第23話:偽物
バーを出て家に戻った。
奈恵はどこかに出かけたようで、部屋には静寂が訪れていた。
存在を司る能力【ステンエギジス】範囲がどこまでなのかが謎だが、感覚的な話をしていいならばかなりのことが出来そうだった。
鉛筆を持ち、能力を唱える。
鉛筆が消える。
もう一度再度詠唱する。
消失点とは別の意図した場所に復活する。
どうやら存在というのは生物に限らないようだった。
エルフがどのようにしてこちらの世界に干渉しようとしているかは知らないが、シュンヤの操り人形化の話が本当なら許せる話ではない。
いや待て、この状態でシュンヤを消してしまえば...それこそその気になればバーミアの存在ごと消せるんじゃ....何を考えてるんだ僕は。
純也を取り込んでから冷酷な考えが優先的に出るようになった気がするのは気のせいだろうか。
しかしこの能力使い方によっては相当便利だ。
実験も兼ねて洗面台に行った。
水道から水を出し、視認できている一部の水の存在を一時的に消した。
コップを用意し、その上に復元させる。
水は落下し、コップの中に入る。
能力を使って水を注ぐことさえ出来た。
視認した一部や、どこからどこまでが存在なのか曖昧な液体でも自由に操作できるようだった。
これは非常にありがたかった。
【存在】の範囲もだいぶ細かく指定できるようだった。
馬場さんの左目の存在を消せたという事は、人間の一部を消し去ることだって可能だろう。
もっと言うなら復元を使用した証拠隠滅だってできる。
成り行きで神から受け取ったこの能力。ちと便利すぎる。
最も僕にそれが使いこなせるとは到底思えないが...。
ただし制限もあった。
手元に復元させた鉛筆を投げる。
能力を唱える。
消えずに投げた先に落ちる。
再び能力を唱える
消える。
どうやら相手が動いている場合は削除が不可能みたいだ。
動きが小さければ話は別だが、大きく動かれると能力は影響外になるようだった。
対人戦闘になった場合これは恐らく大きな弱点となるだろう。
最も、能力を使った戦いなんて真っ平御免だがな。
相変わらずシュンヤからの記憶は戻らない。
シュンヤの記憶を能力で復元しようとしたが、そもそもシュンヤは気絶しているだけで記憶という【存在】が削り取られた訳では無かった為に復元は不可能だった。
待て、とんでも無いことに気付いた。
バーミアと地球。異世界とはいえ、僕等は記憶で繋がっていたせいか近くにいるという扱いになっているようだった。
ならば。だ。
ならばシュンヤの存在を消し、こちらで復元すればシュンヤの保護が可能なんじゃなかろうか?
ダメだ。
記憶で繋がっているというのは確かにデカイが、記憶の共有が途絶えてる現時点で能力を使うことはできなかった。
ドアの開く音が聞こえた。
奈恵が帰ってきたようで、階段を登って来る音が聞こえる。
部屋のドアが空き、コンビニの袋を腕にかけた奈恵と顔があった。
「あなた....誰?」
「それは新手の冗談か?俊介だよ」
奈恵の発言を理解するのに数秒かかった。
どうやら僕は俊介と認識されなかったらしい。
「偽装するならもう少し正確に偽装する事ね」
そう言って奈恵の見せてきたポケットミラーには、目が黄色く光っている僕が写っていた。
目に指をやったが、しっかりと僕の目みたいだった。
その目は純也の目と似ており、口角が上がり気味だったということもあり、雰囲気は完全に純也だった。
そりゃ誤解されるわな。
「いや、しっかり僕だよ奈恵。斎藤俊介。17歳、ここ最近憑依に悩まされている至って普通の高校生」
「いや、それ全然普通じゃないんだけど....まぁ、貴方が俊介だってのは大体分かったわ。で?その目はどういう事?」
なんとか認識してもらえたのだが、主導権はしっかり僕が持っているんだよな?
外見に出てきているとは思ってもいなかったので、僕が本当に心配すべきなのは僕自身じゃないのだろうかとも思えてきた。
「先に一つだけ教えてくれ、ナエラは今何やってるんだ?」
「え?シュンヤと一緒だけど...まだ記憶の共有届いてないの?」
奈恵は驚いた表情でそう言った。




