エピローグ1:世界の復元
静寂と共に訪れた色のないこの世界。
全てが吸い尽くされ、残るはこの決戦の土地のみとなった。
この日、全ての終えた俊介は地面に寝転がりただ天を凝視した。
シュンが行った最期の攻撃、25人のシュン。
あの攻撃のおかげで他の時間軸全てのシュンを倒すことに成功した。
呆気なく終わった。
驚く程に呆気なく、そして味気なかった。
それは無達成感と言い換えられよう。
俊介はただ天を見つめ、「あぁ....僕はこんなモノの為に犠牲を払ってきたのか」と思いに耽た。
ムクリと起き上がり、俊介は決意を再び固める。
【ロストブランク】
ミレイ・ノルヴァから受け継いだこの能力。
本来彼女はこの能力を持つ必要は無かった。
彼女が【怠惰】の女神だったからこそ手に入れた能力。
俊介はそれを発展させ、3つ前までの【削除】なら【保存】出来るようにした。
奈恵達からの教訓だ。
ジッ....ボッ!
ライターから火がつく様な音とともに、世界の全てを吸い込んだ暗黒物質が【再出現】した。
その暗黒物質は再び吸い込みを始め、バーミアの大地が滅び始めた。
天界、地球、バーミア。全てを吸い込んだこの暗黒物質。
この大地を吸い込めば、それで全て終わりだ。
【ウッドソード】
その暗黒物質が物凄い力のプラズマを放出しながら凝縮されていく。
飴玉ザイズまでに凝縮された暗黒物質が、手に付着した雪の様にじんわりと溶けていく。
俊介は体に入ったその圧倒的エネルギーに倒れそうになったがなんとか踏みとどまる。
そのままの勢いで、命を振り絞って叫んだ。
【ウッドソード・ロストブランク!】
色すら存在しないこの虚無の世界に色が戻る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお」
俊介の体からプラズマが漏れ出す。
肉体内部から外に引きちぎられる様な感覚に襲われ、俊介は悶絶した。
悶絶しながらも、ただひたすら前を向いて、自分の【やるべき事】を全うした。
バーミアの地盤が色を取り戻すのと同時進行で大地が再び蘇る。
破壊された家々はビデオの逆再生の様に直っていき、緑が数秒もしないうちに生い茂った。
滅びた天界も、地球も。シュンが壊した全てが直っていくのを体で感じた。
凝縮されたエネルギーの放出が終わり、俊介はその場に倒れた。
空が緑色のようで、雲が赤色。
どう考えても地球ではないその世界は、全てを終えた。
━…━…━…━…━…
目が覚めると教会に居た。
「あ、目覚めましたか?」
カメラのレンズボケの様な視界。
ハッキリするのと同時に、僕は驚きの表情を隠せなかった。
「トウ....?」
「あれ?俺の事知ってるんですか?」
数秒の沈黙が走る。
この見た目はどう見たってトウだ。
シュンに一撃で沈められた、あのトウだ。
トウという呼び掛けにも反応した....。
だが....。
「アンタ禁忌の書撲滅団だろ?みんな知ってるさ」
「ハハ、光栄です。でもまぁ禁忌の書撲滅団はかなり前に閉鎖されたんですけどね」
やはりそうだ。彼は僕の事を覚えていない。
そうか....。そうか。
このシュンの脅威を覚えている人間は居ないのだろう。
死んだ人間は、全て蘇った。
だが、蘇った人間はみなシュンの記憶を持たない。
僕だけが持っていて、そして他のみんなはその記憶を持たない....。
はぁ....。
積み上げられたモノが一瞬で崩された様な気分になり、僕は再び意識を失った。
「お、おい?大丈夫ですか?....し....て....さい」
━…━…━…━…
カランコロン.......。
至福の鐘の音がなる。
コツ...コツ....と靴の音が響く床。
カタッと椅子に腰を付ける女性。
バーの店主はその女性の顔を見て驚いた。
「あ...あの、私の顔に何か付いてます?」
「あ、あぁ。すまない。友人にすごく似てたモノでね」
赤い髪。女性とは思えない高身長。
ナエラだった。
「コーヒー一杯頂けますか?」
「コーヒー一杯ですね」
笑顔でオーダーを取る店主。
この老人、バリッシュ・ラロイは物凄く穏やかな内心をしていた。
(俊介。お前、全部終わらせたんだな)
コルクの匂いを漂わせるオシャレなバー。
Bar.雨水。絶賛運営中。
━…━…━…━…
目が覚めた。
トウがその場に居ない。
今がチャンスだと思った。
外に出て【ウッドソード】を発動させる。
地面からドアが出現し、一瞬ドアの向こうが歪んだ。
そしてそのドアを開くと、向こうには【地球】が広がっていた。
その世界に足を踏み入れると、何処からか涙が溢れてきた。
たった数日。
地球を離れたのはたった数日のはずなのに、何か取り返せないものを取り返した様な気分になり、何処からか涙が溢れた。
ただいま。と大声で叫びたくなる気持ちを抑え、俊介はある【事】を確認しに行った。
学校だ。
窓からクラスを覗くと、そこに僕の席は無かった。
ウッドソードで空間を歪ませて職員室の生徒名簿を取ったが、そこに僕の名前は無かった。
どうやら僕そのものの存在が無かった事になっているらしい。
それでいい。
【万物を司る神】俊介。
地上の人間とは関わりを持たない方が、自分のためでありみんなの為なのだろう。