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第13話 歪な関係2


 学園と町の境目はあいまいだった。町と一体化している。

 次第に個性豊かな学生たちが目についてきた。人形使いの数が多い。図鑑に載っていたモンスターなど生き物の他、奇抜な造形のマリオネットなど見ていて飽きないが、特に多いのはゴーレムに似たマリオネットだ。


「ゴーレム型が人気あるのか」

「いつの日か、マリオネットに魂が宿って動き出すかもしれない。そんな夢物語を半ば本気で信じた人もいる。彼らの願いは叶うと思う?」


 ゴーレムコアがなければゴーレムにはならない。ゴーレムに関する知識は失われていると見て間違いないだろう。


「その願いは叶わない」


 そう答えると、クオーレは残念そうだった。


「そうだよね。マリオネットが世に出て今日まで、一度たりとも魂は宿らなかった。実は、私もゴーレム型のマリオネットを作ろうと思ってた。考えを改めないと。コアも見つかったことだし、そっちに本腰を入れて――」

「ちょっと待った。コアって?」


 とっさに聞くと、クオーレはいたずらに笑う。


「宝石のような赤い石。やっぱり知ってる?」


 おそらくゴーレムコアだ。どこで手に入れたのか、想像はつく。ゴーレムの城にいたゴーレムのものだろう。


「実物を見てみないと」

「とぼけちゃって。知らないはずがない」


 真偽を確かめるため、博物館へやってきた。ショーケースにマリオネットが並んでいる。そして、一際目立つところにゴーレムコアの一つが安置されていた。

 クオーレがじーっと見つめてくる。


「どう?」


 ゴーレムに関してなるべく秘密にしておくべきだろう。


「どこでこれを?」

「ゴーレムの城。数年前、前触れもなくゴーレムが崩れてしまった。調査が進められて、見つかった城の備品は残らずこの学園に運ばれて保管されてる。それで、あのさ……」


 クオーレは言いづらそうだったが、意を決した。


「これって、ヒロのものなんじゃないの? あの城の主も、もしかして……」


 どこかすがるような目だった。どうしてこんなに思いつめているんだろう。力になりたいが、嘘はつけない。


「……違うよ。言うなれば、俺は盗っ人なんだ。あの城の主からいろんなものを奪ってしまった」


 殺したとまでは言えなかった。言葉を失ったクオーレは、うつむいて落胆した。


 言葉数も少なくクオーレの家へ帰った。クオーレが俺について説明すると、使用人は何も口を挟まなかった。





 それから数日、町で情報を集めた。追い出されることもなく、ずっとお世話になりっぱなしなので、ヒモ状態だ。仕事をしてお金を稼ごうと決意した。

 人形使いの需要はいくらでもあるようだった。まずは農業の組合へ行き、収穫の手伝いを請け負った。


「頼んだぞ、レッド」


 一面の麦畑を前にして、レッドは「任せとけ!」と胸を叩いた。

 ただ歩いてレッドに任せるだけでいい。体力の少ない俺でも人並外れた成果を出せた。

 他にも力仕事は何でもゴーレムがこなした。


「頼んだぞ、ブルー」


 ブルーが根ごと木を引っこ抜いて運んでいく。


「頼んだぞ、イエロー」


 イエローが岩石を持ち上げて運んでいく。


「頼んだぞ、グリーン」


 グリーンが家を建てていく。


 ずっしり貨幣の詰まった袋を手にして、改めて思う。恵まれている。たぶん豪邸に暮らせるクオーレより恵まれている。


 クオーレとの関係はあまり芳しくない。盗っ人だった俺に失望したんだろうか。顔を合わせれば当たり障りのない会話を交わす程度だ。

 そろそろ一人でも暮らしていけそうだが、何かお礼をして、俺とゴーレムについて今後も秘密にしてもらえるよう頼まなければならない。

 とりあえず、このお金で家賃でも払おうと、クオーレの部屋の扉を叩いた。


「どうぞ」


 クオーレは木箱から道具を取り出して鞄に詰めている。俺に気づいて怪訝な顔をした。


「どうしたの?」


 袋を揺らして音を鳴らした。


「これ。居候した分を払おうと思って」

「気にしなくていいのに。自分がどれだけ価値のある存在かわかってる?」


 なるほど、俺を手元に置いておけるだけで十分なのか。


「居候した分ってことは、もう出ていくつもりだった?」

「いつまでも厄介になるのはどうかと思うし」

「いつまでもいて欲しいくらいだけどね。ここ、かなり快適だと思うよ?」

「快適なのは間違いない。邪魔じゃないかと思っただけなんだ」

「そんなことないのに……」


 クオーレは思案した。


「これからどうするつもり?」


 自活のめどが立ってきたし、ダドゥの墓で宣言したような、俺の力を役立てられる生き方を探してみよう。その前に一度シロやサンゴへのお土産を買って帰ろうか、なんて考えにふけっていると、クオーレが痺れを切らした。


「何をするにせよ、学園の卒業生としての経歴があればきっと役に立つ。入学してみたらどう?」

「そんな簡単に言われても」

「ヒロの能力だけでも合格できそうだし、いざというときは私のコネがある。私のおばあ様、学園の教授にして理事でもあるから」


 学園の闇を知ってしまった気がする。裏口入学ってやつか。

 それは置いておいて、魅力のある提案だ。身分証明にも使えそうだ。


「正規のルートで入学できるように頑張るよ」

「よかった。助けがあると何かと楽だろうし、まだここに滞在するってことでいい?」


 孤独に苦労するよりその方が上手くことが運ぶだろう。


「お世話になります」


 入学できたとしても、ろくな学生生活を送れずに時間を喰い潰さないよう心がけないと。


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