第33話:詰み
「俊介?」
シュンヤが僕の存在そのものを確認するかのように見つめてくる。
僕自身今起こった事を理解できていなかった。
完全に無意識下での行動だった。
しかし、その行動が誰によるものかはよくわかっていた。
(純也...)
冬弥はその場にドサリと倒れこみ、意識を完全に失っていた。
倒れている冬弥に取り付いていたのであろうエルフの影は感じられなかった。
純也が何をしたのか、主導権は僕が持っていたのでは無かったのか等様々な疑問が頭を巡った。
奈恵は相変わらず我を失っており、未だにシニタクナイ...と繰り返している。
冬弥がムクリと起き上がり、まるで記憶でも失ったかのように、あたりをキョロキョロと見回している。
「おい冬弥、ちゃんと意識あるか?」
冬弥は僕を見つめ、頭を悩ませたような顔をしていた。
「大丈夫か?」
「あ、あぁごめんシュンヤ。あれ?俊介?どっち?」
冬弥の記憶は混乱していた。
ただ彼の発言から一つ強烈な違和感を感じた。
冬弥がシュンヤを知っているはずがないのだ。
「なぁ、【禁忌の書撲滅団】って知ってるか?」
「流石に分かるさ....あれ?」
冬弥の記憶は依然混乱したままのようだったが、彼の記憶の混乱の理由にバーミアが関わっている事は分かりきっていた。
エルフに取り憑かれ、バーミアとの繋がりが生まれてしまったのが原因だろうか?
いや...それは考えすぎだろう。
まぁ詳しいことを僕が理解できるはずもない。
情報量が少なすぎるのだ。
「まぁ落ち着け、今日はもう寝ることだな。お前の家まで送ってやるよ」
そう言って僕は【ステンエギジス】を使い冬弥を家まで送った。
記憶の混乱している冬弥にリアリティを与えないと言う目的もあったが、何より見慣れた景色の方が落ち着いて記憶の整理ができるだろうと思ったからだ。
「便利だな。お前のその能力」
「だろ?つっても僕の能力じゃないけどね」
僕とシュンヤのその会話に生気はこもっていなかった。
奈恵の調子が戻りそうになかったからだ。
エルフの話が本当ならば、ナエラは一撃で致命傷を負わされ、ミレイ・ノルヴァはそれを見殺しにした。
それを追体験してしまった奈恵が、今あの有様と言う訳だ。
「おい、起きろ!お前は無事だ。何の怪我もしていないし痛みもないだろ?」
シュンヤの声かけに対し、一切の反応を示さない奈恵。
この状態での最善策が全くと言っていいほどに思いつかない。
奈恵の口からシニタクナイ...という言葉が止まり、奈恵の意識は完全に途絶えた。
先程は仰向けだったからわからなかったが、背中におぶろうとした時に、脇腹に青あざが出ていることにシュンヤが気づいた。
催眠術を使ったタバコの実験のように、ナエラの記憶はあまりにもリアルすぎたのかも知れない。
その青あざはまるで大量出血したかの様な広がり方をしており、奈恵に痛みが伝わっていたのかもしれないと思いぞっとした。
奈恵を家に連れて帰り、親に引き取ってもらう...と言うのは流石に気が引けたので、【ステンエギジス】で部屋まで送った。
僕自身本当に便利な能力をもらったなと思うのと同時に、これからの奈恵に対する心配で頭は埋まっていた。
冬弥は異世界の記憶が入り僕等と同じ状況になるのだろうが、正直これ以上関係者を増やしたくない。
奈恵の家から自分の家に帰る途中、シュンヤはずっと考え事をしていたようで、一言も話さずに帰ってきた。
家に帰ると、そこには先程エルフに取り憑かれた冬弥が荒らしに荒らした部屋が広がっており、僕等は【ウッドソード】でそれらを直した。
これでエルフがこちらにやってくる手段は完全にたたれたのだろうが、それは僕らも同じだ。
ナエラの仇討も、禁忌の書の強奪も出来ない。
完全な詰みという訳だ。
参った。




