第49話:暴食のライリー
「ウッドソード」
シュンヤが地面にあった石をドアの形に作り替え、僕はそのドアに鍵を刺した。
扉を開けるとその奥にはバリッシュさんとトウが居た。
僕等は扉に入り、鍵を抜いた。
これでバーミアへの移動は完全に完了。
過去から未来に来るこの計画も、特に邪魔も入らずに来ることができた。
味気ない気もするが、僕等にとっては最高に好都合だ。
「やぁ、おかえりシュンヤ」
トウがシュンヤに向かってそう言った。
冬弥の共有体というだけあって、ホントに女みたいな見た目をしている。
馬場さんとバリッシュさんは嬉しそうに熱い握手を交わしていた。
無言で握手をするその様に【かっこよさ】を感じたのだが、無性にワクワクしているのが僕だけでないようで安心感を覚えた。
しかし奈恵がそうではない事は分かっていた。
そりゃそうだろう。この場にいる全員がペア揃いしているのに、奈恵だけはそうはいか無かないのだ。
彼女の心情を察するだけで辛くなる。
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バリッシュさんの店に皆で来た。
オープンキッチンなカウンター、落ち着いたコルクの匂いが漂う。そんなバー。
前来た時はシュンヤの体だったと言うのもあって詳しく見れなかったが、こうして見ると本当に馬場さんの店にそっくりだ。
……━━カランコロン……━━
鐘の音が鳴り、一人の女性が入ってきた。
金髪のハーフアップ。
ゲルマン系の顔をしているが、この女の正体は分かる。
さっきからノルヴァ家の感覚がビンビン伝わってきてる。
それは他のみんなもそうだったようで、みんな彼女に構え気味だ。
「あーあー。そんなに構えないで。私はライリー【暴食を司る女神】」
ライリー・ノルヴァ。それが彼女のフルネームなのだろうが、暴食を司る女神?
暴食?
「暴食って七つの大罪の?」
「あー、そうね。きっと、んー多分そう」
随分安定しない喋り方するんだな、と内心イラっと来た。
神が司るモノが概念という事は、罪の一部を司る神がいてもおかしくないって考え方で合ってるのだろうか?
「私が来た理由がねー...ミレイの使いっぱしり...んーパシリね!」
そんなドヤ顔で言われても....と言いたくなったが、それより理解できないことが多すぎて困惑している。
「貴方達エルフぶっ潰すんでしょ?なら当然ヴァレン家の連中が来るわけじゃない?で、その護衛役に私がパシられたって訳。ホントあの娘は神使い荒いのよねぇ~」
そう言っているライリーの顔は狂気的...と言うよりサイコパスの【変態顔】をしていた。
きっとこの女はミレイ・ノルヴァに好意を持っているのだろうな、と思ったがこう歪まれているとミレイ・ノルヴァがかわいそうになってくる。
馬場さんがライリーに対して疑惑の目を向けた。
まぁ、その反応が当然なのだが...。
「なぁ、譲さん。あんたがノルヴァ家の人間だってのは分かるんだが、護衛って具体的にどういう事だ?こっちは君を信用することから始めないといけないし、それほど時間は喰えないんだがな」
ライリー・ノルヴァと名乗ったその女神は数秒考える素振りをして、そして狂気じみた笑みを見せてきた。
「護衛...まぁ貴方達の目的がエルフ潰しだって言うんだったら、私も協力するわよ?だって私....」
ライリーの表情はますます狂気度が増して行き、恐怖を感じるレベルにまで到達しようとしていた。
「強いもん」
そう言って彼女は大きく息を吸うと、僕はその息に吸い込まれそうになった。
僕の体から何かが離れるイメージがあったのだが、その正体は純也だった。
ペッ。
ライリーがコーヒーカップに向かって吸い込んだものを吐き出した。
コーヒーカップはカタカタ揺れ始め、何かを訴えていた。
何より恐ろしかったのが、僕の体から純也が剥ぎ取られた事だ。
あんなに結び付きが強くなっていたのにそれをこうもあっさり剥がせるとは思わなかった。
「ウッドソード」
シュンヤがそう唱えると、コーヒカップは陶器の人形となった。
陶器の人形は目鼻口などかなり巧妙に作られており、その人形は数秒もしないうちに動き出した。
「てめぇ...」
陶器の人形の第一声に気味悪さを感じたのだが、これが純也だと思うと不思議と気味悪さは引いた。
「貴方グリシアを倒したんですって?俊介君の体はそんなに使いやすかった?」
ライリーは怒っているのか笑っているのか、その表情や口調からは一切読み取れなかった。
それこそ【気味悪い】と表現するのが適切だろう。
「ライリー・ノルヴァ....お前だったんだな」
「お前だった?」
純也の言葉が理解できず反射的に聞いてしまった。
「大罪一家の長女...【暴食のライリー】」
「あら?もしかして私って有名人?サインしようか?」
「いらねーよ」
純也とライリーのやり取りを聞いてもやはり理解出来そうになかった。
「大罪一家って何なの?」
奈恵が聞いた。
「天界の中でも名のしれた家だよ。実際能力も高くてな、一家揃って罪を司ってる」
「そこの長女がほんの数十年前にノルヴァ家に突然入ったって言うので天界を騒がせてたんだが、なるほどな。それでお前ミレイ・ノルヴァに信用されてなかったのか」
純也のその発言にライリーはピキッと来たらしく、眉間に皺が寄った。
気付くと純也に向かって手刀を落としていた。
【ステンエギジス】
純也が消えた。
___ゴスッ___
「痛っっったい...」
ライリーは机にその手刀を思いっきりぶつけて痛がっていたが、その一連の動作が視認できなかった。
純也の憑依が無くなったせいで身体能力が大幅に下がってしまった様だ....。
これは困った。




