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リコリス魔法商会  作者: 慶天
3章 スタンピード
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マナ

「そういえば店主、先日貸していただいた『接客の基本』だけれど、あれは誰が書いたものなのかしら。」

 アインフォード様とキャロットさん、エイブラハムさんが魔女の銀時計の皆さんを引き連れワイバーン退治に出かけた次の日、店番をメルヒルデ様に任せて私とヘルミーナ様は工房で魔術具について話していました。

 なんとなくヘルミーナ様がメルヒルデ様を巻き込んだのは、私と魔術具についてのお話や、魔道具の作成をする間の店番を確保するためではなかったのだろうかと思うのです。メルヒルデ様、ご愁傷さまです。


「あれはアインフォード様が私のために書いてくださったものです。」

「ふむ…。いや、私はよく下町に来てあちこちの店にも顔を出しているけれど、この店の経営方針は少々変わっているとは思っていたのよ。あれを見て確信したのだけれど、あれは面白いわね!商売の在り方を根底から覆しかねない書物だと思ったわ。それをあの人が書いたの?」


「はいそうですよ。確かにこの街の常識ではないと思うのですが、そこまで変わっているものなのかしら。」

「ええ、流通や価格、それに今まで全く考えられていなかった『顧客満足』という概念が随所にみられるわ。一見して商売人としては失格ともいえるような考え方なのだけれど、長期的な視点から見ると納得できる点も多いわ。でも、なかなか受け入れられないでしょうね。」

「そうでもないですわよ。私が良くいくお店の方も最近は値札を出していますし、このお店に関してはお値段でトラブルが起こることはめったにないですわ。」


「それは興味深いわね。価格とはそれを必要とするもの、それを売るものの価値観で変わるものだと思っていたのだけれど。例えばとても希少なマジックアイテムが一つあったとするわ。それを二人の人が買いたいといったことが起きた場合、高い値を付けたほうに売るのが正解ではなくて?」

「それはそれで正解ですわね。ですが、大量に用意できるものはいつ来ても同じ価格で置いてあったら、買う方は安心してお店に来てくれるのではないかしら。『あの店に行けばいつも同じお値段だから、これくらいお金を用意しておけばあれとこれとまとめて買える。』という計算ができるので、お客様も安心してきてくれます。そして人に勧めるときも値段が正確にわかるので勧めやすいでしょう?それが常連になっていただける一つの処方だと思うのです。まあアインフォード様の受け売りですけれどね。」


「なるほど。では仕入れの原価が変わったとき、同じ値段では利益が下がることはないのかしら?」

「それは十分にあり得ます。農作物などはその典型ですわね。豊作の年は値が下がりますし、その逆もありますわね。大きく原価が変動した時は値を変えざるを得ませんが、さほどでもないときは可能な限り値を変えないようにしています。特にうちで扱うような商品は基本的に相場に左右されませんからね。」

「面白いわ。この本は色々使えそうね。でも今すぐは無理ね。」

 ヘルミーナ様、いえミーナはそう言って何やら考え込んでしまいました。


 ところでヘルミーナ様は私がマーキナの魔力バッテリーをくすねていたことはしっかりお見通しでした。やはり誤魔化せませんでした。

「店主、マーキナの魔力バッテリーの事なのだけれど、小型化をあれ以上進めることはできるのかしら?」

 しかし、ヘルミーナ様はそのことをとがめることはせず、小型化について色々見解をくれるのです。


「いくつか触媒を試そうかと思っています。オートマタというのは本来半永久的に自律行動できなくてはいけません。マーキナはそういう意味ではからくり人形の域を出ていないと言えます。」

「そうするとどこから魔力供給を行うのかしら?そもそも半永久自律とか可能なのです?」


 これがアインフォード様と相談してどうするか悩んだ点なのです。実は半永久自律については、目途が立っているのです。だってついこの間まで動いていたオートマタの実物があるのですもの。

 ただ、それはひょっとするとこの世界の禁忌に当たる可能性があるので、出来るなら誰にも見せたくないのです。


「今のところその方法は確立していません。まずはバッテリーをできるだけ小型化して半永久自律については、ゆっくり研究したいと思っています。」

「そうなのね。てっきり目途が立っているのかと思ったわ。」

 そう言ってヘルミーナ様はニヤリと「お見通しですよ」といった笑顔をなさいました。このお嬢様怖いです。


「それで…。例の2体のオートマタはどこかしら?」

「あう…。やはりご存知でしたのね。」

 とても悪い笑顔をされたヘルミーナお嬢様は早く見せろと私ににじり寄ってきました。

「く、くれぐれも内密にお願いしますわね。」


 オートマタは地下室に隠しています。さすがに店舗に直通の工房では、いつ誰に見られるかわからないので地下室で作業することにしていたのです。

 私はヘルミーナ様を地下室に案内してオートマタの残骸とも言える状態のものを見せることにしました。1体は戦闘ができるほどに状態が良かったので、すぐに修理できると思いますが、もう1体の方はかなりの長期間破壊された状態で放置されていたので、部品によっては腐食が激しいのです。



 行動シーケンスはアインフォード様とここまで何度も話し合ってきました。

 まず、マスターは私とすることが決定しています。オートマタにマスターの設定は必須です。でなければモンスターと変わらないものができてしまうかもしれません。


 しかも状態が良いほうのオートマタもそのまま修理すると、再び襲い掛かってくる可能性が高いのです。

 この双子のオートマタは「ソウル・ワールド」時代の遺物です。一体が破壊され、もう一体が私達を攻撃してきたという事は、この二体が対立する展開になっていたという事になります。もともとこのオートマタはこちらの行動分岐やカルマ値などでどちらの陣営に付くのか大きく変わります。

