表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リコリス魔法商会  作者: 慶天
3章 スタンピード
49/131

サイド・アインフォード 1 道中

 一方、ワイバーン討伐に向かったアインフォード一行。


 今回依頼のあったハイノ村はヘルツォーゲンから北に徒歩で三日の距離になる。

 アインフォード達一行はヘルツオーゲンの冒険者ギルドからロバ一頭と荷馬車を借り受けて、徒歩でハイノ村に向かっていた。


「ところでアインさんはどうして俺たちを誘ってくれたんですか?」

 アルベルトはアインフォードにあこがれのようなものを持っている。誘ってもらったことは純粋に嬉しかったし、ワイバーンの討伐などこれから自分達だけではいつ受けられるようになるか見当もつかないため、とても興奮していた。


「ええ、アルベルトさん達だと私達も全力を出せますからね。例えばこのバックパックの事だけでも秘密にしなくていいのは助かります。それになにより実力が伴っている方でないとワイバーンは危険ですから。」

 アルベルト達魔女の銀時計はアインフォードやキャロットの事情をかなり踏み込んだところまで知っている。アインフォードが第十位階の魔術を行使したところまで見ているのである。

 それに魔女カタリナの遺品である「銀時計」を持ち、カタリナの遺産を探し求める彼らはアインフォードにとっても重要な情報源でもあったのだ。


「そう言ってもらえると嬉しいわね。やっぱり師匠はわたし達の事買ってくれているのね!」

 御者台の上から魔術師であるエリーザが会話に加わってきた。

 エリーザは17歳の魔術師である。彼女の年齢で第三位階の魔術が使えるというのは極めて優秀であると言える。そもそもが第三位階の魔術を使えるという時点で一流と認定される世界である。


 そのエリーザがアインフォードの事を師匠というのには理由があった。魔術師は位階が上がっても使用できる魔法が勝手に増えるわけではない。しかるべき師匠や魔術院などで教えてもらう必要があるのだ。

 エリーザは第三位階の魔術が使用できるようになった時に、アインフォードからファイヤーボールの魔術を教えてもらったことがある。それ以降エリーザはアインフォードの事を師匠と呼び懐いていた。


 実際、エリーザからすればこれは極めて幸運な出来事であった。第三位階が使用できる魔術師は一流であるためもちろん数が少ない。そして自分の弟子でもないものに魔術を無料で教えるわけがないのである。また大きな街には魔術院があり、魔術を『買う』ことができる。

 当然位階が上の魔術ほど高額になるものであり、第三位階の魔術などそもそも売っていない事の方が多いのだ。

 エリーザがアインフォードの事を師匠と慕うのは今後、魔術を得られるほどの魔力を身に着けても教えてもらえる人物に当てがないから、という極めて打算的な意図も確かにあったのだ。もっともエリーザは本気でアインフォードと結婚したいと考えており、そういう意味での下心もあった。


「魔女の銀時計の皆さんはとても優秀なパーティだと思いますよ。前衛にアルベルトさん、バルドルさんがおり、レンジャーであるドーリスさんが斥候と中衛ができ、魔術師であるエリーザさんに今は治癒術師のクラーラさんが加わっています。これほどバランスが良いパーティはそうそうないのではないでしょうか。」

 アインフォードは彼らの事をかなり高く評価していた。希少な第三位階が使える魔術師がおり、治癒術師までがパーティに加わっていることが奇跡的なのだ。さらにクラーラ以外は永く行動を共にしており連携も非常にうまかった。


「えっへっへー!なんていっても一流魔術師であるこのエリーザさんがいるからね!」

「こらエリーザ、調子に乗るな。」

 アルベルトにたしなめられるエリーザの図はこのパーティの日常であった。


「今回のワイバーン討伐なのですが、単体の依頼であれば私とキャロットだけでも問題なかったのですが、二匹いるとなれば二人では少し厄介でして。共同受注してくれたことに感謝しています。」

 ワイバーン二匹でも倒すだけならアインフォードとキャロットが魔術を自重せず発動すれば問題はないと思われたが、アインフォードの今回の目的は『ワイバーンの翼』の回収である。素材を駄目にしてしまっては意味がなかったので応援パーティを必要としたのだった。


