半身を倒し、四足歩行とまではいかないがゴリラのような歩き方をしている。「抱えればいいのに」ガナッシュが言った。「俺の腕が死んじゃう!!結構じーさん重いんだよ!!それに何が悲しくてじーさんをお姫様抱っこしなきゃいけないわけ!?悪夢のようだよ!!」喚くビーグルのケツをボッツは容赦なく引っ叩いた。「グチグチ言わずにさっさと歩かんかい!!」その姿は鞭を打たれている馬のようである。
「・・・・あの、ボッツさん」
「どうした?」
「気のせいかな・・・?木が揺らいでないですか?」
「木が揺らぐ?」
「風がないのにざわざわと揺らいでるように見えるんです。・・・猿?でも一部じゃないし」
「この辺りの山にはもう動物は棲んどらんと思うがの」
ロゼが宙を仰ぐ。他の四人もロゼの視線を追うように顔を上げた。ロゼの言うように木が揺らいでいる様は見当たらない。それなのにロゼはじっと見つめたまま動かない。「何か見える?」ガナッシュが訊ねた。「見えるというか・・・なんとなく聞こえるんですよね」ロゼは宙を見上げたまま呟く。
「嫌がってるのかな?驚いてるようにもしてるけど」
「山の声が聞こえるの?」
「なんとなくですよ、なんとなーく。私は元々山で暮らしてましたし、サンジェルさんに引き取られてからもよく山には薬の原料取りに入ったりしてましたから、なんとなく山の雰囲気が変わるのがわかるんです。木々とか風とか動物たちが色々教えてくれるんですよね。声が聞こえるわけじゃないんですけど」
宙を見上げていたロゼが顔を正面に戻し一歩二歩先を行くと、脇に生えている葉っぱを千切って口に入れた。「にがあっ」と言いつつ吐き出さない。「ばか!何やってんだ!!」慌てたフラミンゴがロゼの手から葉っぱを取り上げる。
「この土地に自生するものを食べて山の懐に入るのを許してもらうの。にっが」
「ばか!!毒だったらどうするんだよ!!」
「私お腹強いから大丈夫」
「そういう問題じゃない!!」
フラミンゴがロゼの行商箪笥から酒瓶を取り出すと無理やり口に突っ込み「口ゆすげっ!」強制的に吐かせた。
「ここはロゼの知ってる山とは違うんだから勝手なことすんなっ!!」
「ごめんなさい」
「~~~ったく!!可愛い顔して謝っても次は許さんからなっ!!ガナッシュ!!ロゼ捕まえとけ!!」
ロゼの行商箪笥やらボッツの車椅子やら荷物のほとんどを担いでいるフラミンゴは、献花用の花だけを大事に抱えているガナッシュに指をさした。ガナッシュは空いている左手でロゼを捕まえた。「ごめんなさい。でも、多分、許してもらえました。ほら」とロゼは人差し指を上に向け空をさす。ガナッシュは上を向かない。ガナッシュが見たところで木が揺らいでるかどうかがわからないからだ。
「ロゼ、フラミンゴさんを怒らせちゃダメだ」
「ごめんなさい」
「俺も肝が冷えた。絶対にこの手は離さないからね」
グッと握られた手に力を入れられた。その強さからガナッシュもフラミンゴと同じように怒っているように感じる。「ごめんなさい」もう一度謝った。口の端に残っている酒を手で拭って顔を俯かせたロゼの頭をガナッシュが花を持っている手で撫でる。「口の中、平気?」握られた手の力とは対照的に優しい声でガナッシュが訊ねる。ロゼは小さく頷いた。「なにかあればすぐに言って」とてもとても優しい声だった。
ボッツの案内に従い林道を突き進む。気づけば足元をさらう草木はなくなっていた。鉈を振っていたフラミンゴの動きが小さい。密集していた木々たちもまばらになり見通しが良くなっていた。空気が冷えた感じがする。ロゼは首を左右に動かしてキョロキョロと辺りを見回したが、動物の気配はなかった。「見えてきたな」ボッツが呟く。見通しがよくなった道の先には、所々に折れた木が転がり、黒かった土が赤みを帯びて茶色くなっていた。
「この先から急に景色が変わるかもしれん。山が・・・崩れたからな」
「土砂が流れたんですか?」
「いや・・・山が、そのままゴトッと落ちるように崩れたんじゃ。一つ崩れたらゴロゴロと次々に」
「中で作業しとった者は全滅。坑道の入り口付近におったワシらは爆風で外に弾き出されて、気が付けば足がなかった。・・・全員爆風で押し出されとったら無事ではなくとも生き埋めになることはなかったかもしれんのにの」ボッツがビーグルの首に回している腕をぎゅっと握った。
