第61話:妥協のない女
「僕等はヴァレン家と【和解】しなければならなくなるかもしれない」
僕の発言に、皆困惑する。
一番困惑していたのはライリーだった。
そりゃそうだろう。
「僕等は敵を抱え過ぎた。一家を相手にする時点で無謀レベルだったけれども、そこでその一家が恐れる存在とも敵対する事になるなんてもうこれはただの自殺」
「で、でもヴァレン家と和解ってどうやって?」
冬弥の質問はまさに今僕が考えていた所で、答えなんかは一切用意してなかった。
「さぁ?...ただ一つだけ言えるのは、ノルヴァ家とヴァレン家の敵対はお互いを滅ぼすって事さ」
辺りに沈黙が走り、皆思い思い何かを考えているようだったが、数秒もしないうちにライリーが口を開いた。
「無理よ」
重く冷たい言葉を吐き捨てた彼女の目にどこかしら恐怖を感じる。
彼女はヴァレン家との和解を恐れているのだろうか?
「マヨイ・ヴァレンは認めない」
「あの女は妥協を一切許さないの。だからこそ一時的でも和解できるはずがない...それこそ自殺行為よ!」
奈恵が教会に入ってきた。
「大丈夫か?」
「えぇ」
奈恵は元気そうに腕をぶんぶん回した。
首を回してコキコキ鳴らしていたが、そこには女子力の欠片も無かった。
トウが「オッサンかよ」と突っ込んで笑っていたのだが、その笑いがどこか乾いていたのは言うまでもない。
奈恵が椅子に座り、僕等は話し合いを続けた。
「自殺行為か...でも奈恵。お前マヨイ・ヴァレンに注意喚起されたんだろ?」
「え?えぇ」
「これが敵対してる人間のやることか?」
ライリーの自信ななさそうな表情を見て、彼女自身マヨイ・ヴァレンをよく知らないんだなぁと思った。
「彼女の第一印象は?って聞かれれば、みんな口を揃えて【優柔不断な気分屋】って言うと思うわ。でもそれは見せかけの仮面....実際は目的の為なら手段も選ばない【筋通したがり屋】なの」
奈恵との接触もその一貫と言いたいのだろうか?
その可能性だって捨てきれないが...。
でもしかし。
「ヴァレン家と和解するのは【不可能】よ」
僕の左にいつの間にか人が座っていた。
ノルヴァ家の感覚をビンビン感じる。
しかし近づいて来る感覚は一切なかった。
ミレイ・ノルヴァ。
気付くと彼女はそこにいた。
「私だって昔何度か試したよ、でも全部ダメだった。彼女は薄っぺら過ぎるの」
「彼女の嘘は誰にも見破れないし、彼女の放つ言葉はどんな生物に対しても凶器になる。そんな神よ?そもそも和解しようとする行為自体が【不可能】なの」
ミレイ・ノルヴァのその言葉の説得力は言うまでもなく、僕は完全に言いくるめられてしまった。
そもそも存在自体が和解と縁遠い家なのだ...。
【大罪一家の長】
「待て、こんがらがって来た。マヨイ・ヴァレンって大罪一家の長なんだろ?ヴァレン家の長もマヨイ・ヴァレンっておかしくねぇか?」
僕の発言にライリーが睨む。
「変わったの。ヴァレン家自体が変わった。マヨイ・ヴァレンはある日突然ヴァレン家の長の首を飛ばした。当時の長は【隠蔽を司る神】でかなり強かったはずのに彼女はそれを一撃で沈めた。それで出来上がったのが今のヴァレン家って訳」
やっと納得した。
マヨイ・ヴァレンは大罪一家の母であり、ヴァレン家の長なのだ。
納得して尚理解できないその肩書きに彼女のスゴ味を感じざるを得ない。
僕が直接会ったわけではないが、話を聞く限りではかなりのバケモノだ。
「すまなかったな。【ヴァレン家と和解】ってのは忘れてくれ。ただ、シュンの脅威は確実に迫ってる。だからこそヴァレン家との戦闘は出来るだけ控えてくれ」
圧倒的な恐怖を感じる。
肩が壊される程に重い感覚。
心臓をドライアイスで包まれたような感覚。
プレッシャーに殺されると言う言葉を言葉通りの意味で理解したのはこれが始めてだ。
しかしどこかワクワクしている。そんな感覚。
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エルフの禁忌の書探しを再開する事にした。
エルフが消えた理由も分からないままここまで来たが、正直見つかる気がしない。
とにかくヒントを探さなくてはいけないのだ。
ヒント....分かりやすい何かを。
「道端ばっかり見ててもお金はそうそう落ちてないさね」
後ろを振り返るとそこには座敷わらしを思わせる浴衣の少女が居た。
その少女の口元はキュッとしまっており、どこかしら不健康に見えた。
「随分とまぁ殺気立ってるねぇ...まぁ落ち着きなさね」
語尾が随分と特徴的な奴なのは確かなようだが、こいつも神なのだろうか?
「あぁ!自己紹介を忘れてたさね。私はヴィクセン・ヴァレン。【妖しを司る神】さね」
そう言うとその少女の後ろから数本の尻尾が生えた。
なる程。九尾の狐って訳か。
口元は裂けてるかのように笑い、目は隈が濃く、不健康そのもののな見た目こそしているが、妖しを司る女神と聞くとそれも納得できる。
「なんで僕の目の前に現れる神はみんな揃って幼児体型なんだろうね」
「みんな言ってると思うけどアンタよりずっと年上さね。最も、私は意図して体を小さくしてるだけで、普段は...」
彼女の骨格が見る見るうちに成長し、彼女は数秒もしないうちに大人な魅力を漂わせるグラマラスな女性へと変貌した。
目は薄くなっており、尻尾がゆらゆらと揺れ、しかし立ち振る舞いは大和撫子のそれである。
そんな女性。
妖しく光るその眼光に、僕は思わずウットリしてしまった。
その瞬間、彼女の強烈な蹴りは顔面に深く入り、僕は地面に倒れ込んだ。
「この姿だと不意打ちみたいでなんか嫌さね。だから普段は意図して幼児体型で過ごしてるさね」
「でも....」
「アンタ相手ならこの姿でも問題なさそうさね」
彼女がそういうのと同時に僕は立ち上がった。
もうワクワクしてしょうがない。
この神はヴァレン家の人間...ならばこの機会。
グリシアでの無念を払拭する大チャンス!
「アンタ...超気持ち悪く笑ってるさね」




