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記憶共有的異世界物語  作者: さも
第11章:記憶共有的異世界物語
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第100話:神話、ミレイ・ノルヴァ

「この呪われた忌娘め!」


男の冷たく怒りに満ちた目がミレイ・ノルヴァを貫く。

ゴーン...ゴーン...と鐘の音が鳴り響き、地面が揺らぐ。


まだ女神で無かったその娘、ミレイ・ノルヴァは贖罪を懇願する顔でその男にこう言った。


「私には宿罪があります。それ故にノルヴァ家に送られてきました....ティアラ家に生れずノルヴァ家に生まれたのは他でもありません....」


「私がティアラ家を【不完全】にする存在だからです」


「だから....だからどうか私をノルヴァ家から捨てないでください」


まだ齢15の少女は、家から追い出さんとするその男に懇願した。

涙を交え、まだ人の温かみを持っていたその少女は自分が背負わされている莫大な責務を理解し、勤勉に果たそうとしていた。


そんな彼女にとってノルヴァ家はとても大切なものだった。


しかし....


「ダメだ。ノルヴァ家はお前の様な忌娘を養うことは出来ない。怠惰の娘らしくダラダラと生き長らえるがいいわ!」


その男の無慈悲すぎる一言に、少女の目からハイライトが消えた。

彼女の中にあった人の温かみが冷まされ、残ったのは豚箱の地面の様に冷たく冷え切った冷酷な心のみだった。


ノルヴァ家を追い出されたミレイ・ノルヴァはその後他の神々のターゲットにされた。


ある家は養子にならないかと申し立て、あるものは禁忌の娘だと殺しにかかり。

自身の宿罪故にあるものは欲を顕にし、あるものは滅さんとした。


そんな過酷な環境の中、彼女は自身の能力に気付いた。


「生物とふれあいたくない」


最初は自分から避けているのだと思っていた。

しかし、そうではなかった。


彼女は自身の能力で。【運命】を操作することで人との出会いを防いでいたのだ。

その運命を乗り越えて彼女に攻撃を仕掛けた神が居た。


弾丸の様なモノが目の前ゼロ距離まで近づいてきて、ミレイ・ノルヴァは自身のもう一つの能力に気が付いた。


気付くと目の前ゼロ距離の弾丸が、そこで綺麗に静止しているのだ。


その弾丸を指でつまみ、方向を変えた。

意識を緩めると時間が再び動き出した。


忌娘、【怠惰】のミレイ・ノルヴァを撃たんとした弾丸は、気付くと撃った神のこめかみに直撃した


血しぶきが空中を舞って、齢18の娘の顔にかかる。

返り血が彼女の顔を流れる。


しかし彼女の表情はにこやかに、そして狂気的に笑っていた。


その後彼女は自身の能力を使って両親を殺した。


万全を期す為に、自分の望んな物事のパラメーターを【0】にする能力【ロストブランク】を身につけて。


しかし実の両親殺しは呆気なく、少女は自身の両親の死に際の顔さえ覚えていない。

ノルヴァ家の長を倒し、自身がノルヴァ家の長となった。


ミレイの出家はノルヴァ家の子達も反対的だったようで、彼女はあっさり受け入れられた。


一番喜んでいたのはニーナ・ノルヴァだった。

彼女は少女を心から尊敬し、信仰する。


しかし、親殺しなどが当然認められるはずもなく、彼女は神々から後ろ指を指される存在になった。

ノルヴァ家はあっという間に汚名に染まり、名前だけで恐れられる悪名高き【悪の家】と化す。


その状況に危機感を感じた少女、齢125のミレイ・ノルヴァは当時の【時を司る神】【運命を司る神】を殺した。


彼女は自身が神になる、更には2つの概念を司る前代未聞の女神になる事で、自身の権力を圧倒的なものにした。


そして齢405の女、時と運命を司る女神ミレイ・ノルヴァはミスを犯した。


【怠惰】の宿罪....。


「あぁ、遂に来たか」


と、彼女は呆気なくその事実を飲み込んだ。

しかし、内心は悔しかった。


悔しくて、悔しくて、泣いた。

ノルヴァ家の人間に見られぬように、誰にも見られぬように、泣いた。


自身が築き上げた権力が、能力が。

昔のトラウマが。


やっとの思いで果たした一転攻勢が。

生まれ持った【宿罪】にて、一瞬に崩れていく様に感じたからだ。


そして実際に崩れていった....。


時間軸は自身が生み出した【シュン】によって何本も壊され、思わぬ犠牲を大量に払う羽目になった。

更には自身が死ぬ気で磨いた能力をあっさり俊介に越えられ、自身のミスに解決を頼むハメになる....。


これ程惨めな事があるだろうか。


ノルヴァ家の名誉はあっという間に【悪名】に逆戻り。

他の神々から「どう責任を取るんだ」と責められる。

挙句シュンによって、ほかの神々にまで莫大な被害が出ている。



━…━…━…━…━…


「そして今に至るって訳」


ミレイ・ノルヴァの目にハイライトは無かった。

完全に死んだ目をした冷たい眼光を飛ばす彼女を見て、僕はなんとも言えない感情を渦巻かせていた。


「だから死んでその能力を僕に引き継がせたいって言いたいのか?」


「身勝手なのは分かってる。でも私の【宿罪】は、私自身の死によって終わる。終わらせなければならないの」


ミレイ・ノルヴァは相変わらず死んだ目をしているが、その奥に【覚悟】があったのは見る間も無く分かった。


「この事を知ってる人はどれぐらい居るんだ?」


「ノルヴァ家とマヨイ....そして貴方」


「他に私の心情を含めた全部を話した人間はいないわ」


「そうか....」


数秒間沈黙が走る。


彼女の話を聞いて、自身の短絡的な考え方を悔いた。


「もっといい方法があるかもしれない」


そんな生易しい事は存在しない世界だった。


ミレイ・ノルヴァは何百年もかけて【覚悟】して来た。

僕はそれを全て受け継がなければならない。


何百年分の覚悟を一瞬でやれ....なんて鬼畜な事を言い出す女神なのだろう。


でもそんな彼女を僕は【心から尊敬】した。


僕の覚悟は依然定まらない。

しかし、今自分が置かれて居る状況は理解している。


僕の死へのカウントダウンも着々と進んでいる。

【神になる資格】を、僕は行使したのだ。

もう覚悟云々言っている時間ではない。


全てを終わらせる。


心は準備するもんじゃない....もうそこに【有る】。

後は、動かすだけだ....。


全てを....終わらせる!

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