「岩塊をどかすことはできなかったんですか?」
「山ごと崩れたからね・・・。更なる崩落の危険性が高くて二次被害を出さないために捜索は途中で打ち切りになったんだ。それから、誰もこの山には触れてない」
ガナッシュの手に力が篭る。ロゼは開けた視界の遠くにある山を見つめた。木が一本も生えておらず、土すらもない禿げた山。崩れて背の低くなった岩山の表面は白い部分を僅かに残し、ほとんどが真っ赤に染まっていた。まるで多くの生き物の返り血を浴びたようで気味が悪い。ロゼはボッツに振り返った。ボッツはずっと顔を伏せている。今まで触れることのなかった負の遺産に怯えているようだった。
足を止めることなく先を進むとボッツのいうように林道の景色が変わった。枯れた草木がしな垂れ、足元も土からゴツゴツした岩へと変わる。不自然に転がっている大きな岩は遠くにある死の山が崩落したときに転がってきたものなのだろう。もう、人が通れるような道はなくなった。不安定な足場は支えがなければ前に進むこともできない。特にボッツを背負っているビーグル、荷物を担いでいるフラミンゴは、全くといっていいほど前に進めずにいた。
「ビーグル、無理をして岩を越えるのは危険だ。君がバランスを崩すとボッツさんがケガをするかもしれない」
「じゃあどうしろっていうの?越えるしかないのに」
「・・・・迂回のルートを探すか」
「無理じゃよ。どこへ行こうと崩れた岩塊が立ち塞がるじゃろうて」
「では、残っている坑道がありませんか?坑道を通ってあの山に近づくことができれば」
「全部水没しとるだろうよ。掘り進めた坑道からは排水が出る。血のように赤く染まった排水は山の麓で池となり、涸れることなく溜まっていく」
顔を俯かせたままのボッツは声を震わせた。「全部、全部ワシらのせいじゃ・・。事故を起こしたのも、仲間たちを助けず放置したのも、山も池も血に染めてしまったのは全てワシらの犯した罪の重さじゃて」ボッツはまるで死人のように力なく項垂れる。
「血、なのかな・・」
ロゼがぽつりと呟く。しばらく立ち尽くしていたロゼが来た道を戻ろうとするとガナッシュに繋がれた腕がピンと張った。
「どこ行くの?」
「山に近づけないので池の方に行こうかと」
「池に?」
「血の色の赤い山と赤い池。・・・本当に血なのかなと」
「本当の血なわけないと思うけど」
「そうですよね。だってもし本当の血なら酸化されて黒ずむと思うんです」
「んん?・・・ちょっとわからないけど」
「血って黒くなるじゃないですか」
「ロゼちゃんがなにやら恐ろしい話をしている」
ロゼとガナッシュの会話にビーグルも入ってきた。「え?なにも怖くないですよ。ビーグルさんもケガしたあと瘡蓋ができますよね。あれ、黒いじゃないですか」身振り手振りを加えようとしているのかロゼがガナッシュに繋がれている手をブンブン振る。
「血って鉄分ですから酸化して黒く・・・?ん?鉄?」
ロゼがゆっくりガナッシュに顔を向ける。口を半開きにしてゆっくり首を捻ると「ああっ!!」と大きな声を出してその場で小さく跳ねた。その声にガナッシュやビーグル、そしてフラミンゴも項垂れていたボッツさえも驚いてロゼに顔を向けた。
「び、びっくりした。どうしたの?ロゼ」
「それ、錆びじゃないですか?ここは金が採れるんですよね!?」
「採れるけど・・・金は錆びないよ?」
「あれ?そうでしたっけ?」
「金は錆びないけど・・・他の金属は」
ガナッシュは顎に手をやり頭を捻った。「錆び?」自問するように呟く。
「ここでは他にも金属が採れるんですか?」
「採れるよ。というか鉱石自体に多くの金属が含まれてるんだ。そこから製錬の過程で何を取り出すかであって、俺たちは価値の高い金とか銀を取り出してる」
「穴を掘ったら金銀財宝がざっくざくってわけじゃないんですね」
「それは・・・埋蔵金とかの話じゃないかな?昔の人が隠した金が出てきたんだろうね」
「へー、俺もロゼちゃんみたいに掘れば金が出てくるんだって思ってた」
ビーグルが口を大きく開けている後ろでボッツが「砂金とかもあるが、まぁ金属は宝石とは違うからの」溜め息混じりに言う。
「ボッツさん、ここから先通れないのなら山を下りてもいいですか?」
