第68話:バケモノ
恐ろしくも美しい【生】の文字は死の文字とぶつかるや否や、秒もかからぬうちに互いを消滅させた。
ヴィクセンとグリシアは理解できないと言う顔をすると同時に、その場に片膝を付いた。
気付くと僕の後ろに人が居た。
「俊介....貴方本当にシュンそっくりね....」
黒髪、ポニーテールのように見えるが、上の方で中途半端に団子結びしているせいか肩までは髪がかかっていない。
深淵を思わせる真っ黒な眼差しが、ミレイ・ノルヴァとは違った冷酷さを醸し出しており、そのオーラに思わず跪きそうになった。
そうか....彼女が。
「あぁごめんなさい、いきなり現れても困惑するだけよね。私はマヨイ・ヴァレン...【大罪を司る女神】」
「ノルヴァ家の天敵であって面倒事の元凶デッース☆」
その喋り方がどことなく奈恵に似ていてストレスを感じると同時に、ふと彼女の顔立ちに既視感を覚えた。
これがデジャブなのだろうか?
いや、違う。
誰だ?
どこかで見た。僕が生きてきた中のどこかで必ず会っているのだ。
何処で?
それはシュンヤも同じだったようで、何か大事なことを思い出せないと言わんばかりの表情をしていた。
グリシアと初めて会った辺りから神のインフレがどうこう考えていたが、この女神は別格だった。
こいつはミレイ・ノルヴァと【同種】.....長を務める神々だ。
さっきの生の文字もさる事ながら、人間が神に到達しうる力を手にしても勝てないような存在。
バケモノだ。
マヨイ・ヴァレンの表情が急に暗くなり、彼女はヴィクセンとグリシアのところにテレポートした。
「貴方達それでも神よね...?人間の処刑に手こずってどうするの....?」
マヨイ・ヴァレンの威嚇は恐ろしく、言われてる本人でない僕でさえ凍らされた。
背筋からガッチコチに凍らされる感覚。
もしかするとこの女神、ミレイ・ノルヴァより....。
「す、すいません」
グリシアがマヨイ・ヴァレンに対して怯えるように謝罪した。
空気が凍る。
カッチコチに固まった空気に亀裂が入っては凍ってを繰り返し、その空気感の重さから来るプレッシャーに、こちらが負けそうになるほど辺りの空気は重く冷たかった。
「別にいいのよ....現にこうやって俊介君達が死なずに済んだ訳だしねぇ...」
「「「え」」」
この場にいた全員が同じリアクションをした。
マヨイ・ヴァレン以外の全員が同じリアクションをしたものだから、皆顔を合わせあたふたしていた。
「あら?私何か変なこと言ったかしら?」
「僕等はノルヴァ家の分家の人間だぞ?敵対してたんじゃないのか?」
「ミレイちゃんと約束しちゃったからねぇ....」
訳がわからない。
ミレイ・ノルヴァと約束?
マヨイ・ヴァレンがどこかワクワクしたようにそう言うのと同時に、彼女はその場から消えた。
気付くと彼女はライリーの顔面0距離まで近づいていた。
「貴方も相変わらずねライリー。元気そうで安心したわ」
「貴方に心配される程私はやわじゃないですから」
マヨイ・ヴァレンの脅迫にも近い鬼気とした表情に対して冷静に返すライリー。
その余裕はやはり【親子】と言ったところにあるのだろうか。
「あらそう」
気付くとマヨイ・ヴァレンは再びその場から消え、僕等の前に現れた。
さっきからなんで瞬間移動ばかりしているのだろうかと疑問に思っていたが、どうやらそうではないようだ。
彼女は至って普通に【移動】しているだけだった。
その速度に僕らの目はついていけず、彼女が止まって初めて視認出来ていたのだ。
リアクションから察するに、ライリー、ヴィクセン、グリシアと言った神々はその動きを視認できていた様だが、僕等人間にはさっぱりだった。
「ミレイ・ノルヴァとの約束って一体....」
魔力切れの奈恵が怯えながらにそう言った。
そういえばそうだった、奈恵はこの女に腕を一回持って行かれてる。
「あら、その腕治ったのね。これ返そうと思ってたのに」
そう言って彼女は胸ポケットのようなところから奈恵の腕らしきモノを取り出した。
その様はあまりにも【サイコ】じみていて、狂気で表すには表しきれない程に恐ろしかった。
「じゃぁもう要らないわね」
そう言ってマヨイ・ヴァレンの持っていた奈恵の腕は、灰とも塵とも分からない物体へと砂化し、土煙のように辺りに舞っていった。
サッ、サッと砂を払う様なジェスチャーをした彼女は改めて奈恵の方を凝視した。
「貴方さっきグリシアの重力に魔法で対抗してたよね?何処でそんな人間離れした魔法を手に入れたの?」
奈恵は睨むだけで何も話さなかった。
話す気力すら残って居なかったのだろう。
「う~ん....」
気付くとマヨイ・ヴァレンは奈恵の目の前まで言っていた。
彼女が奈恵に手をかざすと、奈恵の体が光だした。
数秒もしないうちに光が引いてゆき、奈恵は不思議そうに自分の手を見つめていた。
「貴方何を...」
「何をって貴方がいつも使ってる【回復魔法】よ。最も貴方が使うモノより遥かに強力なものだけどね」
奈恵は何かを試すかのように地面をコンコンとノックしてみせた。
地面に亀裂が入り、ドスッと鈍い音が辺りに響く...。
奈恵の口がポッカリと開き、驚きを通り越して困惑している様だった。
奈恵はマヨイ・ヴァレンの方を見たが、彼女はイタズラをした子供の様にニヤニヤと笑っている。
「敵意のない証明はこんな所でいいかしら?」
「じゃぁ本題なんだけどね....」
そう言ったマヨイ・ヴァレンの口元は、狂気的に笑っていた。
そしてその眼光は依然冷たく、そしてどこか虚ろだった。




