第12話 町
グリーンに持ち上げられて空を飛んだ。情けない姿だが楽ちんだ。
クオーレも同じようにイエローに運ばれた。あっちはなんだか様になっている。
「あのさ、モンスターが襲ってきたりしない?」
「フロンティアやダンジョンじゃあるまいし、ありえない。常識だよ」
フロンティアとは未開拓の地域、ダンジョンとはモンスターの潜む場所だったか。でも、そこまで安心できるほどモンスターがいないとは印象と違う。俺の知識はだいぶ古いようだ。
顔を出した朝日が、いつの間にか広がっていた穀倉地帯を黄金色に照らし始めた頃、クオーレは水平線を指差した。
「見えてきた! あれが私の暮らす町!」
大きな湖のほとりの町だ。
俺たちは速度を落として高度を上げた。広大な町を一望できる。クオーレは景色に感動して言葉を失い、俺は高さに怯えて言葉を失った。
町の真上に着くと少しずつ高度を落とした。いかにも金持ちが住んでいそうな豪邸が建ち並ぶ地区に近づいていく。
「まさかここがクオーレの家?」
「うん。まさかって?」
「立派な家だなと思って」
「私の家族が立派な人ばかりだから。本当に感謝してる」
クオーレは神妙だった。家族にプレッシャーを感じているんだろうか。
屋根に降り立つと、クオーレに案内されて窓から室内へこっそり侵入した。クオーレは、扉の向こうの気配をうかがってからこちらへ向き直った。
「ここが私の部屋。この家には他に使用人しかいない。住み込みの人がいるから、まだ勝手に廊下へ出ないでね」
「わかった」
必要最低限の家具が置かれてある部屋だ。荷物を置かせてもらって一息ついた。
クオーレはベッドに座っている。
「あれだけ飛んできて、ゴーレムも疲れたんじゃない?」
「ゴーレムは疲れない。一日中だって飛んでいられる」
そう言うと、レッドとブルーが俺を見つめた。「また飛んでみせてやってもいいけどな!」とでも言いたそうな期待のこもった視線だがとめた。
クオーレは感心しっぱなしだ。
「さすがゴーレム。私よりすごい。
これからのことだけど、しばらく休んでから、またこっそり外に出たいんだけど、いい? 男を連れ込んだと思われないように」
「任せるよ」
休憩中、それぞれくつろいだ。室内を見学するレッドとブルー。壁を見つめるイエローと、それを不思議そうに見つめるクオーレ。彼らを尻目に、俺はグリーンと一緒に荷物を漁って、サンゴから貰った包みを取り出した。
「クオーレもこれ食べない?」
「何それ?」
「友人から貰ったフルーツタルト」
クオーレは笑う。
「友人って。ますますヒロの謎が深まってる」
半分に割って恐る恐るかじった。また悪戯されていたらたまったもんじゃない。
……おいしい。口に広がる香りと甘みで舌がとろけそうだ。こんな美味しいデザートは食べたことがない。サンゴ、腕によりをかけて作ってくれたんだな。
「わ、私にもくれるんだよね?」
夢中で食べていたら、いつの間にかクオーレが近くでよだれを飲み込んでいたので、残った方を手渡した。
頬張ったクオーレは、幸せそうに頬をさすった。
「こんな美味しいデザート食べたことない。ヒロの友人、雇いたい」
雇いたいって発想、さすが金持ちだ。
旅に出てしばらくは外をさまよった末、野宿も覚悟していた。こんな風に誰かと気持ちを共有できるなんて思ってもみなかった。
時間になると、作戦通りに俺はグリーンだけを連れて外に出た。マリオネットを四体も連れていると驚かれるらしい。クオーレと合流して町へ繰り出した。
大通り、市場、広場など、どこへ案内されても人がたくさんいて、目眩がした。ずっと静かな塔で暮らしてきたせいもあるだろう。比較的静かな公園で休憩した。
「どっと疲れた……」
「ヒロは疲れるんだね。ゴーレムのマスターなのに」
「ゴーレムが異常なだけだよ。これからどうする?」
「この町の見どころといったら、やっぱり学園かな」
「学園?」
「スキル学園。私も人形学部に通ってる。行ってみる?」
塔にあった書籍の多くはどこかしらの学者が著したものだった。この世界の学校ってどんなところだろうと想像したこともある。見学できるならぜひしたい。向かうことにした。