「池の方に行くのか?危ないぞ」
「ちょっと確認したいことがあるんです」
ロゼはガナッシュの腕を引っ張りながら来た道を戻る。転がっている岩を辿るようにどんどん山を下りていくと途中で川ともいえない、ほんの少しの水がチョロチョロと流れている場所があった。ロゼはぐいぐいガナッシュの腕を引っ張る。それに対抗するようにガナッシュもロゼの腕を引っ張った。
「ロゼ、危ないって」
「ちょっと見てくるだけです」
「毒が含まれてるかもしれないから危ないよ」
「それを調べに」
「俺が行くからまって」
ガナッシュが思い切りロゼの腕を引っ張る。力に負けて後ろに倒れそうになったロゼの背中をガナッシュが支えた。そして強制的に献花用の花をロゼに渡す。
「危険なことしないでほしい。そういうのは俺がするから」
「でも」
「大丈夫」
ガナッシュがロゼの頭を撫でた。「ロゼは何がしたいの?」優しく訊ねる。ロゼは後ろを振り返った。先を行ったロゼたちにようやく追いついたフラミンゴとビーグルが肩で大きく息をしている姿が見える。
「私の薬箱に注射器が入ってるんです。それで少しだけお水を」
「うん、わかった」
ガナッシュはフラミンゴに近づき行商箪笥を受け取った。それをロゼの前に持ってくるとロゼが注射器を取り出す。針は付けずにシリンジと押し子のセットをガナッシュに渡した。「ちょっとでいいの?」ガナッシュの問いにロゼが頷く。
ガナッシュが水を採取しに行っている間にロゼは薬包紙を取り出して箱型に折った。そこに黒に近い紫色の液を垂らす。
「ガナッシュさん、ここに出してください」
戻ってきたガナッシュにロゼは薬包紙で作った箱を渡した。ガナッシュがゆっくり注射器から水を垂らしていく。黒っぽかった液体が真っ赤に染まった。
「・・・え?やっぱり血?」
「そうじゃないです。でも、これなら」
ロゼは「ビーグルさーん!!」と大きな声を出しながらフラミンゴたちのいるところに戻っていく。
「ビーグルさん、ガナッシュさんのおうちに戻ってローウィンさんにできるだけ多くの石灰石と消石灰をお願いしてきてください。あと、道を整備したいので人を数人貸してほしいと伝えてきてほしいんです」
「えっ!?戻んの!?俺が!?」
「ビーグルさんはワンちゃんだから足が速いはずなんです!」
「理屈はおかしいけど足には自信があるよ。え、でも、俺なの?」
「ビーグルさんしかいない!早く行って!」
まるで追い払うように手を払うロゼをビーグルは拗ねた表情で見つめた。尖らせた口で「犬はご褒美がもらえないと頑張れないんだよ」などと言い放つ。あー、嫌な予感がする。ロゼは顔にありありと出した。
「よし、ビーグル。褒美に金をあげるよ」
「ガナッシュ君はすーぐ金にはしる」
「いらないの?」
「いる!金さえあれば俺だって女の子を喜ばせることくらいできるはずなんだ!」
「まっててね、ロゼちゃん!」お得意のウインクを決めるとビーグルはボッツを下ろして猛スピードで走り去る。それはもう人間とは思えない野性味溢れる姿だった。
「なんだよ、アイツ。急に色気づいて。つーか金の問題じゃなく性格の問題だろ」
「そう言わないでくださいよ。彼だってお年頃なんですし」
「まぁ、色恋に興味なさそうにしときながらロゼもお前の前では照れまくってたもんな。そういうお年頃か」
「ぎゃあっ!!フラミンゴさん!!余計なこと言わないで!!」
ロゼはフラミンゴの口を塞ぎたかったが、赤く染まった液体の入っている折箱を持っているためそれができず、その場で地団駄を踏むしかなかった。
「で?ロゼ。ビーグルを使いに出して何をするつもりなんだ?」
「水を浄化しようと思って」
「浄化?できるのか?」
「多分・・できると思う。水を浄化して綺麗にできたら循環して土も綺麗にできると思うの。やってみたい」
ロゼはビーグルによって下ろされて地べたに座っているボッツの前に屈んだ。ボッツの顔は萎んだように元気がない。「ボッツさん」ロゼは明るい声でボッツの名を呼んだ。
「毒はきっと浄化できますよ。ですから、ボッツさんの心の錆びも落としましょう。きっと綺麗になるはずです」
何を言っているのかわからないといった顔でボッツは目を見開き固まる。その目には薄っすら涙が浮かんでいて、瞳に映るロゼの姿が揺れていた。