「それに、今回は依頼金額が少ないので、できたらワイバーンの死体を街までもって帰りたいのですよ。皮や鱗は結構な値段になるみたいですからね。」

 アインフォードの言葉にドーリスが反応した。

「えーなんだい?あたしらは人足かい?」

 別に怒って言ったわけではなかったが、アインフォードは慌ててそれを否定した。

「いやいや、人足を雇うのだったらもっと安く済ませられますよ。でも駆け出しの冒険者などを雇ったら、生きて帰す自信がないですから。皆さんなら戦力的にも申し分ないし、何より気心が知れていますしね。」

「そこまで信用されたら頑張らんわけにはいかんわい。がはははは。」

 ドワーフのバルドルは豪快に笑い飛ばし、この場の雰囲気を一気に和やかなものに変えてしまった。


「でもアインさんは魔法のバッグを持っているでしょう?あれにワイバーンの死体は入らないのですか?」

 クラーラはかつてリコリスの棺を丸ごと収納したアインフォードの魔法のバックパックを見た事があった。

「ええ、あれは皆さんが思うほどに便利な道具でなないのですよ。あくまで収納できるのは『アイテム』に限られましてね。生き物は生きていても死んでいても収納できないのです。例えば、『ワイバーンの翼』や『ワイバーンの尻尾』はアイテムなので収納できますが、ワイバーン本体は無理、と言った感じです。」


 実はこのあたりの線引きはアインフォードにもはっきりとはわかっていなかった。「ソウル・ワールド」時代にアイテムとしてカテゴリーされていたものが収納できるものではないかと想像していたが、「ソウル・ワールド」には存在していなかったアイテムでも収納ができるのである。

 しかし収納数は1アイテムに付き9個、15種類に限られる。つまり15種類のアイテムしか持ち運べないため、毛布やテントなどの夜営装備や弓矢などのサブウェポンを収納した場合、ほとんど資材を持ち帰ることができなくなってしまうのだ。


 その対策として今回は荷馬車を借りてきているのである。ワイバーンの死体から腐りやすい内臓を捨て、血抜きをすればこの荷馬車でも何とか持ち帰られるのではないかと考えたのだ。

「皆さんもワイバーンの素材の売り上げは山分けですから、出来るだけきれいな状態で持ち帰られるようお願いしますね。」

「それはだいぶハードルが高いのう。」

 そう言って再びバルドルの高笑いが響いたのだった。




「これで終わりっと!」

 アルベルトはそう言いながらオークの首を切り落とした。

 あたりにはオークの死体が散乱しており、すでにドーリスとエリーザが証明部位である右耳を切り取っていた。今回の襲撃はオークが8匹であった。


「それにしてもここにきてオークの襲撃が多いでやがりますね。」

 キャロットの言葉にアインフォードをはじめ、それが聞こえた者は皆一様に頷いた。

 ハイノ村までのちょうど中間地点と言うべき場所であるが、街道にまでオークが現れることは珍しい。そんな珍しい襲撃がこれで3度目なのである。


「これはまさかと思うけど、『狂化』が起こっているのか?」

 アルベルトは最悪の予想を口にした。最後に狂化が起こったのは100年前である。

「ふむ…。この間わしらが大森林の調査に行ったときにはそんな兆候はなかったがのう。」

「そうね、確かにここは大森林からもそう遠くはないけれど、今日遭遇したオークの数は20匹だからそうとは言い切れないと思うのだけれど。」


 クラーラの言う通り、今日一日で遭遇したオークの数は20匹である。それくらいなら少し街道を外れた森林にオークが集落を作っていることも決して珍しくはない。オークやゴブリンはそれなりに知能もあるので、街道を通る旅人を狙って比較的人に近いところに集落を作ることがあるのだ。

 そのためギルドではオークやゴブリンの討伐は常時依頼として間引きを推奨している。駆け出しから中堅に向かう冒険者たちがよく請け負う依頼である。もちろん無理に討伐に赴き命を落とすものも多いのだが。


「エイブラハム、ちょっとこのあたりを偵察してきてくれないか?」

 アインフォードの頼みにエイブラハムは「クエ」と一言鳴いて空高く舞い上がった。

「エイブラハムちゃんがいると偵察も楽でいいわねー。」

「全くだね。あたしの仕事が無くなっちまうよ。」

 そう言ってエリーザとドーリスは笑いあった。


 実際、エイブラハムは優秀な偵察要員だった。小さな体で空を飛ぶため発見されることもほぼなく、また例え発見され戦闘になってもまず負けることは考えられないのだ。なんといっても魔術師79レベルである。上空からの魔法の絨毯爆撃など、空を飛べない相手からすると悪夢そのものである。


