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記憶共有的異世界物語  作者: さも
第10章:【生きる】という名の幸運
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第95話:【生きる】という名の幸運

ヤケになっていた...と言われても否定できない。

僕はボロボロになった協会を直した。


鉄がむき出しになっていた教会の壁はミルミルうちに綺麗になり、直す前より綺麗になった。


しかし教会をいくら綺麗にしても、依然ノルヴァ家の感覚は感じない。

僕は受け入れるべきなのかもしれない。


僕以外のみんなが....死んだと言う事実を。


信じたくない。それにこの仮説は突飛すぎる。

シュンの最期の攻撃に僕は耐え抜いたと言う事なのだろうか?


最期のあの攻撃を、僕の無意識が防いだと言うのか?

他のみんなは防げずに、僕だけが防いだと言うのか?


それで僕だけ生き残って...?


「うっ...うっ....おえーっ...ハァ....ハァ....」


手に吐いた自身の吐瀉物を見て、僕は純粋に恐怖した。


【血】。


そりゃそうだ。体にあんな無茶をさせたんだ。こうならない方がおかしい。


シュンのあの自爆技。なんで僕はあれで生き残ってしまったんだ。

僕はシュンに勝ちたかった訳じゃない。

禁忌の書をシュンが作り出したと言うのだから、そのシュンさえ殺せればそれで良かったんだ。


それで...。


気付くと僕は倒れていた。


地面に流れる涙が水たまりのようになっているのを感じる。

鼻水混じりの水たまりを拭き取る元気も残らず、僕の意識はそのままかすれていった。




o0O○O0o0O○O0o0O○


「ねぇ、俊介。起きてよ」


聴き慣れたウザったい声。

でもなんでだろう、僕の今の心境はこの声を心地よいと判断している。


「あぁ、おはよう奈....」


「うわあああああああああああ」


奈恵の顔が半分ほどかけていた。


「いきなり叫んだらビックリするじゃない、どしたの?」


「どしたのってお前...」


奈恵は何事も無かったかのように話を続ける。


「そうだぞ俊介。なんか変なものでも食ったか?」


後ろからトウの声が聞こえた。


「いや、だっ....」


トウは見るも無残な姿で、四肢機能不全の状態で地面に血の線を描きながら這い蹲って近づいてきた。

その姿はゾンビと表現するに語弊が無いレベルだった。


「ほら、これでも飲んで落ち着きなって」


恐怖で俯く僕の目の前に良い香りのコーヒーが差し出された。

美味しそうな湯気とその香りに僕の精神は少し安定し、ありがたく受け取った――――


ピッキーンと、陶器の割れる音が響く。


コーヒーを差し出した人物は馬場さんだった。

口が裂けてる。

彼の左目が僕の目の前で溶けていく。


「うわあああああああああああああああ」


そう叫ぶと、みんなの体が溶け出した。


溶けたみんなが再形成されていく。


シュンだ....。


ハハハハハと言うシュンの不快感を煽る高笑いが響き、死ぬかと思うほどの頭痛が襲った。



o0O○O0o0O○O0o0O○


目が覚めると真っ白で清潔な協会が広がっていた。


「夢...か?」


恐ろしすぎる悪夢。

これからの一生で、僕は何度あんな夢を見るのだろうか。


もう、死んでみるのも悪くないかも知れない...。


大分体の自由が利くようになった。

タオルで自身が出した鼻水混じりの水たまりを拭き取り、溜息を一つ付いた。


その溜息が教会内によく響いた。


良く....響いた。


物凄い孤独。

孤独感だけで死ねそうだ。


ステンエギジスを失った僕に地球に帰る術など当然なく、このバーミアの世界で永住することになるのだろうと覚悟を決めざるを得ない状況に追い込まれている自分を呪った。


ウッドソードは能力の欠点を補った。

しかし欠点が存在しないなんてことは有り得ない。

飛躍的な成長をしたこのウッドソードも、バーミアと地球を結ぶには力不足すぎる。


家も無い、知り合いも居ない。名誉も地位もない。


何も存在しないこのバーミアの世界で友やら尊敬の対象やらの全てを失った僕を、何故運命は生かしておくのだろう。


なんて残酷でクソみたいな運命!


運命...?


待て。


みんな本当に死んだのか?


仮に死んでいたとすると、ミレイ・ノルヴァやマヨイ・ヴァレンとかの神々もあの空間と一緒に【消滅】しているはずだ。


しかし時間は正確に一秒一秒を刻んでいるし、罪の意識も僕の中にちゃんと芽生えている。

善悪の判断はハッキリしている。


そして何よりこのクソすぎる運命。


何処かに神々が生きてる。

だとすれば奈恵達も生きているかも知れない。


離れ離れになっているだけかもしれない。

ノルヴァ家の感覚を感じ無いのは、何か別の原因があるのかもしれない。


そう思うだけで希望が生まれて来る。

僕はまだ動ける。


「覚悟...めいてる...とこ..ろ...悪いんだけどさ」


後ろから声が聞こえ、僕は反射的に音の方向に構えてしまった。


挿絵(By みてみん)


「ミレイ?」


そこにいたのはミレイ・ノルヴァだった。

もうボロボロで、そこには神の威厳も何も感じない程に無様だったが、確かにミレイ・ノルヴァだった。


【ウッドソード】


ミレイ・ノルヴァの破損箇所を一通り治すと、ミレイ・ノルヴァはゆっくりと立ち上がり、そしていつもの貫禄を取り戻した。....ちょっと遅いが。


「貴方の体内時間を戻して、元の健康体の貴方に戻してあげたのはいいんだけど、貴方のウッドソード、まだ能力を付与できる?」


「どうだろうか、ちょっと時止めて見てくれよ」


「そうね」


そう言ってミレイ・ノルヴァが手を鳴らすと、世界が一瞬で色を失った。

時が止まったのだ。


そして僕はそれを認識して、動くことさえできる...。


「使えるみたいだな」


「みたいね」


世界に色が戻る。


「他のみんなは?」


「.....居ないわ」


「は?」


「居ないの...少なくともこの【世界】には」


「待て待て、状況が理解でない。質問が悪かった。生きているのか?」


「【仮死状態】って表現するのが適切かしらね....でも死んでは居ないわ」


「仮死状態....でも生きてるって考えていいんだな?」


「えぇ」


ミレイ・ノルヴァのその応答で、僕の中にあったモヤが一気に晴れた。

これ程清々しい気分はいつぶりだろうか。


【生きる】という事にはかなりの運を使う。

いつどのタイミングで事故に遭うか分からないのと同じで、生きているか死んでいるかっての単純に運がいいか悪いかの2択に限られている。


ましてや命を狙われた状況なら尚更だ。


【生きる】という名の幸運...彼等にそれがあった事に、僕は今。これ以上ない感謝をしている。


本当に....良かった。



後書きから失礼します。【さも】です。


これにて第10章:【生きる】という名の幸運が終わったわけなんですが。

個人的にはこの第10章が一番好きな気がします。


過去に敵だった神々との共闘、俊介の圧倒的成長。しかし力不足。

そんな過酷な状況下でのシュンとの戦闘。


そして【生きる】ということについて考え直した俊介。

そしてみんなを※▼□✖したミレイ・ノル....おっと、これ以上はネタバレになりそうなのでやめておきます。


それでは第11章でお会いしましょう。

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