第19話:悪寒
真っ白な天井。
背中に微かな痛みを感じるせんべい布団。
そんなところで目が覚めた。
夢を見ていた。
それはあまりにもリアルで、アンリアルだった。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
不安を煽り立てる黒い霧。
身動きひとつ取れない重い体。
耳に響き続ける高笑い。
恐ろしい程に不快だった。
体全身が不快感で悶えていた。
霧が微かに薄くなり、辺り一帯がハッキリ見えてきた。
串が円形状に配置されており、それは針地獄を連想させるモノだった。
円の中心には一つ太い針が配置されており、ミレイ・ノルヴァに見えるソレがグッサリと貫通していた。
高笑いをしている人間の顔は逆光でよく見えなかった。
しかし、男は突然高笑いをやめ、こちらを睨んだ。
逆光で顔こそ見えなかったが、その眼光は鋭く僕を貫いていた。
「おめ....とう.....君の.....は....った.......サヨナラだ」
不明瞭でハッキリとは聞こえなかったが、それでもその発言にどことなく安心感を感じた。
しかし次の瞬間。その男はこちらに物凄いスピードで突進してきた。
その速度はとても目で追えるものではなく、残像を見るのがやっとの速度だったが、ほぼゼロ距離まで近づいたところで意識が消え、目が覚めた。
しかし近づかれた時の彼の顔は、狂気じみた笑みを見せていた。
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
「やっと起きた?」
近くに奈恵が座っていた。
体を起こして気づいたが、どうやら家で目が覚めたようだ。
病院で目が覚めたわけではないようなので安心したのと同時に、あの後どうなったのかとても気になった。
「ミレイ・ノルヴァは?」
その発言をした瞬間に奈恵は顔を曇らせて、何かを考えている素振りを見せた。
「もうあの女とは関わらない方がいいと思うの。貴方がどこまで聞いてたかは分からないけど、ミレイ・ノルヴァのミスは私たちで解決できるモノじゃない。ならもういっそのことそのまま放置するのが一番の得策なんじゃない?」
僕が気を失った後彼女等は一体何を話したのだろうか、奈恵の目には、とてつもない絶望と、それに対する現実逃避の気持ちが見えた。
静寂が訪れ、空気はますます重くなった。
「無理だ、ごめん。僕はこの件に既に深入りしている。実際にバーミアだって歩いた。歩いてみて分かったけど、地球とバーミアなんて常識から何もかもが違う世界なのに、僕は全くと言っていい程に違和感を感じなかったんだ。多分幼い頃から彼の【記憶】がバーミアで生きていたからだと思う」
重い空気はコミュニケーションを取る上で最も回避すべき問題だ。
しかし、この場合は違う。
冷静にさせてくれるこの空気感は、僕にとって好都合だった。
「僕はこの憑依の問題を解決したい。ミレイ・ノルヴァの話がどこまで本当か分からないれども、実際問題エルフは実在したし、集落が滅びたあの話も本当だった」
「だから信じると?」
「そう言う訳じゃない、でも...」
僕がそれを言うのを遮るかのように、奈恵は再び顔を曇らせた。
目に驚きの表情が現れて、次の行動に頭を悩ませてるような素振りを取った。
「ねぇ、今シュンヤは何処にいるの?」
突然の質問に困惑したが、記憶を辿ると一つ違和感に気付いた。
「待て、記憶が改竄されてる。あいつチュラル村に行きやがった、エルフに接触したんだよ」
※※※※※※※※※※※※
「なぁ、オタクら禁忌の書って知ってるか?」
当然のことながら、彼らはその書物の存在を知っていた。
リアクションを見るまでもなく、事前の調べでエルフの集落にしっかり代々受け継がれている事を知っている。
そしてほとんどが滅びた今、純粋なエルフの血筋を持った個体がいるのはこのチュラル村だけだという事も知っている。
「禁忌の書を取りに来るなんて運命は存在していなかった、君は【ルール】を破ったんだ」
耳が長く、瞳には円形の虹彩が映っていた。
若く見えたそのエルフの発言には若さを感じなかった。
極度の慎重さと冷静すぎる判断。
かなり長いこと生きていないと出来ないような熟練された思考。
そのどれをとっても人間よりも遥かに優れていた。
「そんな理不尽なルール持ってこられてもねぇ...」
俺だってそこまで軽い考えで生きているわけではない。
ミレイ・ノルヴァと直接対峙したのは俊介だが、その記憶はバッチリこっちにも伝わった。
おかげで狂いそうになったが。
「そうか、だったら言い方を変えよう。君は【勉強不足】だった」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
記憶がこんな中途半端なところで途絶え、それ以上を思い出そうとしても思い出せなかった。
ルールを破ったとは一体どういうことなのだろうか?
シュンヤはエルフに一体何をされたのだろうか?
正直悪寒しか感じない。