 一行はエイブラハムを偵察に出して、そのまま街道を進み始めた。今日一晩夜営すれば明日の昼にはハイノ村に到着予定である。

 エイブラハムを偵察に出して以降はオークの出現もなく、夜営の準備が終わり食事をとろうかという頃にエイブラハムは帰ってきた。


 エイブラハムの報告を聞く係は大体いつもキャロットである。エイブラハムは人語を話さないが、どういうわけかキャロットとはある程度の意思の疎通が可能なのである。

 一度アインフォードはそれを疑問に思いキャロットに尋ねてみたことがあったが、キャロットにもよくわかっていないようだった。ただ、その時にアインフォードを驚かせたのは「以前からエイブラハムさんとは親交があったので、意思の疎通ができるのではないでしょうか。」という発言だった。


 ゲーム「ソウル・ワールド」のNPCに会話機能はなかった。もちろんNPC同士が勝手に会話を始めるなどありえなかった。どうしてそんな中でキャロットとエイブラハムは親交を結ぶことができたのだ?そもそもゲームの時代からキャロットたちNPCが何らかの自我を持っていたという事が衝撃だったのだ。

 アインフォードはそれを聞いた夜一人で悶えたものだった。(うわぁ…。会社の愚痴とかカタリナの事とか色々キャロットに語り掛けていたぞ俺…。)


 アインフォードがそういったことを思い出して少し悶えているうちにキャロットがこちらにやって着て、エイブラハムからの情報を話し始めた。

「エイブラハムさんによれば、ここから北西に徒歩であれば半日程の所に洞窟があり、どうやらそこがオークの集落になっているようです。しばらく出入りを確認していたところ、おそらく総数で50匹以上いるのではないかとのことです。」

「50匹以上とはこれは捨て置けない事態ですね。ギルドに知らせなければなりませんが、さてどうしましょうか。」

 アインフォードはそう言ってメンバーの顔を見渡した。


「今から誰かをヘルツォーゲンに戻すのも難しいんじゃないかな?一人で向かうのは馬でもないと危険が伴うし、ここまで来てパーティを分けるわけにもいかないし。かといって俺たちがオークの集落を潰すのは…あれ?問題ないのか?」

「おおありでしょ!私達はワイバーンを討伐しなくちゃならないんだからオークなんかにかまっている暇はないわよ!」

 そのままオークの集落を襲撃しようというアルベルトの意見に対し、エリーザは自分たちが受けた依頼の方が優先度が高いと主張した。


 確かに50匹以上の集落の掃討作戦となるとそれなりの準備が必要になる上に、近隣の調査も行わなくてはならない。

「ワイバーンの被害がこれ以上出るのも困るし、やはりパーティを分けて私達がヘルツォーゲンにもどり、アインさん達はハイノ村に行ってもらうのがいいのではないでしょうか。アインさんとキャロットさんがいればワイバーンが村に現れても撃退はできるでしょうし。」

 クラーラはパーティの分割を主張した。確かにアインフォードとキャロットであればワイバーンを撃退するだけなら2体同時でも問題はなかった。しかし、それではわざわざ魔女の銀時計が同行した意味がなくなってしまい、彼らにとってもそれは避けたい事態だった。


 夜営の火を囲みながら彼らの議論は続いていたが、そんな中バルドルがやれやれと言った感じで発言した。

「皆のいう事はどれも一理あると思うんじゃがの、明日の朝にはハイノ村に着くのじゃろ?ならいったん全員でハイノ村まで行くべきじゃろ。ひょっとしたらすでにハイノ村からギルドに連絡がいっているかもしれん。」

 バルドルの言葉になるほどと顔を見合わせる5人。アインフォードとキャロットはそれを少し離れてみていた。

「その上で、もしまだ連絡がいってないのであれば、我々の中で最も移動速度が速いものが連絡に行くべきではないかの。」

「最も速い者って誰よ?」

 エリーザの言葉にバルドルは一度アインフォード達の方を見て、アルベルト達に向き直った。

「そりゃ、エイブラハム殿じゃろ。」

「あ。」

 全員そろって干し肉をハムハムしているエイブラハムを見て、なるほど、と思った。


「どうやら方針は決まったようですね。私もそれが一番いいかなと思います。エイブラハムなら途中でモンスターに襲われることもないし、この中の誰よりも速く移動できますしね。まだ連絡がいってないようならそこで地図と手紙をギルドに送ることにしましょう。」


 アインフォードがそう締めくくってまずはハイノ村に行ってから、という事が決定した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