 つまり、性格や行動倫理などの設定は私が完全に上書きしなくても、まさに人を説得するような方法で理解させることができると思うのです。

 もっともマスターを私に設定する以上私の命令には絶対服従するはずなので、最悪の場合は自由意志を奪う事も可能なのですが。出来ればそのような事態にならないことを祈ります。


 私は出来れば私はこの子たちがこの店の店番ができるようになってほしいと思っています。今回のヘルミーナ様のような方を店員として雇うような事態はそうすることで防げるでしょうし、なにより最近私もアインフォード様と外に行きたいと思うようになってきたのです。

 でもオートマタは年をとりませんし、人々に認知させるにはどうしたらいいでしょう。まあそのあたりはアインフォード様が何とかして下さる、と思いましょう。


 錬金術師にとって冒険は本分ではありません。お父さまも冒険をすることもありましたが、それはあくまで素材を得るためであったり、人助けにしかたなく赴くとかだったり、そういった事の方が多かったと思います。


 それと、これはまだアインフォード様には話していませんが、1年に一度私は人里を離れなければいけない事情があります。今までは人と接触する機会がほとんどなかったので問題にならなかったのですが、ここではそういうわけにはいきません。

 私が私でなくなるその時だけはどこかに監禁でもしておいてもらわないと…。

 一度は危うくクラーラを眷属にしてしまうところだったし…。




 ヘルミーナ様を伴い、地下に降りていきます。二体のオートマタはそこのベッドのようにしつらえた作業台に並べられています。

「これが『双子のオートマタ』なのね。なんというか、子供みたいね。」

 子供のはずのヘルミーナ様がそのような感想をおっしゃいました。ヘルミーナ様よりは大きいのですけれど。

「そうですわね。大きさは全長で150cm程ですわね。」


「それに男とも女ともつかない顔立ちですわね。中性的というか。オートマタに性別はあるのかしら?」

「そのあたりは製作者の意図が反映するところですわね。拘ろうと思えばどこまでも追及できますから。その、そういう意図の女性型のオートマタも作れますわよ。ああ、もちろん男性型も。」

「そういう意図…?」

 そう言って少し考えたヘルミーナ様は急にハッとした表情をし、顔を真っ赤にして、

「そ、そういうことも出来るのね!」

 と横を向いてしまいました。あ、結構かわいいところがありますのね。


「でも、ヘルミーナ様。どうしてそこまでオートマタに拘るのです?」

「オートマタに特別拘っている訳ではないですわ。なんていうのかしら…。興味が尽きないのよ。…ねぇリコリス、魔術って何かしら?」

 思いもよらぬ質問が来ました。魔術とは?

「魔術とは何か?ですか?」

「そう。私には魔術の才能はないわ。残念だけどそれは仕方ないと思うの。でも魔術の才能がなくても魔道具は使えるわ。それは魔道具に作った人の魔力が宿っているからよね。ではその魔力って何なのかしら?」


 魔力とは何か…。魔力とは魔術を使うために存在するポイント、MPですわね。レベルによって増加するステータスの一つです。…でもそれはあくまでも私達の側の認識です。キャロットさんあたりならそのまま言ってしまいそうですが、私はもう少しこの世界の事を知っています。


「サラは魔術師だわ。結構優秀な魔術師なのよ?サラが言うには魔力とは世界中に満ちているマナの事らしいわ。世界中のあらゆるものにマナは宿っており、魔術が使えない私にもあるらしいの。魔術書を読んでもそう言ったことが書いてあったわ。じゃ、なぜ私は魔術が使えないのかしら?」

 それは例えば魔法が使えない戦士にもHPと共にMPが設定されているというソウル・ワールドのシステムと関係あるのでしょうか。


「それは魔力を放出する能力がないから、かしら?」

「そうね。私もそう思うのよ。サラに魔術を発動させることができるように訓練してもらったこともあるのだけど、うまくいかなかったわ。」

「訓練方法はあるのですか?」

「サラに無理矢理考えさせたのよ。」

 なんという無茶ぶりをされるのでしょう。サラさんにちょっと同情してしまいました。


 今まで魔法を使えない人がマナをどう感じているか、など考えた事もなかったのですが、そう言った人はマナを感じることはできるのかしら?


「ヘルミーナ様、私と手を合わせていただけますか?」

 そう言って私は右手の手のひらをヘルミーナ様に向けて差し出しました。

「これでいいのかしら?」

 そう言ってヘルミーナ様は左手の手のひらを私の右手の手のひらに合わせました。

「ずいぶんと冷たい手ね。」

「よく言われますわ。」


「トランスファー・マナ」

 短くそう詠唱すると私の中のMPがヘルミーナ様に移送されます。

「これは…。」

「どうでしょう?マナを感じられまして?」

 他人に魔力を分け与える魔術を使ってみました。通常は魔力切れの魔術師に緊急的措置で使う魔術なのですが、これなら魔力の流れを感じることができるのではないかと思ったのです。

「わかるわ。これが魔力なのね。私のものではない何かが流れ込んでくるわ。でも、なんていうか…、すぐに私の中を通り越して流れ出てしまうような…。そういう感覚だわ。」


 MPが満タンの状態ではそう感じるのでしょうね。

「ヘルミーナ様の体にあるマナは常に満タンの状態ですから、私からマナを移送しても体にとどまることはないのでしょう。でも、マナがどういった感覚のものかお判りいただけたかな、と。」

「そうね。これがリコリスのマナだという事はわかったわ。ずいぶんと温かいものね。」

「温かい…。そうですか、温かかったですか。」


 アンデッドであっても私のマナは温かいのですね。それはとてもうれしい事です。


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